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rit.2〜りたるだんど〜 STAGE.2

******

「嫌です」
「……花澄?」
「お饅頭は断然、粒餡でこし餡は嫌です」
「あ、ああ、好きなのを買えばいいと思うけど」

家の近くにある大型スーパーで私たちは買い物をしていた。
「大きなスーパーですよね」
「この辺は商店街があるというわけでもないからな」
「ブロッコリーが食べたいです、温野菜サラダでも作りましょうか?」
「ああ、いいなそれ」
零司さんが持つカゴにブロッコリーを入れる。
「零司さんは好き嫌いとかありますか?」
「特にないかな」
「そうですか」

こうやって一緒に買い物が出来る事が嬉しい。

同棲していた前の彼はそういう事をしない人だったから、余計に嬉しいと思え
るのかもしれなかった。






海老を乗せた温野菜サラダとトマトソースのパスタが休日の昼ごはんになる。

「おまえが作る料理は美味いな」
「え? あ、そうですか?」
「ああ」
「そんな風に言われるのは、初めてですね」
「……誰に手料理を振舞ってきたんだか」
ふっと笑いながら彼が言う。
「……あの……」
「なんだよ?」
「零司さんのそれは、もしかして焼きもちとかそういうものなのでしょうか?」
「もしかしなくてもそうだ」
「そうなんですね」
「言っておくが、俺は嫉妬深いほうだからな」
「え? 零司さんがですか?」
「そうだ」
「今までの彼女さんたちは、零司さんが嫉妬せずにはいられなくなるほどステ
キな方たちだったのですね」
私が笑うと、彼がちょっと睨んできた。
「相手がおまえだから、嫉妬もするんだろうが」
「え?」
「“え?”じゃねーっての」
嬉しいと思う気持ちが胸をくすぐるから、彼の言葉に何も言えなくなってしま
う。
熱くなった頬で、体温の上昇を感じる。
そんな私の様子を見て零司さんが笑った。
「そんなに嬉しいか」
「嬉しいです」

酷薄そうな零司さんの瞳が今は表情豊かに優しく輝いていた。
そんな彼の瞳にも私はどきどきさせられる。


……ずっと、こうしていられたら、どんなにいいだろう。


来年も、再来年も、同じように私の目の前には零司さんがいて、一緒にご飯食
べて……そんな生活をずっと続けていけるならどんなにいいだろう。

ずっと……そんな風に私はいつだって願っていたけれど、終わりはやってくる。
前の彼も、その前の彼もそうだった。
零司さんとも、いつかそんな日がやってくるのかな。



『荷物だって、少ししか運ばないしさ』
『荷物?』
『おまえの荷物だよ、紙袋2つって少なすぎるだろ』



他意はないって私は答えたけど、完全にここを生活の場にしてしまう事がやっ
ぱり怖いのかもしれない。
“出て行け”って言われたら、すぐに出て行けるようにと無意識に思ってしま
ったのかもしれない。

実家から荷物を運んだ時は、さほど深くは考えなかったけれど。



******


「花澄、風呂入るぞ」
昼食を終えて暫く経ってから零司さんが言った。
「え? あ、はい、下着の用意をしておけばいいですか?」
「そんなもん、自分で出来るっての、一緒に入るぞって言っている」
「え、い、一緒にですか??」
「そうだ、何度も言わせるな」
「一緒とかって、でも、あの」
「グダグダ言うな」
彼は有無を言わせないような目つきで私を見てから立ち上がった。


零司さんの家のお風呂は広めに出来ていた。
湯船もそうだけど、洗い場も含め、ゆったりとしている。
のんびり出来る場所ではあるけれど……。

「ふたりで入ると、あまりゆっくり出来ないんじゃないですか?」
「別に」
お湯の張られた湯船に身体を沈めると、後ろから彼に抱き締められた。
「……私は、落ち着かないです」
くくっと零司さんは笑った。
「なんで?」
「恥ずかしいですし……」
「裸を見られるのがか?」
「そうです」
「俺がおまえの身体を好みだと言っているんだから、存分に見せればいいだろ
うが」
そんな事を言いながら彼は胸に触れてくる。
「ゃっ」
「やじゃねーだろ、触って下さいって言えよ」
意地悪な声色で囁いてくる。
「俺に触られたいんだろ?」
「い、意地悪……です」
「そんなの聞いてない、俺が言った事が聞こえてなかったのか?」
「……触られたい、です。零司さんと繋がりたい」


蜜のような時間。
彼と肌を重ね合わせるときは、いつも溶けるように甘い感じがしていた。
頭の中も、そして身体も。

キスをするだけでも全部が溶けてしまいそうになるのに……。

「本当に全部、溶けてしまえたら、と思います」
「……なにが?」
「零司さんの熱で、溶かされたいです」

離れたくない。
離れてしまう“いつか”なんて来なければいい。

――――愛しくて心が壊れてしまいそう。

「零司さんが、好きなんです」
少しだけ彼が笑った。
「好きだよ」
前触れもなく、彼が私の中に分け入ってくる。
ほんの少し引き裂かれるような痛みのあとに、入れ替わるようにして甘美な感
覚が広がっていく。
体内では零司さんの塊が私を乱すように動き、長い指は胸を弄ぶようにしてい
た。
「もっと、私を……零司さんのものにして下さい」
そうして貰ったら、小さな不安が大きく育たないような気がするから。
「もっとってどういう意味? もっと激しくされたいって事か」
「零司さんが、したいように……して下さい」
耳の傍で彼が笑う気配がした。
「それじゃ、全然意味がない」
「意味?」
「ただ受け入れるだけじゃ駄目だろ? もっと俺に溺れて、俺しか見えなくな
れって言ってるんだ」
「そ……ん、なの」
もうとっくだ。
零司さんが私を揺さぶるようにして動かし、身体の摩擦を大きくさせた。
「ひ、ぁ……う」
「花澄、おまえは俺だけのものか?」
「はい、そ……う、です」
「他を見ないって誓える?」
「んんっ」
一層繋がりを深くして彼が聞いてくる。
目を開いて彼を見てみれば、酷薄そうな瞳が熱っぽく輝いていて、その様子だ
けでも私は高まってしまいそうだった。
美しい零司さんに見られているだけで心が震えてその感覚が身体の感度を高め
ているように思えた。
「愛しいのも、欲しいのも、零司さんだけです」
「イイ事言ってくれる」
冷たそうに見える薄い唇が私の唇に触れ、その熱っぽさを教えてくる。
「ずっと、傍に、居させて下さい」
「……花澄」
「ずっとずっと一緒に、居たいんです」
「……」
彼が少し困った顔をしたように見えた。
「それは、望み過ぎること……でしょうか?」
「いいや」
次の瞬間強く抱き締められた。
太くて逞しい腕が、強く私を抱いてくれる。
「おまえは……俺だけのものだ……誰にも、渡さない。それは一生だ」
「……は、い」

彼の身体の動きに合わせるようにして身体を揺らした。

頭の中では色んな事を考えてしまいそうになるけれど、やがて思考は快楽によ
って遮断された。

私の声がバスルームに響き、その恥ずかしさに抑えようとしても漏れ出てしま
う。
高まるごとに零司さんの乱れた息遣いも聞こえてきて、そんな風に彼をさせて
いるのは自分の身体なのかと思うと気が触れそうになるぐらい感じてしまった。

「も、だめ、ですっ……零司、さん」
「ああ、いいよ、いけよ、もっともっと気持ちよくなればいい」

最後の瞬間を彼に誘導されて、私の身体は崩れ落ちた





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