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秘め恋 〜その手が奪うもの〜   32

 

 ふっと宮間は小さく笑う。
「ご飯にしようか? そろそろお腹が空いてきただろう」
「え、あ……」

 こうやって、何かをごまかし先送りにすることが正解なのだろうか?
 長引けば長引くほど、辛くなるのは誰だろうか?

 秘密があるのであれば、それを抱えているほうが辛いに決まっている。
 中途半端に吐露したあとであるから余計に。

 桃花はベッドから起き上がろうとする彼の身体を押し倒した。
 押し倒された宮間は驚きの表情を隠さずに彼女を見上げる。
「……桃花?」
「私、悩むのをやめます」
「え?」
「宮間さんが私をどんなふうに思っているんだろうかとか、好きでいてもいいのかとか、そういうので悩むのをやめることにします」
「あ、う、うん……?」
「どんなことがあっても、何があっても、ずっと宮間さんの傍にいることにします」
「……桃花」
「返事はいらないです」
 そう言って彼女は身体を起こし、宮間に馬乗りになった状態で左手を彼に差し出した。
 その様子を見た宮間は瞳を細める。
「……どういう意味」
「左手で、握って下さい。宮間さん」
「……拒否権は?」
「ないですよ」
「そうされることで、どうなるのかっていうのはうすうすでも君は判っているんだろう?」
「はい、判っています。だから、大丈夫です」
「……何が大丈夫?」
 怪しむようにして見上げてくる彼の左手を半ば強制的に桃花は握りしめた。
 
 居酒屋で握られたときと同じ感覚に神経が震えた。
 握り合った瞬間、繋がったような錯覚に意識が乱される。

「ふ……ぇ」
「……嘘つき。うすうすどころか、何も判ってないじゃないか……」
 解こうとする彼の手を桃花は強く握りしめた。
「判ってます、私が、宮間さんにこうされると、凄く気持ち良くなっちゃうってこと」
「気持ちいい?」
 意表をつかれたように彼が顔を上げると、馬乗りになっていた桃花は彼の胸に身体を寄せる。
「桃?」
「……繋がってるって感じてしまうので、気持ちいいんです」
「ああ……うん?」
 宮間はどう返事をしていいのか判らないという様子を見せながらも、繋いでいないほうの手で彼女の肩を抱いた。
「……こうやって手を握っている間は、君が何を考えているのかっていうのが俺には、全部判る……んだけど?」
「……そうなんですね」
「それを信じるのも難しいことなんだろうけどねぇ……」
 どんなふうに説明をするべきなのかと考えている彼を見て桃花は微笑んだ。
「くすぐったいですよ」
「え?」
「なんだか、胸がむずむずします」
「……そういうふうに感じてしまう人間は初めてだな」
 宮間は毒気を抜かれたような表情をして、ふっと息を吐いた。
「考えていること全部って、全部なんですか?」
「全部だよ」
「そうなんですね……」
 桃花は感覚のむず痒さに息を漏らした。
「……探ろうと思えば、君の記憶を探ることも出来る」
「え、あ、そうなんですか?」
「例えば……君が……そうだな……高校の時に女の先輩からラブレター付きのプレゼントを貰ったことがあるとか」
「え」
 桃花は少しだけ顔を上げて宮間を見た。
「な、何を貰ったとかも、判っちゃったりするんですか?」
「手作りクッキー……だな」
「わ、正解です。凄いんですね」
「……凄いんですねぇって……君は」
 宮間は、はぁと溜息をついた。
「感心している場合か?」
「…………宮間さんが、私の心の中を見ることが出来るっていうのが本当なら、今、私がどんなふうに感じているかも判っているんですよね?」
「……」
「嫌じゃないですよ」
「ああ」
「言わなくても、判っちゃってますよね」
「……うん」
「……全部、見られたいですよ」
「知ってる」
「すみません」
 桃花が笑うと、彼は再び息を吐いた。
「何度も言うけど、本当に、全部見えているんだからね?」
「……ちょっと恥ずかしいですね」
「言ってる場合か」
 宮間は苦笑いをしながら複雑そうな表情を浮かべていた。
「あまりにもレアケースで、どうしたものかと考えてしまうね」
「迷惑でしたか? でも……宮間さんの意見はもう聞きませんけど」
「……迷惑ではないよ」
 彼に撫でられる感触と、繋がっていると錯覚させられる感覚の心地よさに桃花は息を漏らした。

  
    

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