■■双恋華 1■■


「俺と、付き合って下さい」

そんな先輩の一言が始まりだった。

その人は二学年上の高泉(たかいずみ)先輩。
知ってる。
だって有名だもの、双子で綺麗な顔の先輩が居るって…憧れている子も多い。
そんな人がどうして?

不審そうに私が長身の彼を見上げると、高泉先輩は鮮やかに微笑んだ。
「俺の事を知っている?」
「…え…っと…高泉先輩、ですよね」
「どっちの高泉だと思ってる?」
クス…と彼は笑う。
高泉兄弟は、友達の情報によると一人は滄(そう)さんと言ってバスケ部に所
属していて部長、もう一人は浹(とおる)さんと言って三年の学級委員代表で…
ああ、そうだ…浹先輩とは一度だけ話した事があったっけ。
浹先輩は確か、ノーフレームの眼鏡を掛けていたから…
「…滄…先輩?」
「うん、そう」
「…」
私は何だか決まりの悪い感じがして、胸元のネクタイを弄った。
「もしかして、困っている?」
滄先輩は笑う。
「…だって…私、滄先輩の事あまり知らないし…」
「これから知ってよ」
「…」
「バスケ部の方も、もう引退したし…一緒に遊んだりしようよ」
”遊び”と言う言葉に私は顔を上げた。
「あ、付き合うってお友達って事ですか」
「違うね。恋人って事」
「…」
私は再び俯いてネクタイの先端を弄る。
「その反応、お友達って言えばOKっていう事なの?」
「だ、だって…恋人だなんて…」
「ああ、彼氏とかいる?もしかして」
「…いません…けど」
「…ねぇ?律花(りつか)ちゃん」
「なっ…なんで私の名前を知ってるんですか?」
「名前も知らない様な子に交際を申し込むと思うの?」
滄先輩は、ふっと笑った。
「舘捺律花(たてなつ りつか)一年C組。帰宅部、だろ?舘捺って変わった
名字だよね」
「…」
「気持ち悪がられている?もしかして」
「…そんな事はないですけど…」
滄先輩は長めの前髪を揺らした。
「律花ちゃん、付き合おうよ」
私は、ふるふるっと首を振った。
「む、無理です!ごめんなさい!」
この場から立ち去ろうとしたら、滄先輩に腕を掴まれて抱きしめられる。
「せ…せんぱ…」
「…無理だなんて言ったら嫌だな…俺の勇気をフイにするつもりなの?」
「ひ…ゃ…ん…」
耳元で、そっと囁かれて身体がゾクッとしてしまう。
滄先輩が私の背中で指を組む。
「ね…付き合おうよ…俺、律花ちゃんの事好きなんだよ…部を引退したら言お
うってずっと決めてた」
「…好き、なんてそんな…の…だって…私と滄先輩の接点なんてないし…」
言いながらも、滄先輩からはふんわりと良い香りがして、シャツの感触だとか
先輩の体温だとかが堪らなく心地が良かった。
心地良いって言うより、気持ちが良くて…
「時々見掛けて、可愛いなって思っていたよ」
「…時々って…それだけで?」
「うん…それだけで落とされちゃった」
滄先輩はにっこりと笑う。
「遠藤も律花ちゃんは性格良さそうって言ってたし」
遠藤君は同じクラスのバスケ部の人だ。
「…良さそうって、別に普通だし…だから、私は先輩とは付き合えな…」
顔に影が落ちる。
唇に何か、感触が…
思っているうちに唇の間からぬるんっと舌が入ってきた。
私の舌に滄先輩の舌が絡んできて、舐められたり吸い上げられたりする。
「ふぅ…ン…ぁ」
「…律花…言う事を聞いて」
ちゅっと軽く唇を吸い上げられる。
頭の中がくらりとした。
「やっ…先輩の馬鹿ッ!」
私は彼の胸を押してその身体から離れた。
「律花が悪い、俺の言う事を聞かないから」
ごく普通の顔をして滄先輩はそんな風に言う。
「絶対、ぜったい、やっ、付き合わない」
私は今度こそ滄先輩から逃げ出した。

******

「律花ー高泉先輩の呼び出しって何だったのぉ?」
私が教室に帰ると期待たっぷりの表情をして、友達の温子(あつこ)ちゃんが
声を掛けてくる。
「……」
私が黙っていると、遠藤君がにやにや笑う。
「滄先輩に告られたんだろ?舘捺って先輩のお気に入りだからなぁ」
大きな声で言うものだから、教室がざわっとした。
「えー舘捺さん滄先輩に告られたのー!」
「なに、滄先輩って双子の?」
…と、騒然とする。
「え、遠藤君っ」
「そうなんだろ?」
温子ちゃんまで色めきだってくる。
「やーん、いいなぁ律花、高泉先輩と付き合えるなんて」
「あ…温子ちゃん…」
「マジ、高捺さん滄先輩と付き合うの?」
クラスの女の子に囲まれちゃったりして私は困ってしまう。
あー…この人達滄先輩を好きな人達だ…
ど、どうしようっ

「わ、私…保健室、行ってくるっ」

私は人を掻き分けて教室を後にした。
あー…なんか…どうしよう…付き合っても付き合わなくても、なんだか大変そ
うな感じ。

保健室の扉をがらりと開ける。
独特の薬品の香りがした。
養護教諭の先生が振り返る。
「あら、どうしたの?」
「…あの…一年C組の舘捺ですけど…頭が痛いので休ませて下さい」
「そう、今日は暑いからね…前の時間は体育?」
「いえ…」
「じゃあ、熱中症とかではないわね」
先生は空いているベッドのカーテンを開けた。
「アイスノンとか使う?薬は?」
「いえ…いいです」
ぎしっとベッドに腰掛けると、電話が鳴る。
先生は電話の相手と何かを話した後、保健室から出て行ってしまった。
「…はぁ…」
溜息をついて、カーテンを閉めようとすると隣のベッドに寝ているのが滄先輩
だという事に気が付く。僅かなカーテンの隙間から寝顔が見える。
「……」
私はカーテンをぎゅっと握り締めながら、彼の横顔を見つめた。
ただ見つめているだけなら…構わないのに…
傍に居すぎるなんて無理。
付き合うなんて無理。
滄先輩が私を好きなんて…それも変。
可愛いからって…そんなの…何か違う。

ふっと滄先輩が息を漏らして私を見上げた。

「見つめる位なら触れれば?」

彼の手が伸びてきて、私の腕が掴まえられる。
引き寄せられて身体をベッドに押しつけられた。
「滄…先輩…や…っ」
滄先輩が少しだけ瞳を細める。
それから笑った。
「律花…」
「からかうの、止めて下さい」
「…からかう?」
「弄ばれたりそういうの嫌」
「何故そんな風に受け止めるのかな」
「だって、可愛いから好きだなんて言われても私どうして良いか判らない」
「…可愛いから可愛いと言って何が悪い?」
「そんなの、や…」
滄先輩は小さく笑った。
「俺は律花の全部が好きなんだよ、可愛いからって言ったのは取り敢えず一番
言いやすかったから…それで拗ねさせてしまったのならご免ね」
「全部なんて嘘!私は滄先輩の事何も知らないのに、滄先輩が私の事を知って
いるなんて思えない」
「律花、自分が知らないからと言って相手も同じ様に知らないだろうと思うの
は間違っているよ」
滄先輩はそう言って息をつく。
「ああ…だけどやっぱり言っちゃうな…律花は可愛い…君の全部が俺を惹きつ
けてしまうんだ」
私の頬に、滄先輩はそっと手の平を置いた。
「可愛い律花、君を俺の物にしたいよ」
「滄…先輩…」
「好きなんだ」
先刻と同じ様な告白なのに、胸がどきどきして仕方がないのはどうして?
先輩の漆黒の瞳に私が映ってる。
見つめられていると思うだけで、心がどうにかなってしまいそうになる。
「律花…」
滄先輩が私の身体に自分の身体を重ねてくる。
「…律花、君が欲しいよ」
「えっ?」
「抱きたい、今すぐ」
甘く滲んだ瞳で私を見下ろしてくる。
「や…、だって…学校だし…こんな所でなんて…」
「”こんな所で”だからだよ、律花。遊びじゃなくて本気だからリスクを負っ
ても構わないと思うんだ」
「…先生…戻ってくるよ…」
私がそう言うと、滄先輩は隣のベッドの仕切りになっているカーテンと、今私
達が寝ているベッドのカーテンを閉めた。
「あの先生は…寝ている生徒が居る時はベッドのカーテンを開けたりはしない
…寝顔を見られたくない生徒も居る事を理解しているからね」
「…」
「…」
滄先輩は無言で私を見下ろしてくる。
何も言われてないのに、胸がどきどきして膨らんだ気持ちが破裂してしまいそう。
「…律花…好きだよ」
少し低い声で滄先輩が言う。
身体がぴりっと痺れる様な感じがした。
先輩の唇が私の唇の上に短く落とされる。
もう一度、短いキス。
そしてもう一度。
先刻された様なキスがされたくて、思わず滄先輩の唇を追いかけてしまった。
「…俺の気持ちに応えてくれるの?」
「私…どうして良いのか判らない…」
「断らないで迷うという事は、可能性があるのだと思っても良いのかな」
ブラウスの中に滄先輩の手が入り込んでくる。
キャミソールの上からゆったりと胸を揉まれる。
「あっ…せ、先輩…」
「…律花…胸、大きいね…」
「胸の事、言われるの嫌」
「何か嫌な思いでもした?」
「……じろじろ見られるし、痴漢とかに触られるから…凄く嫌」
「そう、だけど…俺は凄く良いと思うな…柔らかくて、触っていて気持ち良い」
「…」
するっとスカートの中に入れていたキャミソールが抜かれて、ブラウスごと捲
り上げられる。
背中に回された滄先輩の指先が、下着のホックをぷちんと外す。
「…あっ…先輩…や…だ…」
「綺麗な胸…興奮する」
そう言って滄先輩は私の胸の先端を、ちゅっと吸い上げた。
滄先輩の唇の感触に皮膚が反応し、快感を私に教えてくる。
「んんっ…」
その快感に身を捩ると滄先輩は小さく笑った。
「少し口に含んだだけなのに…敏感なんだね」
「先輩、私…あぁっ…」
滄先輩は私の先端部の周りを舌先でぐるりと舐め回し、それから実自体をくす
ぐる様にして舌を使った。
やだ…身体が凄く熱い…。
先輩の舌、凄く柔らかくて温かくて…
ちゅっちゅっと何度も吸い上げられてもっと大きな快感が私の中に生まれる。
消化しきれない物が身体を覆っていく様で、頭の中がおかしくなってくる。
じわじわと私の体内から液体が溢れ出ているのは自分でも判った。
濡れちゃってる。
意識すると、その部分まで何かおかしな感じになってくる。
そこの蕾の部分が甘く疼いている様な気がした。
身体の内部が、何かに埋めて貰いたがる様に欲してくる。
欲しい?
何が?
太股に、滄先輩のあの部分が触れる。
硬くて大きい感触に、身体がぶるっと震えた。
「先輩…滄先輩…あぁ…私…」
「俺の…大きくなっちゃってるの判った?」
頷くと滄先輩は微笑む。
「…どう思った?」
「…どう…って…?」
「挿れて欲しい…とか…思った?」
その彼の言葉に身体がぞくっとする。
「さっきから震えているのは怖いの?それとも快感が大きすぎるからなの?ど
っち?」
「…い…いやぁ…」
羞恥心に火が付けられて顔が熱くなる。
「律花…本当に…君は…」
そう言いながら、滄先輩は私のスカートの中に手を入れてくる。
ショーツの上から蕾をくすぐられた。
ほんの僅かな摩擦なのに、身体全部に電気を流された様に甘い痺れが襲う。
指の先やつま先がぴりぴりした。
「先輩…そこ…あぁっ…」
「ここ…気持ち良いよね?俺の指先に湿った感触が伝わってくるのだけど…も
う…準備OKって事なのかな」
そう言って、先輩は私の身体からショーツを抜き取っていく。
つっ…と、直に滄先輩の指先が私の蕾や身体への入り口に触れた。
「…凄いな…あんなちょっとの愛撫でこんな風になっちゃうんだ律花は」
「先輩…もう…嫌…怖い…」
「怖い?何が?」
滄先輩はベルトを外し、ファスナーを下ろすとズボンの前をくつろがせた。
布の中から大きくなっている先輩自身を引き出す。
「してる時…先生が帰ってきたら…」
「律花が声を上げなければ大丈夫だよ」
そう言いながら滄先輩は私の身体の入り口に自分を押しつけてきた。
ぴりぴりっとまた身体の先端が痺れる。
「ああっ…」
思わず仰け反る私の身体を滄先輩が抱きしめる。
「挿れるよ…律花」
「…先輩…お願い…優しく…して…」
「OKって事?良いよ…優しくしてあげる」
ずずっと私と滄先輩が触れ合う感触がして、先輩の硬い物が私の奧へ奧へと分
け入ってくる。
滄先輩と擦れ合うと少し痛い、だけど…触れて沸き上がってくる快感の方が遙
かに大きかった。
「ああっ…ああ…はっ…はぁっ…」
「どう?」
「滄…先輩っ…ああん…」
「気持ち良い?」
「ん…は…い…」
「もっと動かれたい?」
こくこくと私が頷くと、滄先輩は私に短くキスをして緩やかに腰を動かし始め
た。
私の身体の中で甘い波が満ち引きする。
「ん…あ…キツイ…な…不愉快な思いをさせたらごめんね、律花の中…凄いよ」
そう言って先輩は甘く息を漏らした。
その吐息にも私は感じてしまう。
「凄く良い…律花…俺、凄く感じてしまっているよ…」
感じているなんて言わないで、そんな滄先輩の声にも私の身体は反応しておか
しくなっちゃう。
ちゅくっちゅくっと水音が立つ。
「俺に抱かれて…どう?律花…」
「ああ…ああん…せんぱ…滄先輩…ああっあふっん…」
ゆるゆると先輩は退いては入ってくる。
ゆっくりと、でも時には乱しかき混ぜる。
かき回される感覚に私の身体が大きく反応し、跳ねた。
どうしよう…どうしよう…凄く…気持ち良い…こんな快感初めて知る。
「んっ…良いの?凄い俺を締め付けてくるよ…それに何だか君の中って…」
滄先輩はそう言いながら私達の結合部を見る。
それから顔を上げた。
「…律花…初めてなの?」
「……」
「繋がっている部分から出血してる…初めてなんだね?」
私が顔を覆い隠すと、滄先輩は私の頭を撫でてくる。
「ふふ…どうしよう…俺、律花の初めてを貰ってしまったよ…凄く嬉しいのだ
けど」
「滄…先輩…っ」
私はぎゅうっと彼の逞しい身体に縋り付く様に抱き付いた。
「律花…本当に可愛いよ…姿形の事じゃなくて…勿論、顔も可愛いけど…だけ
ど…ああ…俺が言う可愛いっていう意味をどうやったら君に判って貰えるんだ
ろうね」
抱きしめ返してくれる滄先輩が、私は堪らなく愛おしく感じる。
胸が切なくなって涙が自然に零れてくる。
「泣かないで…律花…俺は…」
「先輩…私…私…滄先輩の物になる…」
私の言葉に、滄先輩は口元を少しだけ歪めた。
「律花」
「ああっ…」
滄先輩が激しく私の中を出し入れさせる。
声が…止められなくって…どうしよう…廊下にまで聞こえていたら…
誰かに、セックスをしている事を知られちゃったら…
”いけない”と思う気持ちが、私を更なる快感の波へと導いていく。
「ああっ…ああ…あああんっ…先輩っ…ああ…気持ち良い…頭の中…ぐちゃぐ
ちゃなの…」
「もっと感じて律花…もっと…もっとだよ…」
「ああ…先輩っ…男の人の身体…凄く気持ち良いの…」
「律花、違うよ…俺の身体だから気持ちが良いんだよ…」
くんっと腰を落として、滄先輩の身体が私の最奧に触れる。
「ああああんっ」
「誰でも同じだなんて思わないで。律花が気持ちが良いと感じるのは、それは
俺だからなんだよ」
「せんぱ…」
身体がぶるぶるっと震えた。
身体の芯が痛いほどに快楽を感じている。
何かが私の身体の中でいっぱいになっていこうとしていた。
「…イけそうな感じだね…」
「先輩っ…」
「イきたい?イってみたい?」
私が何度も頷くと、先輩は最奧に自身を差し込んだまま腰を揺らし始めた。
「ひっ…ぅ…んんっ…ああ…奧…熱…」
「ねぇ?律花…」
「は…はい…」
「この前の生理っていつだった?」
「え…あぁっ…ん…にじゅう…ご…日…位…」
「君の生理は規則正しい?」
「…は…い…いつも…同じ、ぐらいに…あああっ」
先輩の唇が私の耳に触れる。
「律花…中に出すよ…」
「ん…え…?」
「俺の体液を君の中に注ぎ入れる…」
そんな事をしたら…
私は不安に揺れる瞳で彼を見上げた。
「…大丈夫だよ」
ぐぐっと一層繋がりが深くなる。
「身体の奧で…俺を受け止めて…律花」
「…先輩っ…ああっ…あああ…」
ベッドのスプリングが先輩の身体の揺れで軋んだ。
「足…もっと開いて」
「ん…はい…ああ…あっ…」
滄先輩の身体が私の蕾に押しつけられて、そこの摩擦からも快感が生まれ、私
はどんどん追い込まれていく。
ぐちゃぐちゃになる…
なにもかも。
先輩が私の腰を掴み、激しく自分の腰を打ち付けてくる。
「あっあああっ…先輩…あぁっ…ふ…ぅ…うぅんっ…はぁ…あぁ…気持ち良い…」
「もっと言って律花、気持ち良いって、俺が気持ち良いって言って」
「んぅっ…滄先輩…先輩の気持ち良い…凄いの…こんなの初めてで…私…」
「律花っ可愛い…好きだ…好きだよ…」
「ああっ…何か…来るっ…」
頭の中が霧がかってくる。
意識は朦朧としているのに、感覚だけは鋭敏だった。
「ああっ…ああ、ああっ…あああああっ…やぁんっ…」
「ああっ…律花っ…君は凄いよ…俺…くそっ…」
滄先輩は苦しそうに眉間にしわを寄せる。
「律花…イって…お願い…俺…もう…もたない…」
「あんっ…滄先輩…もっといっぱい…もっと…」
「擦るの?かき混ぜるの?どっち?」
「…もっと奧、先輩ので擦って…ああっ…いっぱい擦って下さい…あぁっ…」
「駄目だ…律花…もう限界だ…出すよ…ああっ出るっ」
「先輩、先輩あああっ!!」
滄先輩の最後の動きに身体が一気に高められ、スパークする様な感じがした。
頭の中がばちばちっと音を立てて、火花の様な物が散る。
「あああああっ!!」
「んっぁ…」
滄先輩は私の最奧に身体を押し込んで、甘い声を上げた。
びくびくっと先輩のモノが震えた様な気がした。
―――――熱い…
私の瞳から一滴の涙が零れ落ちていった。

滄先輩は私の身体と自分の身体の後処理を済ませると、何事もなかったかの様
な表情をした。
でも…私は…

シーツに血のシミが付いてしまっている。
その事に狼狽えていた。

「大丈夫だよ…想定外の事ではあったけど」
滄先輩の言葉に、私は顔を上げた。
「…私は…そういう事をしている様に見えていたんですね」
急に悲しい気持ちになった。
「誤解しないで律花、君だけがそういう事をしている様に見えたという意味で
はないよ」
幸せだった先刻までの気持ちが一気に冷えていく様な気がした。
ああ…私はそんな目で見られていたんだ。
そうか、だから色んなステップを飛び越えて、こういう事をされたんだ…
感情が沈んでいく。
こんな身体だから、胸だから、男遊びをしていると思われて…
だったら、一度位自分も遊んでも良いだろうとでも思われたのだろうか。
瞳に涙が滲んだ。

滄先輩は立ち上がり、机の上に置いてあるペン立てからカッターナイフを取り
あげた。
かちかちかち…
カッターナイフの本体から鋭利な刃がその姿を見せる。
「…先輩…何を…」
ベッドに戻ってきた滄先輩はおもむろにズボンの裾を捲り上げると、その左足
にカッターの刃を滑らせた。鮮血が傷口から溢れ出る。
「せ、先輩!?」
ベッドのシーツの上に滄先輩の血が広がった。
私の叫び声が聞こえたのか、保健室の扉が、がらりと開く。
「どうしたの?舘捺さん」
養護教諭の先生が戻ってきて私達のベッドの傍に寄ってくる。
「―――――高泉君…」
先生は驚いているのかそうでないのか私にはよく理解しがたい表情をして先輩
の肩を抱いた。
「治療しましょう…大丈夫、大丈夫よ…」
彼女はそう言うと、滄先輩を椅子に座らせて努めて冷静な表情で傷口を見てい
た。
「…これは病院に行かないと駄目ね…車を出すわ、行きましょう…歩ける?」
先生の言葉に、滄先輩は無言で頷いた。
「舘捺さん、驚かせてしまったわね…彼は大丈夫だから、あなたはゆっくり寝
ていて頂戴」
先生の私に向けた”彼は大丈夫だから”の意味がよく判らないまま私は頷いた。

先生と滄先輩は扉の向こうへと消えていく。
滄先輩の左足の上履きが、朱に染まっているのがやけに鮮明に記憶に残った。

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