「……もっと、俺を欲しがって」 「蒼さんが、欲しい……です」 だけど、それはひとつであるとか、ある一部分だけとかではなく彼の全部が欲しかった。 彼の全部を残らず手の中に収めなければ、我慢出来ない。 自分はここまで我が儘だっただろうか? と桃花は宮間に揺さぶられながら考えていた。 宮間が忌み嫌う部分も含めて、桃花は愛しいと思えたし、そこを含めた彼自身を欲した。 「……蒼さん、好き」 身体が熱くなり、震えた。 終わりの瞬間には、身体の内側で彼の塊がひくりと跳ねた感覚を知る。 彼が自分の代で終わらせたいと願っていた能力の継承。 それに対して桃花は力を失わせてはいけないと思わなかったし、失わせるべきだとも思わなかった。 他人とは大きく違っているけれど、それもまた個性のうちのひとつだと考えるのは浅いだろうか? ――そして。 ふぅっと甘い息を吐いてから、繋がったままの彼の身体を抱きしめる。 「私は、やっぱり、相当の黒さを持った人間だと思います」 「黒くないよ」 「いいえ……腹黒いです」 「何、それ?」 くくっと宮間は笑っていたが、桃花は笑えなかった。 もしも、彼が“普通の人間であったのなら”自分はこうやって彼を抱きしめることが出来なかったと思えるから、能力を持って生まれてきた現実を感謝さえしてしまっている。 「私は、ひどいんですよ」 「……いいけど? 君がどれだけひどいことを考えていても。今日は凄く気分もいいしね」 そう言って彼は、彼女に考えを言わせることも、見ることもしなかった。 「……ごめんなさい」 「何で謝るの」 「やっぱり、私はひどい人間だなぁって思うので」 寂しげなピアノの旋律が思い出された。 彼がこれまで歩んできた道のりの中で抱えてきた哀しみが、あらわれていた音色。 能力が故の想像もつかないような苦しさがずっとあった筈なのに、それを彼が持って生まれてきたことを感謝している自分。 「ねぇ、桃花」 「は、はい」 「今日は、どこに行く? どこに行きたい?」 「あ……の」 「どこでも好きなところに連れて行ってあげる」 「お願い事をしてもいいですか」 「いいよ」 「蒼さんが嫌でなければ、今日は……蒼さんの家で過ごしたいです」 「“今日は”?」 「は、はい」 少し機嫌が悪くなった様子をみせる宮間に、桃花はどきりとさせられた。 彼の生活空間に、自分が居続けることは不愉快なのだろうかと思わされる。 「……ねぇ」 「はい……」 「君は俺を置いてここからいなくなるつもりでいるの?」 「いなくなるって……どういう」 「一緒に生きるって誓ったよな」 「はい」 「それで、今日は俺の家で過ごしたいってどういう意味? じゃあ、明日はどうするの? 明後日は? ねぇ、どこに帰るつもりでいるの」 腰を掴まれて桃花は宮間に揺さぶられる。 身体の内側で小さくなっていた感覚が、怒張するように膨らんだ。 「俺をひとりにするつもりなの」 「ん……ぁ……っ、そうじゃ……」 「そんなの、ゆるさない」 達したばかりの敏感な内部を刺激され、彼女の甘えるような声が悲鳴に変わる。 「や、やぁ……蒼さん、ま……って」 「――痛い?」 「い、いえ、痛いわけでは……っはぁっ」 行為を止めさせる最後のチャンスを彼女は逃してしまう。 でも、実際に痛みはなかったから嘘はつけなかった。 彼はどれだけ女性の身体を熟知しているのだろうかと、桃花が哀しくなるほど宮間は彼女の身体を弄ぶ。 激しく揺さぶられたり突き上げられても、痛いと思うレベルの感覚は与えてこない。それがギリギリのラインだったから、経験なのだろうかと思わされる。 「ふ……ぁ、やだ……」 バスタブの中の湯が激しく揺れる。 彼の前髪が肌をくすぐり、胸を吸い上げられた。 「あぁ……あ」 大きな快感に目が眩み、愉悦に身体が支配される。 時々漏らす彼の桃花を乞うような言葉には精神が支配された。 「や……蒼、さ……」 「いや、じゃないだろ? 俺にこうされるのが好きっていいなよ……ほら」 「あああっ」 二度三度といかされた内部は、頂点を知るのは容易くて、それこそ狂ったように何度も彼の指や塊でいかされてしまう。 「桃花、ほら……言えって言っているのが聞こえないの?」 「す……き、なの」 「何が」 どろどろに甘く溶かされた脳内でも、羞恥の感情は残っていて恥ずかしさに首を振ると、宮間が追い詰めるようにして突き上げてくる。 「ちゃんと言え」 最奥が熱くなりわき上がった愉悦に全身が震えた。 そして命令されている現状にも、彼女は堪らなく興奮させられ今までにない快感に声をあげる。 「や……蒼さん、好き……好きなの」 「俺が好きかどうかなんて、今、聞いてないよ」 「いや、蒼さん……愛して」 「ちゃんと言えって言ってるだろ」 宮間とセックスをするのは好きで、彼に抱かれたときの幸福感はなにものにも変えられなかったから、こうされることが好きで堪らないと思ってはいるが言葉にするのは羞恥心が邪魔をする。 言わないことはわざとではなかったが、自分が言わないことによって焦れた表情をする宮間に背筋がぞくぞくとさせられていた。 「桃花、抜くぞ」 「……っ、やぁっ、も……っあぁあ!」 抜かれまいと身体を押しつけた衝撃で彼女は奥の敏感な部分を自分で刺激してしまうことになり、意図せぬところで達してしまった。 「や……、気持ちい……の。もっと、私を……支配、して」 「支配? いいよ……もっともっと、おまえの身体を敏感にして、俺の身体なしでは過ごせなくしてあげようね」 「……ふ、ぅ……」 ぶるるっと全身が震える。 快楽はたくさん貰っていたから溢れるほどであったのに、まだ欲しくなる。 「蒼さんの……欲しい」 「俺の、何?」 「中に……出されたい」 何故、そう思ってしまうのかは判らなかった。 出されたことで強い快感が生まれるわけでもないのに、彼を受け止めたくて堪らなくなる。 「ちゃんと、ずっと……傍にいろよ」 重ね合わせた彼の唇が、ふるっと一瞬震え、直後に内部がじわりとした。 「ずっと、一生、傍にいる」 「どこに?」 「……こ、こ?」 おそるおそる桃花が聞くと、宮間は極上の笑顔を彼女に向けた。
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