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LOVEですかッ ACT.1



 イルミネーション煌めく夜の街。
 世間はすっかりクリスマスムード一色に染まっていた。

 毎年、この時期になるとワクワクとした気持ちにさせられると高桑優月(た
かくわ ゆづき)は思っていた。

「ねぇ、溝口(みぞぐち)さん。クリスマスは休めそう?」
 優月がそう言って恋人である彼を見上げると、溝口は難しそうな表情をした。
「……シフトの調整が入ってクリスマスは難しそうだな」
「イブも?」
「イブもだな」
「えー、そうなの?」 

 優月が溝口と出会ったのは夏。
 夏場の繁忙期で短期アルバイトを彼の会社が雇い、その時に採用されたのが
優月だった。
 溝口からのアプローチでふたりは付き合い始めたのだが。

「あの会社って、本当……休みたいときに休ませてくれない会社よね」
「……」
 溝口は苦い表情をしてから、彼女に告げる。

「ごめん、別れよう」





 

☆★☆★

 現在優月は発信専用のテレアポ業務で契約社員として働いていた。 (疲れたなぁ……)  小さく溜息をついてリフレッシュルームに入ると窓際で携帯ゲームを黙々と やっている人物が目に留まった。  彼は織川瀬那(おりかわ せな)で、優月と同期入社の契約社員だ。  一日中喋る業務のせいなのか、もともと彼がそういう人物なのかは判らなか ったが、織川が業務外の時間で喋っているのを優月は殆ど見たことがなかった。  電話業務でありながらドレスコードがあったりする業界ではあるけれど、優 月が働いている会社は服装が自由だった為、織川はいつもチェック柄のシャツ にジーンズといったラフな服装だった。  髪を染める人間が多い中で彼の髪は黒く、長い前髪は顔を半分隠すぐらいの 長さで黒い縁の眼鏡をかけているから入社三ヶ月経った今でも、優月は織川が どんな顔をしているのかがあまりよく判っていなかった。 (でも、電話の時は対応いいし、声も結構いいのよね)  無愛想というよりは、ほぼ存在を消すようにしてそこにいる同期に対して優 月はそんな印象を持っていた。  いつもゲームをしているが、楽しいのだろうか? と彼女は思った。  昼休みの彼も、コンビニで買ったパンやカップラーメンを食べながらゲーム をしている。優月もたまにはゲームをすることはあったが、ああも毎日やりた くなるゲームなんてあるのだろうか。  ……毎日同じゲームをしているとは限らなかったけれど。  リフレッシュルームが混み合っているのをいいことに、彼の隣を陣取って何 をやっているのかを気にしてみたもののゲーム機本体にプライバシーシートが 貼られていて、残念ながら内容がちょっと見ただけでは判らなかった。  その時。  織川は小さく溜息を吐いて、ゲームをテーブルの上に置いた。  疲れたのだろうか? それともゲームオーバー?  彼は画面から視線を外し、缶コーヒーを飲み始めた。 「……え、っと、ゲーム……終わったの?」  優月が突然話しかけたことを気にも留めず、織川は静かに頷いた。 「嫁にフられた」 「え?? よ、嫁?」  状況が飲み込めない優月に構うことなく、織川はまた頷いた。 「……どこの選択肢で間違えたんだろうか……」 「え、えー……っと、シミュレーションゲーム、やってた?」 「……彼女が好む選択肢を選んでいたはずだったのに」  マイペースに独り言をいう彼に優月は苦笑いをした。 「ああ、悪い、折角話かけてくれたのに、今、ちょっと嫁のことで頭がいっぱ いで」 「う、うん。いつも織川君って同じゲームしているの?」 「そうだ」 「飽きない?」 「嫁をこよなく愛しているから飽きるとかいうのはない」 「……ええっと、嫁って?」 「ああ、俺が好きなキャラクターのことだ」 「そういうのを嫁っていうの?」 「ああ」 「へ、へえ……」  それから彼は、いかに自分が“嫁”を愛しているかを熱く語り初め、優月は それを変わっているなぁと思いながらも黙って聞いた。   「……織川君って生身の女性には興味がないの?」 「興味ない、面倒だし……」 「そうなんだ」  面倒。  その彼の言葉が、優月の胸に小さく刺さった。  つい先日、クリスマスも当然一緒に過ごすであろうと思っていた恋人に突然 ふられ、その理由が面倒になったからと言うから優月は二の句が告げなかった。  確かに、メールはちょくちょく送ってはいた。  だけど、彼から返事がないときは返事が来るまで次のメールは送らないよう にしていた。  電話だってそんなに長話はしなかったと思うのは、優月だけだったのだろう か?  溝口から告白されて付き合い始めたけれど、結局彼は自分を好きではなかっ たのかもしれないと彼女は思っていた。 「……おまえ、良い香りがするな」 「え?」 「煙草吸ってくる」  何事もなかったように織川は立ち上がり、ゲームをボディバッグにしまうと リフレッシュルームを出て行ってしまった。 (い、良い香りって……)  とくにフレグランスの類は彼女はつけていなかったので、思わず考えてしま った。 (シャンプー……の匂いかな……)  そう言った織川もまた、男っぽい香りはさせずに清潔そうな香りがしていた と彼女は思った。  

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