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LOVEですかッ ACT.2

 

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 恋人がいるときはクリスマスムードにワクワクした感情が芽生えたものだっ たが、溝口に去られた優月は少しだけ寂しい思いがしていた。  駅ビル内にある大きなクリスマスツリーですら、今は恨めしい。 (いいもん。今年は一人寂しく、ケンタッキーでも食べてやる)  携帯を取りだして、クリスマスツリーを撮影する。  小さく溜息をついてから振り返ると、織川が真後ろに立っていた。 「お、織川君??」 「でかいツリーだよな」 「え? あ、うん」 「去年もこんな感じのツリーだった」 「去年も見たの?」 「地元だから」 「あ、そうなんだ?」 「ああ。ここから歩いて5分のとこに住んでる」 「通勤が楽でいいね」 「……楽だから、今のとこにしたんだけど」  くくっと織川は笑った。  いつも似たような服装が多い彼だったけれど、スタイルが良いせいか野暮っ たさはまるでない。  前髪が長いせいで顔が隠れてしまっているけれど、その容貌は悪くないので はないかと優月は思えた。 「えっと、織川君は駅ビルに用事だったの?」 「ああ、そこのパン屋で何か買って帰ろうかと思って」  くいっと顎を向けた先には確かにパン屋があった。 「織川君って昼もパン食べてたよね? パンが好きなの?」 「好きって言うか、簡単に食えるから」 「……んー、そうなんだ」 「高桑さん」 「はい?」 「ちょっと待ってろ」  織川はそう言うとすたすたとパン屋に入っていってしまった。 (な、何?)  しばらく待っていると、織川がパンを買って戻ってくる。そして優月の前で 袋からひとつビニールに入れられた星形のシフォンケーキを差し出した。 「シフォンケーキだ。やるから食べろ」 「え? あ、ありがとう」  織川がシフォンケーキだと言ったそれを優月は受け取り、眺めた。 「可愛いね。クリスマスっぽい」  彼女のその言葉に、織川は満足そうに微笑んだ。  そんな彼の笑顔が綺麗に見えて、優月の胸が高鳴る。  近くで見ると、織川は綺麗な顔をしていると思えた。 「あそこのパン屋はパンも美味いけど、そういうシフォンケーキやらドーナツ なんかも美味いんだよ」 「そうなんだ」  何故自分にシフォンケーキをくれたのだろうか? 優月はそう思い織川を見 上げるが、彼はただ微笑んでいるだけでそれ以上何かを言うことはなかった。  そのことが逆にくすぐったいような感じがして、優月は頬を染める。 「お、織川君は、この後……すぐ家に帰る、の?」 「本屋とCDショップに寄って帰ろうかとは考えていたけど」 「そ、っか……じゃあ、私、これで……」  優月が帰ろうとしたとき、織川の指が彼女の頬に触れた。 「え??」 「高桑さんって可愛いよな」 「ええっ!?」 「この世の中で一番可愛いのは嫁だけど、二番目はおまえだと思う」  二次元の世界の人間と比べられて優月は不思議な気持ちになったが、可愛い と言われたことには思わず頬が熱くなる。 「あ、あの」 「だから」  彼はまた笑った。  優月はその微笑みを見て「ああ」と思った。  織川は自分を慰めてくれているのではないかと思えた。  星形のシフォンケーキも、褒めるのも、彼なりに元気づけてくれているので はないかと考える。 「……ありがとう、織川君。嬉しい」 「嬉しいとか……滅茶苦茶萌えるんだけど」 「え? 萌え?」 「生身の人間に、こんなにドキドキさせられるの久しぶり」  そんなことを言って織川が魅惑的な瞳を優月に向ける。 「え、あ、か……からかわないで」  優月はそれだけ言うのがやっとの様子で織川から顔を背けた。 「からかってないよ」  彼の意図が優月にはどんどん判らなくなっていく。慰めてくれているのかと 思えば、どうやらそれも違うように感じてくる。 「“優月”って綺麗な名前だな」 「そ……そうかな?」 「ね? これからは優月って呼んでもいい?」  織川はにこにこと笑っている。  彼のマイペースさに、優月は大きく戸惑った。 「俺のことも、瀬那って呼んでいいから」 「あ、あのっ、だめ、だと思う」 「なんで?」  織川は首を傾げた。  長い前髪がさらりと揺れて、切れ長の瞳が見える。  よく見ると彼の睫毛はエクステンションでもつけているのかと思うぐらいに 長く、その長さが余計に瞳の輝きを魅惑的に見せているような気がしてしまう。 「……だって、織川君とはそんなに仲良しじゃないし」 「じゃあ、これから仲良くなればいい」 「え、えっと……」 「俺なんかとは、仲良くしたくない?」 「そんなことは……ないけど」 「だったら、仲良くして」 「……う、うん」  半分以上勢いに負けて優月がそう返事をすると、織川はにっこりと微笑んだ。

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