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rit. 〜りたるだんど3〜 STAGE.17

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「零司さんとするのは嫌いじゃないです、寧ろ好きです。でも加減をすること
をそろそろ覚えて欲しいです」
私の言葉をどう受け止めたのか判らなかったけれど、零司さんはこちらをじっ
と見つめてから笑った。
「この際はっきり言っておく。加減とかそんなの無理だから」
「無理とか!! きっぱり言わないで下さい」
「出来ない約束をさせようってのもどうかと思うけど」
「努力して下さい」
「だから、無理だーって言ってるの」
ベッドに寝転んでいる零司さんに腕を掴まれ押し倒される。
「あ、ちょっ……駄目ですってば」
「しないから」
「嘘つき」
「嘘にしてしまうのは、いつもおまえのほうだと思うんだけどねぇ?」 
「そんなことはないです」
「へぇ?」
「零司さんが、触ってこなければいいだけの話じゃないですか」
「この俺に触られたくないと?」
「場所によります」
零司さんはくくっと笑った。
「そんなに拒まなくてもいいと思うんだけどな」
「休日を丸一日潰しておいて言う台詞ですか」
私の台詞に彼は少しだけ考えるような様子をみせてから口を開いた。
「もうずっと休日にしちまえば?」
「え? 何を言ってるんですか」
「結婚するんだし、仕事辞めれば? って言ってるの」
「だって、結婚はまだ先ですよね」
「仕事したいの?」
返事に困る。
仕事がしたいかしたくないかと言われれば、したいと言い切れるものでもない。
だけどあっさり辞められるかと言えばそうでもなく。

仕事がどうのというより……私はもう少しだけ、零司さんと同じ会社に居たか
った。

「何?」
「……もうちょっとだけ、働きたいです」
「ふぅん? なんで」
「ちょ、貯金とか……したいですし」
「え? 何の為に?」
「何って、将来の為ですよ」
「どういう意味で?」
「う、うーんと……子供の学費とか、老後の為?」
「随分とまぁ、非現実的な」
零司さんは小さく笑った。
「なんでですか?」
「学費にしても、老後にしても花澄の金が必要になることなんて絶対無いし」
「いや、でも万が一ってことがあるじゃないですか」
「万が一が起きたときは全然足りないって思うけど?」
「う、うー……ん」
「その万が一が何を想定してるのか知らねぇけどさ」
彼は笑いながら私の頬を撫でた。
「俺が死んだときのことを考えているんだったら、結構な額の生命保険に入っ
ているから、やっぱり金の心配は無用だし」
「……冗談でも零司さんが死んだときの話とかやめて下さいよ」
「そうじゃないなら、やっぱり金の心配はないよ。俺が生きている限りは花澄
に不自由は絶対にさせない」
「ありがたい話なんですけどなんだか悲しくなってきます」
私がそう言うと彼は笑った。
「おまえは金の心配はしなくていいよって話だ」
「……はい」
「で? なんで仕事を辞めたくないんだ?」
零司さんは小さく笑う。
その表情が少し意地の悪いもののように見えて仕方がなかった。
「……判ってて、聞いてます?」
「何を?」
くくっと彼は笑った。
「私が……」
言いかけて、頬が急に熱くなる。
結局私は、彼を独り占めしたいだけなのだと気付いてしまう。
会社に行くまでの道のり、そしてその帰り、一緒に歩く時間をもう少しだけ堪
能したい。
そして彼が仕事をしている様子も、もう少しだけ見られたらとも思うから。
「何をもじもじしてる?」
「で、ですからっ、スーツ姿の零司さんが好きだってことですよ」
「ふーん……おまえってスーツフェチだったのか。そういや、ネクタイも好き
だもんな」
「ネクタイは……その」
「また縛ってやろうか?」
くくっと零司さんは笑い、キスをしてくる。
私が返事をしないでいると、彼は身体をひいた。
「え? して欲しいってこと?」
「い、いえ、そうじゃなくて」
「ああいうプレイが好みなの?」
「こ、好みとか……そういうこと言わないで下さいっ」
彼はにやりと笑う。
「わかったわかった。ちょっとSMっぽいのも好きなんだよな?」
「零司さん!」

初めての夜を思い出すと、切ない感じがした。
触れることの戸惑いを、感じるヒマもなく一気に超えてしまった夜。

「……最初の時は、零司さん、おとなしかったのに」
ぽつりと言うと彼は笑った。
「女を二度三度と抱く習慣がなかったからな」
「え??」
「続けて何度も抱きたいと思ったのはおまえが初めてだから」
顔を赤らめている私を見て、彼が意地悪そうな表情をした。
……嫌な予感しかしない。
「そもそも、俺にそういう習慣をつけさせたのはおまえじゃねぇの? 二回目
の時に花澄が――――」
「やっ、やめて下さい! 過去の出来事蒸し返すの!!」
「おまえが最初はおとなしかったとか言うからだろ」
「すみません、私が悪かったです」

零司さんの手が私の頬を撫でた。
やっぱり、もう少しだけ、休日を楽しむ気持ちを味わいたい と思えた。





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