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LOVEですかッ 2−1


  ロールキャベツ男子。
  まさに瀬那はそうだった。さわやかに微笑み“そういうこと”を好みそうになかったのに、一皮捲ってみれば内側に隠されていた部分に圧倒された。にっこり笑って全部を奪おうとするのが彼で――――。
(誰か彼の取り扱い説明書を私に見せて欲しい。と、いうか私の人を見る目を養わないと駄目か)
  そんなふうに優月は考えた。
  彼に対して抱いていたものは全て見当違いだった。年齢に関しても、性格に関してもそう。よくよく考えてみれば瀬那はいつも何かを含んだような台詞を言っていたがその部分を優月が気づかずにスルーしてしまっていただけで。
  だけど。
『優月は俺の嫁にするんで』
 あの言葉をそのまま受け取ることが彼女には出来なかった。
  元彼の溝口にふられたばかりの優月は、彼の仕掛けてくる言葉を本気に受け止めることが出来なかった。
  ……それでもきっと心のどこかでは優月も期待していたのかもしれなかった。彼の冗談のような話が本当であればいいと。
  パン屋のショーウインドウの前で立ち止まる。星形のシフォンケーキが陳列されているのが見えた。それは優月が瀬那から初めて貰った“贈り物”で、あのときどんな感情を胸に抱きながら彼は自分にくれたのだろうかと考えると優月心の中がつきりと切なく痛んだ。
  彼から与えられる感覚はときとして痛みを伴うけれど、そのあとからやってくる甘い感覚に溺れてしまう。そのたび、もっと欲しいと貪欲になっていく自分自身に優月は驚かされたが、彼女が浅ましいと思えるような感情でも彼は喜んで受け入れてくれていると感じられるからこそ、安心して心を預けることも出来た。
  瀬那が好き。愛しくて堪らない。
  もしも、溝口と同じように突然別れを告げられたら優月は到底それを受け入れることが出来ないだろうと思えた。今の彼女は彼がいなければ駄目だと考えていた。
  彼の愛情を受けなければ、きっと枯れてしまう。人生という名前の花が……。
「お腹が空いているのか?」
 ふいに声がして、振り返るとそこには上質そうなスーツの上にコートを羽織った瀬那が立っていた。
  こういう格好をしていれば彼は年相応で、優月は自分の幼さが恨めしく思えてしまう。
 そしてそう思うのと同時に、自分がこの男と結婚するのかと考えると何故か涙が滲んでしまった。そんな優月の様子を不審そうに彼は見ていた。
「優月? 何、どうした?」
「ごめん。なんかもう……」
 公衆の面前だと判っていても、彼女は抱きついてしまいたくなった。そして優月がそれを告げてしまえば彼はそうすればいいと言うことが予想出来て、全力でその言葉は飲み込んだ。
「星形のシフォンケーキが愛おしすぎて」
「え?」
 彼の視線が優月を通り越してショーウインドウに向けられた。ふっと笑う瀬那のその笑いかたには甘さが含まれているように見えて昂ぶった優月の心が更に昂ぶらされてしまった。そんな彼女の心うちを知ってか知らずか彼は再び笑う。
「じゃあ、そこにある分、全部買ってあげようか」
「それは駄目」
「食べきれないから?」
「……他の人のきっかけを奪うことになるかもしれないから」
「何のきっかけ?」
 首を傾げたときにさらりと揺れる彼の前髪。その仕草。どれもやっぱり愛しくて堪らないと優月は思った。
「こ、恋……のきっかけ」
 彼女が告げた言葉に数秒沈黙した後に、瀬那はうっすらと微笑んだ。
「へーえ」
「……い、意地悪だよね」
「何がだよ」
「顔。というか、表情」
「そう? だけど、俺にそういう表情をさせるのはおまえのせいだから。毎度毎度煽ってくれる」
 唐突に腰を抱かれて引き寄せられた。
「せっ瀬那!」
 抱き締めようとしてくる腕から優月が逃れようとすると瀬那は笑う。
「なんで拒もうとするの? 本当はこうして欲しかったくせに」
「こういう場所では駄目」
「どこならいいの。言ってみな」
「せ、瀬那の……家とか」
「ふぅん、もういきなり俺の家に行こうっていうの? 飯も喰わずに」
 意地悪い彼の表情を見て、優月はこうなってしまうと止められなくなると考えた。だけどそういった切り替えのスイッチを入れてしまうのはいつも彼女だったのだけれども。
「ご飯は、その」
「パンか」
 ちらりと瀬那の視線が向けられた先には、星形のシフォンケーキ。
「あ、うん……そうだね」
「全部?」
「だ、だからそれは駄目だって」
「何で?」
 くくっと笑う彼は悪魔のような天使のような二面性をもった妖艶さを見せつけてきて彼女は思わず顔を赤らめた。
「とにかく、ふたつあれば十分なの」
「まぁ、今はスルーしておいてあげるけど、家に帰ったらとことん追求してあげようね」
 前言撤回。と優月は思った。
  彼は完全なる悪魔っ子で、そして草食に見えて肉食で。だがそういう二面性にも優月は際限なく惹かれてしまう。
  
  白い息がふわりと口元から漏れる。
  彼の“嫁”になる為に優月がコールセンターの仕事を退職した、そんな大晦日の夜の出来事だった。
 
  
   
  
  

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