瀬那が買い占めた星形のシフォンケーキは、宣言通りに彼が全てたいらげた。優月も協力はしてみたものの、やはりたくさんは食べられなかった。 「年越し蕎麦、食べられないね」 シフォンケーキで膨らんだ胃袋を抑えながら優月が彼に言うと、男はにこりと笑う。その後、すぐさま言葉が続かないあたり、瀬那が何か考えているのは明確だったがそれが何であるかまでは彼女には判らなかった。 「……お皿、洗ってくるね」 真っ白な皿とフォークを持って、優月はキッチンへと向かう。 広いシンクに食器を置いて蛇口をひねりお湯を出す。流れ作業のようにスポンジに洗剤をつけて泡立てながら、ふいに思う。これからは、もうずっと彼と一緒に過ごすのだと……。そう考えると途端に心の中があたたかなものでいっぱいになった。 そして、改めて自分は彼のことが好きなのだなと感じた。 皿を洗うことが楽しいわけではない、だけど瀬那と共に食事をして後片付けをしている自分の姿はなんだか“奥さん”という感じがしてくすぐったい気持ちにさせられた。 「ずいぶんとご機嫌な様子だね。にこにこ笑って何を考えてたの?」 いつからいたのか、背後からの声に優月は思わず身体を跳ねさせた。 「せ、瀬那、何、いつから見てたの」 「ずっとだけど」 絡む視線に熱が帯び、瞳をきらめかせている光には甘さが滲んでいるように見えて、優月の胸が震える。 (ああ……まただ) 抱きつきたいと思う気持ちがわき上がる。 そういえば、パン屋の前で感じた思いは未だ満たされてはいないのだということに彼女は気付く。 「ねえ」 「な、何?」 「抱いていい? 今、ここで」 「あ、うん」 抱きしめられたいのはむしろ自分のほうだと考えた彼女は、彼の言葉の意味を深く考えることなく、洗い終わったあともなお、手に持ったままでいた白い皿を洗いかごに置いた。 「優月、好きだよ」 「……うん、好き」 背の高い細身の身体が、彼女の小さな身体を抱きしめる。男の体温の心地よさに、うっとりとする……暇もないほどに瀬那の手がすぐさま優月のスカートの中に入り込んでくるものだから、彼女は思わず身体をひいた。 「え? ちょっ、ちょっと瀬那!?」 「逃げるなよ。我慢出来ないんだから」 「我慢って」 「いいって言ったよね?」 「言ってな――」 もう黙れ、と言わんばかりに男の唇が彼女の唇を塞いだ。抗議の途中で半開きになっていた唇には瀬那の舌が這わされて、そのまま口腔内に入り込んでくる。濡れた生ぬるい舌の感覚と片腕で抱きしめられている感覚に意識をもっていかれていると、気がついたときには下着が足元まで落とされていた。 「せ、瀬那っ」 「拒むな……挿れさせて、このまま」 強く言ったかと思えば、甘えるように懇願する男の声に思わず気が遠くなった。拒みたいわけではなかったが、ふわりと瀬那から清楚な香りがすると暖房のきいたセンター内で一日働いていた自分の身体の匂いが気になってしまう。 「瀬那、せめてシャワーを」 「聞こえない」 「んぅっ」 秘裂を撫でられ声が漏れた。彼の指先が入り口付近を滑らせるようにして往復するとぴちゃぴちゃと水音が立つ。 「優月だって、欲しいんでしょう?」 瀬那の言葉に、その音がわざと立たされているものだと彼女は気付く。 もうこれ以上の愛撫がいらないくらいに準備が出来ている身体を知らしめるために瀬那が自分にしている行為なのだと自覚してしまえば羞恥で全身が熱くなった。 「欲しいんだろ?」 音を立たせていた指が、つぷっと内部に入り込んだ。 「あ……やっ……」 男の長い指が、ゆっくりと抜き差しされる。内壁に小さな刺激を与えられるとどうしてか、もっと強い刺激が欲しくなり内部がじわりと蠢いて彼の指を欲した。 くすっと瀬那が笑う声が聞こえる。笑いながら男は指を挿し込みながらも興奮に震える花芯を親指の腹でいたぶるようにして弄ってきた。 「そ、れ……いや」 「どうして? 好きでしょう、挿れながら触られるの。こうすると、いきやすいもんねぇ、優月は」 いきやすいというフレーズを使うものの彼は実際には彼女をそういう状態にはさせずに中途半端な刺激を下腹部に与える。 ただ抜き差しされているだけなら、わきたつ快感はさほどのものでもないはずなのに、瀬那は彼女の身体を弄ぶようにして「いきたい」と優月が思う絶妙な感覚を与え続けた。 「せ、瀬那っ」 たまらず彼女が瀬那を見上げると、男は意地悪く瞳を細めた。 「なぁに? 優月」 その男の声と表情で、失敗をしたんだと優月は感じていた。あのとき、細かなことを気にせずに彼を受け入れておけば、更なる羞恥を与えられずに済んでいたのに――と。 彼女が瞳を潤ませればいっそう瀬那は愉快そうな表情を浮かべた。 「欲しいんでしょう?」 「う、うん」 「何を?」 びくっと彼女の身体が揺れた。いったいこの男は、草しか食べなさそうな顔をして何を自分に言わせようとしているのか。 言葉にすることの羞恥を笑うようにして瀬那は続けた。 「別に、名称を言ってくれなくてもいいけど……準備はしてよ。ほら、俺、優月を押さえたり、指を使ったりしているから両手が塞がっているんだよね」 もっともらしく彼は言うと、優月が次にするべき行動をうながした。ベルトを外し、フロントをくつろがせて男の一部分をひきだすと、瀬那もまた準備など必要ないくらいに、その部分は猛々しくそそり立ち、興奮で露に濡れていた。 「で、どうしたい?」 「も……や……瀬那」 羞恥に染まった顔を横に振ると、うっすらと彼は笑う。 「ああ、したくないってことか」 指を引き抜き、彼女の身体を壁に押しつけると言葉とは裏腹に秘裂に男の熱を擦りつけてくる。 質感的には大差ないはずのものであるのに、擦りつけられているのが男性器だと思うと下腹部の疼きがずっと強くなった。 「したくないわけじゃない」 「で?」 繰り返し聞いてくる瀬那に、優月は興奮に濡れた赤い唇を動かした。抱いて欲しいと。 「挿れさせて欲しいと先に願ったのは俺のほうだったような気がするんだけどね」 くくっと笑いながらも、満足そうな表情を浮かべて彼は自身の熱の塊を優月の中に挿し込んだ。 「あぁ……っ」 身体の内側が瀬那の身体で満たされていく感覚に、彼女は震え声を漏らす。 「我慢させられた分、ひどくするからな」 「や……だ。変なこと、しないで」 「変なことって何だよ」 揺らされた身体が、大きな快楽の渦に飲み込まれていくのはあっという間のことだった――。 この男の取扱説明書が、やはり必要だとその晩優月は強く感じさせられた。 ****** 「そろそろ、お腹が空いたんじゃない?」 ベッドから身体を起こして飄々と言う男に、優月は虚ろな瞳を向けた。 「……え?」 「体力、使ったからね……年越し蕎麦でも食べるか」 未だ艶っぽく輝いたままの瞳の男を見上げて、この人は最初からそのつもりだったのかと優月は思わず苦笑いを浮かべる。 「正直、お腹ペコペコです」 「だろうね」 瀬那は微笑み彼女の頭を撫でた。 「……いじめっ子」 「そうさせているのはおまえだよ?」 「そうかな」 「そうだよ。嫌になったか?」 「何を?」 首を傾げる優月を見つめながら、瀬那は次の言葉を告げない。また何か企んでいるのかと感じた彼女は身体を起こした。 「わ、私は、瀬那を愛しているんだからねっ」 「うん、俺も」 にこりと彼は微笑んで優月に口付けた。だけど言葉にしない瀬那に不満を覚える。 「瀬那も言ってよ」 「何を?」 「……愛してますか?」 聞く彼女に、極上の笑みをたたえて瀬那は返事をした。 「愛してますよ」 だって、俺の嫁だし。と彼は笑った。 「じゃあ、来年も宜しくね」 「ずっとだろ?」 街では除夜の鐘が鳴り響く頃、優月は瀬那の作った温かい蕎麦で身も心もあたためられていた。 来年も再来年も、同じように過ごせますようにと願いながら――。 −END−
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