嘘でも何でも良いから、それでも傍に居たい。居て欲しい。 気持ちが無くても構わないから ヒロ先輩はそう言った。 本当にそれが、先輩にとって良いことなの? 私はどこか…違う所を見ているかも知れないのに… 「うわ、すっげ美味い」 昼休み、ヒロ先輩は私の作ってきたお弁当を食べながらそう言った。 「良かったです」 私達は、相変わらずお昼を一緒に過ごしている。 …離れたいと、私が本気で思えば、ヒロ先輩から離れられる。 だけど、そうすることをしないのは、ズルイと思った。 心の片隅で、ヒロ先輩を手放してしまうことを惜しいと思っているからだ。 こんなに素敵な人が、私を見てくれる日なんてもう無いと思えたから。 だったら精一杯ヒロ先輩と向き合えばいいのに、 私は和也先輩のことも気にかけている。 放課後、サッカー部で練習しているヒロ先輩を見ながら、 和也先輩の事も見ている。 ヒロ先輩も、和也先輩も、素敵だ。 流れる汗を拭う姿や、スポーツドリンクを飲み干す姿が、 ふたりとも、さまになっていて格好が良い。 「今度の日曜日、どこかに行かねぇ?」 「あ…はい、いいですよ」 「どこがいいかな。映画とかは?」 「どんな映画?」 「ホラーとか」 「わ…私、怖いのはちょっと」 「ふふ、そんな感じだな」 そう言ってヒロ先輩は笑った。 「じゃあ、アクションもの。今なんかおもしろいのやってるみたいだぜ」 「そうなんですか?」 「うん。部活の奴が見に行ったらしくてさ」 「じゃあ、それにしますか?」 「おう。それじゃあ決まりな」 ヒロ先輩は、にこっと笑った。 可愛らしい笑顔に、私もつられて笑った。 「真雪」 「はい?」 「手」 そう言ってヒロ先輩は手を差し出してきた。 私は、少しためらいながらも、その手に自分の手を重ねた。 相変わらず先輩の手は、ちょっと冷たくて、 でもその皮膚は触り心地が良かった。 「来週は、試合なんだ」 「あ、そうなんですか?」 「うん、練習試合だけどね」 「へぇ」 「見に来る?かっこいいとこ見せちゃうぜ」 「え…っと…」 試合と言うことは、和也先輩も居るっていうことだ。 私は首を振る。 「いいです。練習試合じゃ、他に見に来る人も居ないでしょうし」 「そっか。残念」 「ごめんなさい」 「謝ることはねぇよ」 ヒロ先輩は笑いながらそう言った。 なんだか後ろ暗い気持ちになる。 …私、どうしてこんな風なんだろう 自分で自分が嫌になる。 予鈴が鳴った。 「…もう昼休みは終わりか、早いな」 先輩は、きゅっと私の手を強く握った。 「もっと、一緒に居てぇなぁ」 「…」 「…真雪」 「はい」 「…呼んでみただけ」 「やだ、なんですかそれ」 「ふふ」 ヒロ先輩は嬉しそうだった。 私と一緒に居ることを喜んでくれる人。 私も手を握り返す。 先輩は、握りしめあった私達の手を見ながらぽつりと言う。 「…抱きしめてぇな」 「駄目ですよ、他にも人が沢山居るんですから」 「ちぇっ、真雪は人目を気にしてばっかりだ」 「だって…恥ずかしいし」 「じゃあ、ふたりきりになる?授業さぼっちゃおうか」 胸がどきんっとした。 ヒロ先輩が、なんだか艶のある瞳で私を見るから… 「もう、冗談ばっかり!ほらぁ早く行かないと授業に遅れちゃいますよ」 「…真面目」 「ヒロ先輩は私の先輩なんだからそういうこと言っちゃ駄目なんです」 「はいはい」 ヒロ先輩は名残惜しそうに私の手を離し、立ち上がった。 「じゃあ、また部活の後でな」 「はい」 そう言って私達は別れて、私は教室に向かった。 あぁ、そうだ、5時間目は音楽で、移動教室だったんだ。 私が急いで教室に戻ろうとした途端、なにかにぶつかる。 「きゃっ」 「…あぶない」 転びそうになる私の手を誰かが掴んだ。 ぶつかった相手だ。 私は顔を上げて、謝ろうとする。 「ごめんなさ…」 「…」 ぶつかった相手は和也先輩だった。 私は胸に抱いているふたつのお弁当箱をぎゅっと握りしめる。 「か…和也先輩」 あれから、こうやって直接対面するのは、初めてだった。 思わず緊張がはしる。 「今日は、違う香りなんだね」 そう言って、先輩は、ふっと笑う。 「…あの香水は、もうつけないんです」 「そう。別に、構わないけど…この香りも凄くいいね 真雪ちゃんに、似合っているよ」 「ひ、ヒロ先輩が、選んでくれたんです」 「ヒロが…あぁ、そうなんだ」 「…」 「仲が良いよね。今も、ヒロと逢ってきた帰りなんだろう?」 「そうです」 「…羨ましいな、ヒロが」 「この間のは、冗談って、和也先輩言ったじゃないですか」 「そうするつもりだったんだけど」 和也先輩が手を伸ばしてきて私の髪に触れる。 彼の長くて綺麗な指先が、私の髪先を弄ぶようにする。 「恋しく思ってしまうのは、なんでだろう? 今日は、香りも違うっていうのにな…」 少し長めの前髪からのぞく、深い闇色の瞳が私を惹きつけるようにして瞬く 「そういう冗談、本当に、困ります」 私がそう言うと、和也先輩は私を壁に押しつけるようにして私を抱きしめた。 「ひゃっ」 「…全然違う香りだ」 耳に近い場所で先輩の声がする その甘い声にぞくぞくっとした。 「か、和也先輩」 「うん…そうやって、もっと俺の名前を呼んで」 「…」 「呼ばないの?」 「和也、先輩?」 先輩との距離が縮まった。 和也先輩の前髪が私の額をくすぐって、唇の端にキスをされる。 「せ、せんぱ…」 「こういうこと、したらいけないんだよね」 そう言って、和也先輩は苦く微笑んだ。 「しないで、下さい」 「唇にならいい?本当のキスなら許される?」 「いやです、こんなことしないで」 「本当に嫌だと思うなら、本気で抵抗した方がいいよ そうでなければ、歯止めがきかなくなる」 吐息がかかるほど傍に綺麗な和也先輩の顔がある。 「やだっ」 顔を背けると、顎を掴まれて和也先輩のほうを向かされる。 「あれから、ずっと君のことを考えてた。なんでなんだろう… どうして俺は、溺れてはいけないと思うものにはまってしまうんだろうね?」 「私は、先生の代わりになんてなれません」 「…もうどうでもいい…あの人のことは、どうだって」 「…」 「俺は、もっと狂わされてる」 「や、だ」 「この髪も、この指も、唇も、一つ残さず俺のものにしたい」 「か、かず…」 「真雪!」 聞き覚えのある声がして、私はその声がするほうを向いた。 そこには、ヒロ先輩が居る。 「ヒロ先輩…」 「…和也先輩、真雪から離れて下さい」 静かにそう言うヒロ先輩の声に、和也先輩は従った。 先輩の身体が私から離れる。 和也先輩は私をじっと見てからヒロ先輩を見た。 「ヒロ、俺は…」 「真雪、おいで」 ヒロ先輩は、和也先輩の言葉を遮るようにして私を呼び、手を伸ばした。 私は息を呑む。 「…おいで…それとも、来ない気?」 私は首を振って、ヒロ先輩のもとへ行く。 傍に行くと、先輩は私の手を握った。 「俺、誰にも…譲る気ありませんから。それが例え、和也先輩でも」 「俺にも諦める気がないと言ったら?」 その和也先輩の声に、ヒロ先輩は目を細めた。 「真雪は渡さない」 「…真雪ちゃんの気持ちはどうなのかな」 先輩がそう言った途端、ヒロ先輩の身体がびくりとした。 「真雪の気持ちは関係ない。俺は俺がそう思うからそうするだけだ」 「俺は、真雪ちゃんが好きだよ」 「聞きたくありません」 ヒロ先輩は吐き捨てるようにしてそう言うと、私をひっぱった。 そして歩き始める。 「ヒロ先輩…」 「…授業に出たいなんて言うなよな」 「…」 私はクラブハウスにある、サッカー部の部室に連れて行かれた。 「前に、君は俺に”傍に居られないかも知れない”って言ったよな それって、和也先輩とああいう事だからか?」 「…」 「和也先輩が好きだからか」 「…好きとか、判らない…です」 「今更判んないとか言ってるなよ。先輩に、抱きしめられていたのに」 「…」 「触らせてんじゃねぇよ…それで好きとか判んない?ふざけんな」 「ごめんなさい」 「謝んな。謝るぐらいなら初めから触れさせんなよ」 ヒロ先輩は私の両腕を掴みながらそう言った。 怒っているというのは明白だった。 「和也先輩の事、好きなのかよ!だから、俺じゃ駄目なのか!」 「わ…私」 「そんなにあの人がいいのかよ」 「判らないんです、だけど、和也先輩の事を考えると 私…どうにかなりそうになる」 「それを好きって言うんじゃねぇのか」 「判らない…です」 「じゃあ俺のことはどうなんだよ」 「…」 「本当に俺のこと、どう思っているの?それも判んない?」 ヒロ先輩は私を床に押し倒した。 「俺は好きだ。真雪じゃなきゃ嫌だ!」 先輩の唇が私の唇に重なる。 ヒロ先輩の身体の重みを、私は自分の身体に感じていた。 ぎゅうっと強く抱きしめられる。 先輩の熱情に、私は震えた。 「せ…先輩」 「和也先輩のことなんか考えるな …他の誰かのことなんて、どうだっていいじゃないか。俺だけを見てよ」 セーラー服の上衣に、ヒロ先輩の手が滑り込んでくる。 キャミソール越しに先輩の体温を感じて私は、どうしていいのか判らなくなる 「ヒロ先輩…や…やだ」 「真雪を全部、俺のものにしたい」 「…」 「俺…今日ほど、おまえのこと抱きたいって思ったことはないよ」 先輩はそう言って私の胸を柔らかく揉んだ。 「真雪、諦めて。おまえが和也先輩を好きでも、俺、離さないから」 「先輩…」 「…好きだ…」 もう一度、ヒロ先輩は私の唇を確認するように軽く口付けてから、 深い口付けを与えてきた。 キャミソールがたくし上げられて、素肌に先輩の指先を感じる。 彼の温度は少し上がっていて、いつもよりも温かく思えた。 「…真雪」 「ヒロ先輩…や…」 私は、入り込んできているヒロ先輩の腕を、引っ張り出そうとしたが 彼の力をもってそれを阻まれる。 「抵抗しないでよ」 首の下に先輩の左手が入ってきて、肩を抱かれる。 右手では、胸を愛撫されたまま、私は彼の腕の中にすっぽりと包まれた。 ”どうしよう”と思うためらいの気持ちはあるものの、 私はこの行為を少しも嫌だとは感じていなかった。 先輩の手の動きに、心拍数がどんどん上がっていっている。 心臓に近い場所を触れられているので、 この胸の鼓動が彼に伝わってしまうのではないかと思うほど その音は大きく鳴っている。 どうして嫌だと思わないんだろう? どうして彼の大きな手を心地良いと感じてしまうんだろう? 嫌悪とかそういったものはまるでない むしろ、彼の全てを受け止めたいという気持ちにさえなっていく。 そういった自分の感情が不思議だった。 どうして? 私は、本当に、ヒロ先輩のことをどんな風に思っているの? 好きなの? どうなの? 和也先輩よりも? 見上げると、ヒロ先輩が少し怒ったような顔をして私を見下ろした。 「…俺がいいと言え」 「…」 「俺を好きだと言えよ」 「ヒロ先輩…」 「俺じゃなきゃ駄目だって、言えよ」 「…」 「なんで言ってくれないのさ」 ブラジャーが胸の上までたくし上げられる。 私はその動きに合わせるようにして身体をずりあげて少しの抵抗を見せたが、 すぐに先輩の身体が追ってくる。 胸の先端に、先輩の指先が届いた。 その瞬間、甘いものが身体の奧からしみ出るような感覚がして 私はびくりと跳ねる。 指先で摘まれて弄られると、益々その甘さが強くなっていくような気がした。 「や…や…ん」 身体が痺れて、その痺れは脳にまで伝わって、思考能力が落とされていく。 先輩の舌先が私の首筋を辿っていって、余計に感覚が麻痺していく。 彼の香りを感じられるほど近くにヒロ先輩が居た。 ふんわりと優しい爽やかな香りと、 それの正体は判らないのだけれど、女の子からは感じない、少し男っぽい香り それを私は良い香りだと感じた。 優しい香りは多分髪から香るシャンプーの匂いだ 男っぽい香りは、多分肌からしている? 胸の鼓動が痛い位に大きくなっていて、私は苦しげに息をはく。 ああ、なんだか、苦しくてどうにかなってしまいそう 触れられている場所が熱くって、どうにかなりそう 先輩が私の鎖骨に唇を滑らせた くすぐったいような、気持ち良いような感覚が背中を通っていく ぞくっとした。 「…っん」 ヒロ先輩が私のセーラー服の上衣に手をかけて、それを上まで持ち上げた 服の中で、キャミソールやブラジャーはずり上がっていたので、 彼の目の前に私の胸が晒される。 私は慌ててそれを手で隠した。 「い、いや…」 「…」 ヒロ先輩は無言のまま、私の手をとり再びその肌を自分の下に晒す。 彼に見られている恥ずかしさに身体がかぁっと火照った。 「…俺を好きか?」 「え…?」 「好きか」 「…」 「俺は、好きだよ…こんな風に、無理強いしてるけど、だけど」 そういってヒロ先輩は私の胸に唇を付ける。 ぴりっと背中に甘いものが通っていって、私の身体がまた跳ねた。 先輩の温かい舌先が、私の胸の先を転がしている。 そういうことをされると、別の場所も感じてきてしまう。 下の、お腹のほう 先輩が撫でている私の太股の奧にある場所だ。 私の身体の深い場所が熱くなってきている。 「ふ…は…」 「真雪、おまえの全部が好きだ」 ヒロ先輩を見ると、今まで見たこともないような切なげな瞳で私を見ている そんな瞳をしないで。 私まで切なくなってしまう。 苦しくなるよ――――― 「好きだ…好きだよ、真雪」 「ヒロ先輩」 「和也先輩の所に行くな。何処にも行くな。俺の傍に居ろよ」 先輩の瞳が甘く瞬いて、滲んだ。 強く求められていることが痛いほど判る。 この人は、本当に私のことが好きなんだ、と思ったら涙が溢れた。 「ヒロ先輩…先輩…」 「真雪」 「…う…うぅっ…」 哀しい涙じゃない。 嬉しいとも少し違う。 だけど胸が震えて涙が零れた。 「…泣くのは、ずるい」 「だって…っく」 「そんな風に泣かれたら、何も出来ねぇだろうが」 ヒロ先輩はそう言って立ち上がると、ロッカーの中からタオルを出してきて、 私に差し出す。 ヒロ先輩は大きく息をついた。 「和也先輩の所には行かせねぇから」 その彼の言葉に、私は一瞬彼を見て、そしてそれから頷いた。 「…はい…」 「俺以外、見るな」 「…はい」 「本気?」 先輩は少し驚きを滲ませた声で私に確認をしてくる。 私はもう一度頷いた。 「…ぎゅってしてもらってもいいですか」 「…ん…ああ」 ヒロ先輩は私を抱きしめてくれる。 私はその腕の中で、自分の想いを探していた。 先輩の想いの中に包まれている自分を、確認していた。 この人を裏切ったら、多分私は、一生後悔するのではないかと思えた。 私は愛されているんだ。 その実感が、私の中の何かを変えていっていた。 心が、形を変えていく瞬間だった 私は心のなかにわだかまっている部分をヒロ先輩に話すことにした。 それはかなり勇気が要った。 ぽつぽつと話す私を、先輩は黙って聞いていてくれた。 私は、きっと、先輩が思ってくれているような女の子ではなく、 むしろとんでもなく、ひどい女なのだと言った。 ヒロ先輩の顔かたちに惹かれ、 サッカー部でレギュラーでA組という肩書きに惹かれたのだと。 そして、その体付きが私を引き寄せたのだと。 そう言ったら、 呆れられて嫌われるかと思ったら、笑われた。 「腰が細くて締まってる…ねぇ。そうかな」 「…そういうところが、凄く凄く好みだったんです」 「ふぅん。そうなんだ。女も見るとこ見てんだなぁ」 変に感心したように先輩は言った。 「…彼氏が欲しかったから、先輩と付き合ったって言うのも、本当なんです」 「…」 「先輩が好きだったからじゃないんです」 「…いいよ。もう、きっかけはどうだって。 付き合っていくうちに俺のことを好きになってくれれば」 「…でも」 「言っとくけど、俺、真雪が俺の事が嫌いで別れたいって言っても 別れる気ないから」 「…」 「もちろん、和也先輩の所に行きたいって言っても、 絶対に行かせる気ねぇから」 「…私、多分浮気性なんだと思うんです。 和也先輩、素敵だから…だから…」 「……質が悪いな」 「ごめんなさい…でも、私、そういう人間なんです」 ヒロ先輩はちいさく息をついた。 「判った。要は俺が、真雪の目を余所にむけさせないように いい男でいればいいってことだろ?」 「…ヒロ先輩は、今でも十分です。私には勿体ないぐらい」 「だったらなんで和也先輩に気を取られる?俺に満足してねぇからだろ?」 ヒロ先輩は、くしゃっと自分の前髪をかき上げた。 「まいったよ。おまえには本当」 先輩、いつの間にか私の呼び方が”君”から”おまえ”になってる… 「いいよ。いい。全部構わねぇから。 真雪のそういう部分もちゃんと受け止める」 「いいんですか?」 「そういうところ、全部ひっくるめて”真雪”なんだろ。構わないよ」 ヒロ先輩は長い足を投げ出して、ロッカーに寄りかかった。 そして天井を見上げる。 「早く俺のこと、本気で好きになって 俺はいつでも、おまえに想いを返すから」 少し照れたように、耳たぶを赤くさせながら、先輩がそう言った。 「想いを、返す?」 与えられている想いを、私もいつかこの人に返すことが出来るのだろうか。 私はまた涙ぐんだ。 「なんだよ?」 「…私、愛されているんだなぁって」 そう言う私に、ヒロ先輩は苦笑いをした。 「何を今更」 ヒロ先輩は手を差し出す。 「…手、繋ごっか」 「はい…」 私は先輩の手に自分の指を絡める。 「真雪の手は、本当に温かくて、柔らかいな」 初めて手を繋いだときと同じ事を彼は言う。 そしてそっと耳打ちをした。 「胸はもっと柔らかかった」 「…せ、先輩っ」 「この次は、抱く。中断なんかしてやらねぇ」 「この次って?」 「近い未来」 ヒロ先輩は照れたように笑った。 優しそうな目元とか、くすぐったそうに笑う仕種とかが、私は本当に好きだ。 そう、私は先輩が好きなんだ。 だから想いを返せるように、ヒロ先輩の全部を好きと言えるようになろう。 今はまだ、焦らずにゆっくりと 私はまだ恋の途中なのだから―――――。 ****** 和也先輩は、その後また水本先生と復活して、 秘密の恋愛を継続しているようだった。 恋が復活して、喜ぶべきなのかどうか 苦しみの中にいる。と彼は言った。 恋が苦しいということを私は知らない。 この先、知ることはあるのだろうか? ね、ヒロ先輩… −END−
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