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rit. 〜りたるだんど3〜 STAGE.1




「すみません……私、あなたに興味を持てそうにありません」

見合いというほどは仰々しくなく、軽く顔合わせと設けられた場所で瀧口グル
ープ社長の末娘である瀧口実來は成田零司と顔を合わせるなりそう言って頭を
下げた。
「いいえ、それはこちらも同じ事なのでお気遣いなく」
そう言う零司に、彼女は苦笑いをするでもなく何故かほっとした表情を浮かべ
た。
「いきなり失礼な事を言ってしまってすみません」
「その気がないのに、そういうふりをしても仕方がないでしょう? あなたが
先に言わなければ、こちらが言っていました」
零司にとっては同じ事の繰り返しだった。
彼に恋人がいない時期は決まってこのような席が設けられていた。家柄の良い
娘と少しでも接点を持たせようとする成田家だったが、当の本人はそういった
家柄の良い人物にはどうにも興味が持てない。それが美しい外見であろうが
なかろうが関係ない。
だから、この瀧口の末娘も例外ではなく惹かれる部分は何処にもなかったのだ
が、いつもは繰り返し自分が口にする言葉を、今日は相手方が出してくれたお
かげで彼の心は少しだけ軽かった。



――――それは零司が花澄と出逢う、ほんの少しだけ前の出来事だった。






******



「指輪っていいですよねぇ」
ダイヤの形がハートになっていてとても可愛いプラチナのリング。
左手の薬指にはめられた買って貰ったばかりの指輪を眺めながら私は零司さん
に言った。
「じゃあ、全部の指にはめれば?」
「……そんなに沢山つけたら可愛くないですよ」
彼はくすっと笑った。
「俺としては、1個だけじゃなくて、何個か買っておきたかったんだけどな」
「え? 指輪をですか」
「そうだ」
「これだって相当高かったのに、何個もとか無理です!」
「……無理とかの意味がわかんねぇんだけど。買うのは俺だし、前にも言った
けど、俺の家は超金持ちだけど、俺自身も金持ちなの。使うべきところで使わ
なくてどうすんだよ。それに、エンゲージリングだってまだ買ってないし」
「え? これがそうなんじゃないんですか?」
「はぁ? な、わけねーだろ」
「だ、だってこれだって何十万もした指輪なのに」
「それは普段つけておく為の指輪だっての」
「え、えええー」
「えーじゃねぇって。外して大事にしまっておくとか間違ってもするなよ」
「会社に行く時もですか?」
「当然だ。っていうか、おまえいつまであそこで働く気でいるの」
「え?」
「結婚するんだし、もう辞めてもいいんじゃねぇの?」
「えー、あ……そうなんですか?」
「今日のおまえ“えー”って言いすぎだ」
彼はそう言って笑った。
「で、でも、結婚するのってまだ先ですよね?」
「籍入れるのは、今日これからだって出来るわけだけど?」
「いや、あの、零司さんはうちに来てくれましたけど、私はまだ零司さんのご
家族に挨拶とかしてないですよね? えっと、もしかして……それはナシなん
でしょうか?」
「まぁ、いずれは食事会とかやるけどさ。親父も兄貴もおまえの事は知ってる
わけだし」
「で、でも、それと結婚とは違うような気がしますよ」
「あっちは俺が紹介した時点でそうだと判ってる」
「え」
「こちらもそのつもりで親父と兄貴におまえを会わせたわけだし」
「そんなの一言も零司さん言わなかったじゃないですか」
「言いたいのはやまやまだったんだよ」
「……シチュエーション……ですか?」
「結局、おまえを初めて抱いたのも、プロポーズもあの部屋になっちまったわ
けだけど」
零司さんは少しだけ溜息をついた。
「初めって……それも何か、考えていたのですか」
「後からは、考えた。景色がいい……例えば夜景が綺麗に見えるスイートルー
ムで、とかだったら良かったかなとかね」
「それを言うんでしたら零司さんのお部屋自体が、夜景が綺麗に見える素敵な
お部屋じゃないですか」
私の言葉に、零司さんは驚いたような表情を一度見せてから微笑んだ。
「おまえに手を出す事には大きなためらいがあったけど、人間勢いって必要だ
な」
「零司さんにためらいとかあったんですか?」
「……そりゃあな」
ふっと零司さんが視線を向けた方角にはドレスショップがあった。
ガラスの向こうには、可愛らしいウエディングドレスが飾られてある。
「可愛いドレスですね」
「え? あ、ドレス?」
彼がドレスに反応したのかと思ったけれど、それは違うようだった。
零司さんが見たのはショーウィンドーの前にたたずんでいる背の高い男性?
「知り合いの方ですか?」
「ああ、うん」
「声をかけないんですか?」
「んー……ちょっとだけ、いいか?」
「いいですよ」
「悪いな、デートの最中に」
彼がそんな事を気にしたのかと考えたら、思わず笑みが零れてしまった。

零司さんがドレスショップの前に近付き、こちらの気配を感じた男性が振り返
った瞬間、どこかで見た顔だなと思った。






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執着する愛のひとつのカタチ。



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