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恋にならない 2-2


  
  貪欲な感情を知ることとなる。
  
  俺の何に執着し、何を求めているのか知らないままに。
  
  
 ******
  
    
  次の“相手”は俺をやたら庇い立てをした担任だった。
  
  銀色の、冷たい印象を持たせるフレームの眼鏡に、いつも長い髪を一つに束
ねた真面目を絵に描いたような教師だったから、まさかと最初は思った。
  
「藤君、私があなたを助けたのよ。だから、いいでしょう?」

 頼んでもいない事柄に関して、恩着せがましく言われてもとちらりとは思っ
たものの、舞い込んできた次の“相手”に俺は身を委ねた。
  
  さすがに彼女の場合は学校内でするということはなく、自宅に俺を招き入れ
た。
  
  ――――それが良かったのか悪かったのかは判らない。
  
  完全なる密室の空間。
  
  邪魔するものがいない代わりに助けてくれるものもいない。
  
  堕ち始めてしまえば、どこまでも堕ちていく。
  際限のない闇の世界。
  
  担任は以前の彼女よりも貪欲で執拗に俺を求めた。
  執拗で、変質的な行為を好む彼女は徐々にその素顔を見せ始める。
  
  最初は精神的な苦痛を俺に与えてこようとしていたが、もともと感情が欠落
している人形相手にそういった行為は通用せず、それを面白くないと思ったの
か今度は肉体的苦痛を与えるようになった。
  感情のない人形ではあったけれど痛覚はある。
  俺が痛みに苦しみ、堪える様子を見て担任は楽しそうにしていた。
  
  繋がったまま煙草の火を押し当てられることなど日常的になっていた。
  だけど俺はそれすらも嫌だとは思っていなかった。
  逆に良いとも思ってはいない。
  その行為で与えられる痛みは感じるけれど、それをされることについては何
も感じなかった。
  
  今思えば、どっちつかずの人形に担任は踊らされていたように思える。
  
  圧倒的な支配を彼女は望んでいたのに、俺は従うけれども明確な意思をもっ
て従っていないということにあの人は気がついていた。
  それでも俺に執着し続け、何かを奪おうと必死になっていたのかもしれない。
  
「絢樹、卒業したらすぐ、結婚しよう」
 果物ナイフに俺の血をべったりつけた状態で担任がそう言った。
「……いいよ」
 横たわりながら俺が返事をすると彼女は薄く笑う。
「でも、親に、ちゃんとそう言ってね。俺、未成年だし……勝手に結婚はでき
ないよ。そんなの言わなくても、先生は知ってると思うけど」
「え?」
「親の承諾、必要でしょ……」
「そ、そうね」


 何故結婚なんてしたいと彼女が思ったのかは判らない。
  それが確固たる支配の形だと思ったのかもしれなかったが、ふたりだけの密
室の空間に置いておけばよかったものを第三者を挟むことによって世界は崩れ
た。
  
  
  家にずっと帰らなかった俺を放っておいたのに、いざ結婚となると何かを考
えるのか、義理のチチオヤが俺に対して決して聞いてはいけない質問をしてし
まった。
  
「絢樹は先生を愛しているのか?」

 感情のない人形が、愛なんてものを持ち合わせている筈もなく、担任が隣に
座って母が出した紅茶を優雅に飲んでいるというのにあっさりと俺は答えた。

「愛してない」

 俺に対して化けの皮を被れなくなっていた担任は憤慨し、その場で俺をひど
く罵り暴力をふるった。
  恥をかかせたかったのか、だとか、自分から逃げる作戦だったのか、だとか
色んなことを言っていたように思えるが全ては覚えていない。
  ただ義理のチチオヤが青ざめた顔で担任を追い返したことは鮮明に覚えてい
た。
  
  卒業式目前での出来事だった。
  
  俺が全身に傷をつくっていたこともあり、それからは家から一歩も出ること
を許されず、卒業式に出ることもなく学校生活を終えた。
  
  築き上げた世界を壊された創造主の成れの果てを知ることもないままに……。

 



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rit.〜りたるだんど〜零司視点の物語

執着する愛のひとつのカタチ

ドSな上司×わんこOL



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