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恋にならない 2-1


 閉じ込められた世界。
  
  そこで聞こえるのは雨音と、それに混じって聞こえてくる嬌声。
  
  襖一枚隔てた向こうでチチオヤとおぼしき男が母を組み敷いていた。
  深夜に酔って帰ってきては暴れ、母を殴り、気が済むと彼女を陵辱するのが
彼の趣味だったらしい。
 俺はそんなふうに記憶している。
  
  ――――いなくなればいいのに。
  
  部屋の隅で小さくなりながら、幼心に俺は思っていた。
  
  そして実際に中学校に俺が上がる頃には男はいなくなっていた。
  普通に母と別れたのか男が死んだのかは覚えていない。
  ただ、名字が変わった。
  
  高校に上がる頃には火をつけたら全焼してしまいそうなぼろい木造アパート
から、20階建てのマンションの一室に引っ越し、別の男と俺たちは住むよう
になっていた。
 その一年後に名字がまた変わり、俺の名字は藤(ふじ)になった。
  
  母は明るい笑顔を見せるようになっていて新しい男とは仲良くやっている様
子だったが、俺にはその空間がどうにも肌に合わなかった。
 幼少のころに絶倫男(チチオヤだけど)に毎夜犯される彼女を見て育ってい
たから、その新しいいくらか若く見える男とも、毎夜やっているんだろう? 
とちらりと想像してしまってどうにも嫌な気分にさせられた。

 そして――――。
  いなくなればいいと強く望んだ男の遺伝子を俺は受け継いでいるのかと思う
とやりきれない気持ちにもさせられた。
 顔はいつまでも少女のように華やかな母に似ていたが、この身に流れる血は
あの男のものではないかと、細胞レベルで似通ってしまっているんじゃないか
と、自分の性を恐ろしくも思えた。
 せめて俺が男でなく女性だったら気持ちが楽だったのに。
  
 実際、女性を抱くようになってから、自分の際限のなさに“それ”を思わさ
れていた。

 とくに雨の日は、何かスイッチが入ってしまったかのように欲望が膨らむ。
  あの声を聞かされ続けたのは雨の日限定ではなかった筈なのに、雨音と混ざ
った嬌声は艶めかしく、深層心理の中に閉じ込められてしまっているような感
じがした。
  
  “止められない”と思ってしまう感覚に身体が震える。
	
  その感覚は、俺が紛れもなくあの男の子供なのだと自覚させられ決して愉快
なものではなかった。
  
  
  
  
「今日も、家には帰らないの?」
 甘い声で女性は言う。
  
  場所は保健室。
  相手は白衣を着た先生。
  
「藤君は、悪い子ね」
 クスクスと笑う声。
  女性の柔らかな身体の重みは嫌いじゃない。
  のし掛かられて、場所が学校内であると判っていても、このときの俺の相手
はこの先生であったから自由にさせた。
 モラルなんて言葉はどこにもない。
  彼女に逆らう気はさらさらなかった。
  吐き出したいと思う欲望を彼女が全部吸い取ってくれるから、俺は彼女の意
のままになった。

 彼女はスリルを味わうのが好きだったのか、繰り返し行われる学校内での行
為にいつまでもバレない筈もなく、やがて彼女は退職させられていった。  
 当然俺自身も退学処分になるだろうと思っていたのに、やたら俺を庇い立て
する担任によって何故か退学は免れた。

 別に学校に残りたいとも、俺自身は思っていなかったのだけれども。







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