TOP BACK NEXT

rit. 〜りたるだんど3〜 STAGE.2


「れ、零司!?」
零司さんが声をかける前に、その人は声を上げた。
「久しぶりだな」
「“久しぶりだな”じゃないだろ! おまえ、コッチがメールしても全然返事
寄越さないし」
「ああ、うん」
「心配するだろうが」
「悪かったな、忙しいだろうと思ったから」
「そりゃ、忙しかったけど……俺はおまえにライブに来てもらいたくて、メー
ルや電話をしてたのに、スルーしやがって」
「デビューライブは見に行ってるよ」
「え? あ、そうなのか」
「当然だろう?」
不機嫌や怒りというよりも、拗ねたような感じだった彼はそこでようやく表情
を和らげた。
……ライブって事は彼はミュージシャンだったりするのかな。
確かに見た事があるんだけど思い出せない。
黒いフレームの眼鏡をかけている男性をじっと見つめた。
零司さんが私に視線を落としてくる。
「JOYってバンド知っている?」
「あ、はい、知ってます」
「その、ボーカルのシュウ」
「……ああ、見た事あるなぁって思ってたんです」
零司さんは微笑んで、それからまた彼の方を向いた。
「で、なにこんな所でぼーっとして。ドレスでも着たいのか」
零司さんのからかうような台詞に、彼は眉根を寄せる。
「……着るか」
「確かに、可愛いドレスではあるな」
ショーウィンドウに飾られた純白のドレスを背の高い男性ふたりがしげしげと
眺めている光景に、思わず笑ってしまいそうになった。
「……柊弥(しゅうや)は、相変わらず進展なしか?」
「進展って?」
柊弥というのは多分本名なんだろう。
彼は訝しげに零司さんを見ている。
「例の彼女だよ」
「……ああ」
柊弥さんは溜息にも似た息を吐き、笑う。
「進展なんてない、会ってもいないんだからな」
「ふーん」
「……会う事すら、今更」
「忘れられずに、ネチネチとラブソングを作ってるくせに?」
薄く笑いながら言う零司さんを、彼が見つめた。
「ネチネチとか言うな。そりゃ、おまえが嫌いなラブソングばかりを俺は作る
けど」
「……最近はそうでもねぇよ」
「え? あ、どういう心境の変化だよ、あれだけ嫌ってたくせに」
零司さんはクスっと笑った。
「いつかまた出逢えると信じて、僕は願い、ずっと君を望み愛してる、果てし
ない絶望の中に今はいても、捨てられない想いをずっと抱き締める。心の約束
だから」
「……え、あ……」
「届かないものかねぇ? おまえの“Promise”は」
零司さんが言ったPromiseはミリオンヒットしたJOYの曲だ。
「急に歌詞を言うな、驚くだろ、色々と」
柊弥さんは溜息混じりに言う。
「何に驚く?」
「おまえが、その曲を覚えていた事とか、色々だよ」
「ラブソングが嫌いなだけであって、別におまえの曲が嫌いなわけじゃねぇよ」
微笑む零司さんを見て、柊弥さんは俯いた。
「ま、柊弥が元気そうで良かったよ」
「元気かどうか本当に心配してるなら、メールぐらい寄越せ」
「気が向いたらな」
「……自由なのは相変わらずだな、おまえは」
「ああ、そうだ柊弥に報告がある」
「なんだよ」
「俺、結婚するから」
「は?」
驚いたように顔を上げる柊弥さんだったけど、私もまるで言いなれている言葉
のようにさらりと言った零司さんに驚いてしまった。
結婚を決めたのはつい先日の事だというのに……。
「披露宴に呼んで欲しい?」
僅かに首を傾けて言う零司さんに柊弥さんはなんともいえない表情を見せる。
「呼んで、欲しい……とか、なんだよ。おまえが呼びたいとか思っているのな
ら、勝手に呼べばいいだろう」
「いや、無理に呼んでもなぁと思って。柊弥は忙しいだろうし」
「そりゃあ、スケジュールとか……きついときはあるしツアーの最中だと無理
かもしれないけど、おまえの披露宴だったら調整できるスケジュールなら調整
するよ。で、いつだよ披露宴って」
零司さんは、ふふっと笑う。
「日にちは決まってない」
「なんだよ、それ。からかっているのか?」
戸惑いの表情を浮かべる彼に、何処となく零司さんは嬉しそうに見える。
……何となく私には柊弥さんの感情を彼が量っているように見えるんだけど。
「披露宴でPromiseを歌ってくれるか?」
「え? あ、おまえが歌えと言うなら歌うけど」
「うん、歌って欲しいな」
にっこりと笑う零司さんに、柊弥さんはまたなんともいえない表情を見せた。
「あー……でも、俺は歌って欲しいと思うけど、花澄はどう思う?」
「え??」
突然話を振られて、私は思わず固まってしまう。
「披露宴で歌ってもらう事に関して」
「え、っと、その、素敵だなぁって、思います……よ?」
「それ、柊弥が素敵とかいう意味じゃねぇよな?」
「柊弥さんも、勿論、いや、だってあの、JOYって言ったら人気のあるバン
ドじゃないですか、CD出せば必ずヒットするし」
「なに、随分詳しいな、おまえ」
「誰でも知ってますって!!」
このやりとりを、柊弥さんが呆然とした様子で見ている。
「零司さん、柊弥さんが呆れてるんで止めて下さい」
放っておいたら収集がつかなくなりそう……。
「あぁ、もしかして、その人が零司の嫁さんになる人?」
気を取り直したように柊弥さんが言うと、零司さんは微笑んだ。
「そう、俺の嫁。いや、妻か……奥さん? どう紹介したらスマートかな?」
「……知るか。おまえ基本的な性質は全く変わってないけど微妙にキャラは変
わったな」
「それは勿論、良い意味での事なんだろうな?」
腕を組んでから、零司さんは彼の方を見た。
「まぁ、悪くはない」
半分呆れたように言いながらも、柊弥さんはそこで初めて笑顔を見せた。




 TOP BACK NEXT

-・-・-Copyright (c) 2011 yuu sakuradate All rights reserved.-・-・-

>>>>>>cm:



rit.〜りたるだんど〜の零司視点の物語

執着する愛のひとつのカタチ。



Designed by TENKIYA