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秘め恋 〜その手が奪うもの〜   31

 

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 再び桃花が目を覚ましたとき、彼女の隣では宮間が眠っていた。
 眠っている彼を見ることは初めてではなかったが、桃花はその寝顔を観察するようにじっと見つめる。
 他人の寝顔は無防備に見え、そして愛しいと思う気持ちが助長されるような気分になるのは何故なのだろうかと、宮間の端整な顔立ちを眺めながら彼女は思った。
 こうして彼の寝顔を見ることが出来るのが自分だけならどんなにいいだろうか。
 見つめていると艶のある宮間の前髪や柔らかそうな頬や唇に触れたくなってくる。
 だけど、あちこち触れると彼の眠りの妨げになるだろうと思い、桃花は伸ばしかけた手の動きを止めた。
「触れてくれないの?」
 意地悪そうな声が響き、彼女はびくりと身体を跳ねさせた。
「お、起きていたんですか」
「今さっきまでは寝ていたよ」
「あ……結局起こしてしまったんですね……すみません」
「いいよ。寧ろ起こしてくれれば良かったのに、退屈だったでしょう?」
「退屈ではないですよ」
「何もしていないのに?」
 宮間は身体を少しだけ起こし、頬杖をついた。
「その……」
「うん?」
「宮間さんの寝顔を見てたので、何もしていないっていうのとは違いますし」
「ああ、そう」
 ふっと笑い、宮間は言う。
「まぁ、何かしてくれても、いっこうに構わなかったけどね」
「何かって?」
「さぁ?」
 意味ありげに微笑む彼の表情は妖しくも美しく、思わず見とれてしまいそうになるほどだった。
 そんな彼を見て、桃花はふと考える。自分が宮間を好きでいるのは、外見が美しいからなのだろうか? それだけが理由なのだろうか? 確かに彼は並外れた美貌の持ち主ではあったけれどもそれ以外にも思い焦がれてしまう理由はある筈だと思えた。
「どうしたの?」
 彼女の様子を不審に思うような表情をして宮間が首を傾げた。
「宮間さんを好きって思う部分を探しているんです」
 桃花の言葉に彼は笑う。
「えー……探さないとないってこと?」
「い、いえ、そういう意味では……」
「なんで私はこんな男を好きなんだろうって思っちゃったの?」
「こっ、こんなとか思ってないですよ、宮間さんは私には勿体ないぐらい素敵な人なので」
「勿体ないとかっていうのはないですよ」
 くくっと彼は笑った。
「惚れてる度合いが大きいのは俺のほうだと思うしね」
「……そんなことないと思いますけど」
「なんでそう考えるの?」
「私が、めちゃくちゃ宮間さんのことを好きだからです」
「ふぅん」
 興味がないような表情をされるかと桃花は一瞬身構えたが、宮間は柔らかく微笑んだ。
「嬉しいね、出来ればずっとそう思っていてもらいたい」
「ずっと、思い続けますよ」
「……うん、だといいね」
 微笑む彼を桃花はじっと見つめた。
「私……言葉が足りないでしょうか」
「え?」
「つまらないことはたくさん言っていますけど、大事なことは言い足りてないような気がするんです」
「君が俺に向けて言う言葉で、つまらないものなんてひとつもないよ?」
 宮間はそう言って微笑み、彼女の頭を撫でた。
「……宮間さんは優しいから、本当にそんなふうに思ってくれているのか心配になります」
「んー、別に俺は優しい男ではないけど」
「そりゃ、ときどきは意地悪ですけど」
「意地悪だとか思っているんだ?」
「たまに……」
「それはどんなとき?」
 聞いてくる彼に、桃花は思わず顔を赤らめた。
 普段の彼にはあまりそういう部分は感じていない彼女は改めてたずねられると困ってしまう。
「何で赤くなっているの?」
 うっすらと笑う宮間を見て、意地悪をされていると桃花は感じた。
「例えば、今がまさにそうです」
「別に何も意地悪なんてしてないと思うけど……どうしてって、聞いているだけじゃない」
「どうして私が赤くなっているのかという理由を、宮間さんは知っているのに敢えて聞いてくるからです」
「え? 判らないし」
 と、言いながらも彼はくくっと笑った。
「意地悪ですよね……」
「だから、優しい男ではないと言っているだろう?」
「…………でも、好きですよ」
「うん、ありがとう。俺も好きだよ」
 彼の言葉に、桃花は微笑んでからふいに真顔になった。
「……どうしたの」
 そんな彼女の表情を見逃すことなく、宮間はすかさず聞いてくる。
 桃花は迷っている自分の胸の内を明かすかどうか悩んでしまう。
 答えが出ていない感情を彼に丸投げして押しつけることは責任逃れでしかないような気がした。
「桃花?」
「……私は」
「うん?」
「本当に、宮間さんのことが好きです」
「……うん」
「……すみません」
「何で謝るの?」
 宮間は微笑み、彼女の頭を撫でた。
「しつこいかなって思いました」
「しつこいだなんて思わないよ、何度でも君にだったら言われたいし。だけど君が何度もそう言ってしまうのは自己暗示をかけているのかなというふうに感じてしまったりもする」
「自己暗示?」
「俺が君を好きだって言っているから、君は俺を好きでいなければいけないと感じてしまっているのかなって」
「それは違います」
「ましてや寝た仲だし、君にとっては俺は初めての男になるわけだから、嫌な面があっても関係を続けなければいけないと思う気持ちが作用してしまうのかなって」
「宮間さんに嫌な面なんてないです」
「――――変だなとは感じているのに?」
 何の感情も表していない瞳と視線がぶつかった。
 水を向けられているということには桃花はすぐに気が付いたが、それが今まさに迷い悩んでいる部分であったから、彼の問いかけに声が詰まってしまった。
  
  
  
    

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