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隷属の寵愛 1

 優しい世界が広がっていればいい。
 いつでも、どこまでも、ただ優しい。
 そんなきみとの世界が甘く切なく、痛い。
 だけど、どんな痛みが与えられようとも、この世界が永遠に続くことを選ぶ。

 ――何度、世界が変えられても。

 ******

「永遠の愛を誓いますか」
 礼拝堂に響き渡る司祭の声。「誓います」と凛とした声で返事をしたのは幼い花嫁の隣に立つ男性、キース・コルトハード伯爵。
 そして、ちらりと一度彼を見上げてから小さな声で「誓います」と返事をしたのは、彼の花嫁、リディア・バンフィールド。
 盛大な結婚式が挙げられていたが、バンフィールド男爵家の末姫は怯える思いでキースからの誓いの口付けを受けていた。
(どうしてこんなことになってしまったの)
 すらりと背が高く、精悍な顔立ちのキースをちらりと盗み見てからリディアは俯いた。
 頭に乗せられたダイヤモンドで飾られている豪奢なティアラが重く感じる。

 キースとの出会いは一ヶ月ほど前の話。
 コルトハード家主催の舞踏会に招待され、そこでリディアはキースに見初められた。
 ……らしい。
 幼いリディアは、十歳近く年の離れたキースが何故自分を気に入ったのか、判らなかった。
 あの日、自分がコルトハード家にいったのは「おまけ」だった筈。
『社交界デビューの場としてリディア様“も”いらしてください』というコルトハード家の誘い文句があり、彼女の社交界デビューのタイミングを見計らっていた父が、姉ふたりが招かれたついでにリディアもコルトハード家の舞踏会に行かせたのだった。
 その場で何か劇的な出会いがあったわけでもなく、つたないワルツを披露したに過ぎなかったが、舞踏会の翌日にはキースから「リディアを花嫁に」という手紙がきた。
 恋愛結婚が許されない時代でもなかったが、かといって爵位が上の伯爵家を相手に縁談を断れるかといえばそうでもなかった為、リディアの意思はともかく結婚の話は進んだ。
「結婚とはそういうもの」
 と、周りの人間に言われても、リディアの中に膨らむ『何故?』という疑問は払拭されない。
 彼から見れば、自分はただの子供ではないのだろうか。それなのにキースの妻だなんて――と大勢の来賓をまえにして、リディアは怯える感情を強めていた。
「リディア。疲れたか?」
 頭の上から声が聞こえ、見上げると、ついさきほど夫になったばかりのキースが彼女を見下ろしていた。
「申し訳ありません、あ、あの……少しだけ」
 キースのヘイゼルグリーンの瞳が優しげに輝いている様子を見てしまえば、その美しさに否応なしに心がときめく。
 それが彼の人柄なのかそうでないのか彼女には判らなかったが、思えば出会ったときからキースはリディアを優しい瞳で見つめてきていた。
 切れ長の瞳を縁取る睫の長さや、整った鼻梁が彼の美しさを強調し、形の良い薄い唇が甘やかすように何かを囁けば、それで彼に対して何も思わずにいられない女性などいないだろう。
 リディアも勿論例外ではなかったが、男性に慣れていない分、距離をとろうとしてしまう。
 キースを嫌いではない。むしろ惹かれてやまない部分があると気づいているだけに余計『何故?』と思う気持ちも強まるのだった。
「おまえはさがって部屋で休んでいなさい。いいね?」
「……ありがとうございます」 




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