そうなったらいいなと、思い描いていたのは私だ。 それで間違いはない。 彼がどんな風にセックスをするのだろうかと想像していたのも私の方だ。 だけど、実際“そう”なってみると心が全然追いつかないのも事実だっ た。 (……入ってる、よね) 後ろから、私の“部分”に深く入り込んでいるのは確かに彼の“もの” だった。 ネクタイで縛られた両手首も、現実のものだとはおおよそ思い難くて。 別にレイプされてるとか、そんなんでは全くないんだけど。 「痛いか?」 後ろから声がして、また現実に引き戻される。 「あ、い、いえ」 私の顔の傍に彼の顔がある。 他人の匂いがした。 でもキライではない、優しい香り。 ちょっとだけ、煙草の匂いとアルコールの匂いがする。 長い指が綺麗だと、初めて会ったときから思っていた。 あの指で、どんな風に女性に触れるのだろうかと想像もした。 だけど今その指が触れている先にあるのが、自分の胸で……。 (なんか、すごく、ヘンな感じ) 体内にある塊にも、不思議な感じがした。 「動くぞ」 「あ、は、はい」 ゆるゆると抜いて、それからまたゆっくりと私の中に入ってくる。 まるで私の体内を自分のものに馴染ませるかのような動きで。 「ん、ぅ」 彼の大きな身体が後ろから私を抱きすくめる。 悪くない感触。 ちら、と見上げると彼と目が合った。 二重で切れ長の綺麗な瞳が私を見ている。 ああ、綺麗な目だなぁと、ぼんやりと考えてしまうのは、アルコールの せいなのだろうか? こんな風に抱かれてしまっているのも、全部、アルコールの所為? 「えと、あの……成田、さん」 「うん?」 「気持ち、良いですか?」 ふっと彼は笑った。 「良いよ」 「そ、ですか」 「おまえはどうなんだ?」 「あ、ええっと……」 「その返答は不本意だな、非常に」 柔らかく微笑んでから、彼は身体を揺すった。 「んっ!」 「可愛い声で啼いてみせろよ、抱かれてみたいと言ったのはおまえだ」 確かに、私なので、本当…困る。 ****** 正社員で入社した会社は超有名企業ではないけれど、自社ビルを持つぐ らい割りと大きな会社だった。 成田さんはそこの設計1課の主任さんだった。 すらりと背が高くて、驚くほどスーツが似合う人。 初めて見た時から、見目麗しい人だと思ってた。 黒目の割合が多い、切れ長の瞳にそれを縁取る長い睫毛はその美しさを 際立てる。 入社してすぐの花見の席では、桜の美しさと彼の美しさに酔ってしまっ た程だ。 そして緑が美しい季節の飲み会で、私はまた彼に酔ってしまったわけで。 「更科 さんは、何を飲んでいるの」 居酒屋で宴会が始まってから1時間後、みんなが席を移動したり結構思 い思いの行動を始めた頃、成田さんが私の横に座ってそう言った。 「桃のサワーです」 「甘そうだな」 「甘くて美味しいですよ、成田さんは、ええっとビールですか?」 「うん、でもちょっと酔ったから、避難してきた」 ちょっと酔ったと言った彼の横顔は、頬がほんのり赤くなっているように見え てそれもまた美しかった。 (唇とか、ほんっと形が綺麗だなぁ) この唇で、どんなキスをするんだろうかとちょっと考えてしまった。 唇じゃなくても良いから、その頬に唇を寄せてみたい。 「烏龍茶とか、頼みましょうか?」 「うん、そうだな」 「判りました」 近くに居た店員さんに声を掛けて烏龍茶を注文した。 テーブルのあちらこちらから料理のいい匂いがしてくる。 「ここの居酒屋さんの料理って美味しいですよね」 「え、そう?普通だと思うけどな」 「えー、美味しいですよ、唐揚げとか」 「そうかな」 「うん、美味しいと思う」 「鶏料理が好きなのか?」 「結構好きですね」 「へーえ、ここより美味い鶏料理の店、知ってるけどな」 「ああ、そうなんですね」 「お腹いっぱいじゃなかったら、2次会で行くか?その店」 「え?」 「2次会だよ」 彼は見とれるほど綺麗に、にっこりと笑った。 会社の飲み会が何度かあっても、こんな風に誘われる事は今までなかっ たのでちょっと驚いてしまう。 でも、断りたい理由は何一つなかったので、私は飲み会の後、彼がオス スメだというお店に行く事になった。