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rit.2〜りたるだんど〜 STAGE.1




息が止まりそうになる。
前と同じキスの筈なのに、同じではないみたいで。

「花澄、好きだよ」
すっきりと切れ上がり、酷薄そうに見えがちな瞳が甘く滲む。
彼に言われるその言葉は、どんな言葉よりも私の心を震わせた。
「泣きっぱなしだな、そんなに嬉しいか? 俺に言われるのが」
「う、れしいです」
「俺だって言われたら嬉しいぜ?」
「あ、す、好きです」
「こっちが言う前に言えっての」
零司さんは微笑んだ。
「煙草吸うぞ」
「はい、どうぞ」

かちっとライターで火をつける音がして、煙草の先端に火が灯る。
煙草を挟み持つその指は、人よりも長く、そして綺麗だった。
一度吸った煙を吐き出してから彼は言う。

「言っておくけど、俺はずっとおまえが好きだったんだからな」
「え? そうなんですか」
「そうなんですか、じゃねーっての」
「だって全然判らないです、そんなの」
「おまえ、どんだけ鈍いんだよ」
はぁ、と零司さんは息を漏らした。
「そんな事を言われても……」
「コッチは好きで好きで堪んなかったってのによー……って泣くなっての」
止まりかけていた涙が、また溢れてくる。
「だ、だって」
零司さんの背中に身体を寄せた。
「煙、そっちにいくぞ」
「構わないです」

愛しいと思う気持ちは、彼に言われれば言われるほどに強くなっていた。
心にかけていた鍵が外され、想いが溢れている気がする。

零司さんへの想い。

「零司さんが好きです、愛しいです」
「……ああ」

好きだと思う強い心と、独占したいと思う強い心が混ざり合って翻弄される。
零司さんが感情をこちらに向けてくれていると思うと尚更だった。

「花澄」
「……はい?」
「服、脱いで」
「え?」
「服を脱いで、おまえの身体を見せろって言っている」
「え、あ、は、はい」
寄りかかっていた彼の背中から慌てて身体を起こして、羽織っていたカーディ
ガンを脱ぐ。
ブラウスのボタンに手をかけた時、彼が身体の向きを変えて私を見る。
「……簡単に、脱げとか……言いますけど」
「恥ずかしい? でもそういう顔が見たいんだよ」
「い、じわるです」
「今更」
零司さんに脱がされる事だって恥ずかしいと思っているのに、彼の目の前で自
らそれをしなければいけないのは羞恥の極みだった。
煙草を吸いながら、彼はじっと私を見詰めている。
見られていると意識すればするほど、身体が熱くなった。

「本当、俺好みの身体をしてるよな、おまえって」
彼は僅かに目を細める。
脱ぎ終えるタイミングを見計らってなのか、零司さんは煙草の火を灰皿で揉み
消した。
「やらしい身体つきで、ゾクゾクする」
近寄ってきたかと思ったら、前触れなく私の下腹部に指を這わせてきた。
「やっ……」
「何、濡らしてるの? 俺に見られてただけで感じたのか? やらしい女だな」
指を前後に動かされても、その指の動きは滑らかだった。
彼が言う通り、私のそこは溢れそうなくらいの体液で満ちていたから。
零司さんはわざと音が立つ方法でそこを弄ってくる。
部屋が静かなだけに、その音がやたらと高く感じた。
「や、だ、ぁ」
「嫌なのか? やめて欲しいんだ?」
「い……いじ、わる……です」
「だけど、そんな男が好きなんだろ?」
くくっと彼は笑った。
「俺が、好きなんだろう?」
「す、き……です」
その言葉を口にすると身体が震えてしまう。
心の中の甘い疼きが強くなってしまうから。
「もっと言え、花澄」
「……零司さんが、好きです」

私の全部を差し出して、それで愛してもらえるのならそうする事も構わないと
思ってしまうほどに。

「零司さんに愛されたいです」
「愛してやるよ」
ふっ、と彼は笑って床に私を押し倒した。
背中には柔らかなラグの感触。
シャツを脱ぎながら零司さんが言う。
「俺の身体、好きなんだよな? おまえ」
「身体だけではなく全部、です」
静かに輝いていた彼の瞳が色を変える。
「ふうん」
彼が耳朶や首筋に唇を滑らせる感触に意識がもっていかれる。
零司さんの肌が重なってくる感覚が堪らなく良かった。
彼の素肌と自分の素肌が触れ合っている感触が気持ち良くもあったし、心地良
くもあった。
「……花澄」
抱き締められながらも、身体の中心には硬いものが当たっていた。
入口が探り当てられれば、もうすんなりと入ってしまうと思えた。
つっ、と身体への入口が彼のあの部分で撫でられる。
「っ……」
「このまま、入りそうだな」
「……は、い」
「入れるぞ」
私が返事をする前に、彼は中に入ってくる。
ダイレクトに触れ合う感覚に身体が震えた。
「や……ぁ……」
「……花澄」
「れ、零司さん、ぁっ」
「ん……気持ち良すぎるな」
甘い吐息を彼が漏らすたびに、私の方が煽られて気がおかしくなりそうだった。
体内に与えられている快感だけで手一杯だというのに。
彼が身じろぐように動くだけでも内部は敏感にその刺激を感じ取り、私に触れ
合う甘さを伝えてくる。
「零司さん……」
「……は……、おまえ、本当気持ち良くて参る」
「わ、たし……も」
「ああ、判る、中が……凄く熱い」
「溶かされそう、です……」
「それは、こっちの台詞だ」
緩やかに動きながら、彼の手が私の頭を撫でる。それから、私の頬に。
「……花澄、好きだよ……」
「す、き……です……っ」
華やかさの中に色気を持っているのは普段からそうだったけれど、今の零司さ
んは普段の倍以上妖艶さで私を狂わせる。
艶やかな色で輝く瞳で見つめられたら心ごと溶かされてしまう。
「あ、……んっ……」
「もっと、喘いで、良い声聞かせろよ……」
「零司さん、あ……っ、ぁ」
彼が抜き差しするたびに、溢れた液体が滴り落ちているような気がした。
それぐらい、妖しげな水音が部屋の中に響いている。
「ラ、グ……よごれ……ちゃいますっ」
「かまわねーよ、そんなの……」
「でも、あっ……ん」
「余計な事、考えてんな」
「んっ……ふ、ぅ」
重ねられた唇、割って入ってくる舌。
こちらも粘膜だからなのだろうか、今はひどく触れ合う事で快感が強くなった。
濡れた舌を絡み合わせる。
そこだけが、まるで違う生き物みたいに感じた。
「ん……花澄……ああ……やばい、本当に気持ち良すぎて……気がおかしくな
る」
「……零司さん、もっと……ぁ、かんじ、て……ください、私の、身体、で」
「やらしい言い方するよな……おまえ」
「だ……て、零司さんの、気持ち良いから、零司さんにも気持ち良く、なって
……ぅ……」
彼のものが最奥に届いてくる。
そうなるように零司さんが身体を押し込んできた。
緩やかに身体が揺さぶられ、望む快感が近くなる。
「や、それ……だめ……」
「可愛い声で、駄目とか言ってんじゃねぇよ……っ」
「だって、あっ……」
「いきたいだろ? いけって……じゃないと、俺……もたねぇぞ」
眉根を寄せて、彼は小さく笑った。
そんな表情も、反則的に艶かしく色っぽいから、ぞくっとしてしまう。
「零司、さん……ああっ」
「花澄、花澄……」
「好き、です……零司さん」
「……っ、あぁ、俺もだよ……めちゃくちゃ……愛してる……」
「……うれし……い、ですっ、あ……っ……あぁっ」

疼いていた感覚が強くなり、快感を呼び覚ます場所を何度も彼のもので擦り上
げられたり突き上げられたりして強まった快楽は火花を散らすような激しい感
覚を私に与えて終わりを見せた。


「ラ、グ……が、どろどろ……です」
「かまわねぇって言ってんの」
私の身体の上に広げられた白濁色の液体をティッシュで拭いながら彼が笑った。
「……そして、立ち上がれません」
「待ってろ、ベッドに運んでやるから」
ティッシュをゴミ箱に捨ててから、彼は私を易々と抱き上げた。
「あっ、す、すみま……せん」
「別に」
「零司さんも、お疲れなのに」
私の言葉に、ふっと彼は笑った。
「これぐらいなんて事ねぇよ」
ロールスクリーンの向こう側にある大きなベッドの上に私は寝かされた。
「……零司さんって、本当……どの部分も、反則的に綺麗ですよね」
「反則って意味わかんねぇけど、おまえが好きなら……そりゃ、良かったなと
言うしかないな」
「指、長いし、手が大きいし……」
「そうか?」
「ギター弾くのに丁度良さそうですよね……」
「なんでギター?」
「ギター弾く人って、皆さん、指が長かったりするじゃないですか」
「……」
「私、指が短いので憧れるんですよね」
「別に短くはないと思うけど?」
「ギターを弾くのにはちょっと四苦八苦ですよ?」
「あ? おまえギター弾くのか? その爪で」
零司さんは私の左手の指を触りながら言った。
「最近は全然弾いてないので、伸ばしちゃってるんですけど……」
「ふーん」
私は、ちらと彼を見上げた。
「零司さんは爪短くしているんですね」
「……は? だからなんだよ」
「ええと、ギター弾くのに、左手の爪が長いとダメって、よく知ってるなぁっ
て思ったんですけど」
「……」
じっと私が見ると、彼はちょっと気まずそうな表情をした。
「零司さんってもしかして、弾ける人だったりするんですか??」
「爪を短くしてるのは両手だろ」
「ピック弾きだったら、右手の爪の長さ関係ないですよね?」
「しらねっての」
「……内緒なんですか?」
「……」
「ほんとうは……」
「あー、もう、おまえー」
私の横に頬杖をついて彼は横になった。
「ヘンなところ勘が良いんだな。ったく」
「じゃあ、やっぱり弾けるんですね?」
「弾けるって程じゃねぇよ」
「最近始めたばかりなんですか?」
「……違う」
「ふぅん、そうなんですね、このお部屋にはギターないんですか?」
「……」
「このお部屋って、防音完備されてる感じですよね」
「このマンションは――――」
「はい?」
「なんでも、ない」
「……零司さん、なんだか秘密いっぱい持ってそう……」
私がじっと見上げると、彼らしくなく困ったような表情を浮かべた。
「私には、言えない……こと、なんですか?」
「あー、そういう目で俺を見るなっての」
はぁ、と彼は深く溜息をついた。
「部屋に……ギターは、ある」
「そうですか、だから防音がしっかりできてるこのお部屋に住んでるんですね?」
「……」
「違うんですか?」
「防音はたまたまで、ギターの為じゃねぇよ」
「そうなんですか」
「そうだ」
「ふうん……」
「クローゼットの中にあるから、弾きたいなら弾けばいい。弦はかえないとダ
メだと思うけどな」
「弾いてはくれないんですか?」
「弾けるってほどじゃねぇって言ってんの」
零司さんは笑いながら、私の髪を指で梳いた。
「……こういう風にされるの、気持ちいいです……」
「うっとりした顔するもんな、おまえ」
くくっと彼は笑った。

歌は好きじゃないと言ってみたり、ギターはあるのに弾けないと言ってみたり。

触れられたくない事なのかなと思えた。

私は零司さんの歌を聴いてみたかったし、ギターだって弾いているところを見
たいと思うけど、しつこくしても仕方がない。

(いつか、機会があったら)

私の髪の毛を弄っている彼を見てそう思った。


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