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囚われの魔法 Page.1

 


 愛おしいと思う気持ち。

 いつから変化したのか、最初からそうだったのかは判らない。
 冷たくされているのが判っていても惹かれていく感覚は、自分ではどうする
こともできない引力と同じように思えた。

 好きです。

 小さく呟けば、自ら恋の魔法をかけるみたいで一層彼が愛しいと思えた。

「あ、可愛い」

 ショーウインドウの中に飾られているチョコレートを見て思わず言ってしま
う。
 そういえば、バレンタインが近いんだなと思った。
 窓越しに店内を覗き見ると、沢山の女性客で混雑している様子だった。
 恋の魔法をかけたい魔女たち。
 どうか私の想いをチョコレートと共に受け取って。

(そうは言っても……)

 現実はチョコレートほど甘くはない。

 眼鏡をかけて黙々と仕事をしている彼の目には私なんて映っていないだろう。

 そうそう……他の部署の子に告白されたときに、「会社は仕事をする場所で
男をあさる場所じゃない」と言い切ったらしいのよね、このかた。
 好きになる自由すら与えないのか……。

 綾城惇也(あやしろ じゅんや)。
 切れ長の少しつり上がった瞳。
 情の薄そうな厚みのない唇。
 どのパーツも冷たい印象しか受けない。

 なんでこの人を好きになっちゃったんだろう。
 優しい人じゃないと判っていて何故?

 綾城さんの何が私を惹き付けるのか本当に判らない。
 気がついたら、彼は私の心の住人になっていた。
 彼がこの会社に中途採用で入ってきたときから、多分私は綾城さんに魅了さ
れていた。

 プラスチックの容器に入ったコーヒーを、無造作に飲んでいる様子も、眼鏡
を指で押し上げる様子も、私の心を痺れさせる。

 背後からその白いシャツの背に顔を埋めたくなってしまう衝動は異常とも思
えた。
 恋をするのは初めてではなかったし、恋に夢見る乙女という年齢でもないの
に、何故か私はこの恋に夢中になっていた。

 彼がそこに存在するだけで、世界は薔薇色だった。
 例え当人に触れることがかなわなくても。

(棘……)

 彼のまわりを覆い尽くしている棘は触るものを傷つける。
 傷つきたくないから、私は黙って見ていることしか出来ないんだ。

 臆病者。

 もう一人の自分が私をなじっていても、私はどうすることも出来なかった。

 彼が席を立ち、煙草を片手に歩いていく。
 行き先は喫煙所だろう。

 私は彼が煙草を吸っている様子を見るのも好きだった。
 たまにある飲み会の席でしか見かけることはなかったけれど。

(私も煙草、吸おうかなぁ)

 そうしたら、今より彼を見る機会が増えるだろう。
 なんて、ばかなことを想像したりしてみた。

 そしてそのばかなことを実践してしまうぐらい、私はこの恋に溺れていた。
 とりあえず、メンソールの煙草なら吸いやすいだろうなんて思ったのが甘か
った。

 いきなり肺まで吸い込んで、超呼吸困難!

 なんでこんな不味いものをわざわざ吸っているのよ!!

 目尻に涙を浮かべつつ、肺まで吸い込まずにふかした。

 彼は、いつもこんな味を楽しんでいるのかと、ちょっとだけ彼に近付いたよ
うな気がしてなんだか嬉しくなってしまった。

 ばかだなと思いながらも。

 そしてまた咳がひとつ出た。

 自分の指先を見るとネイルがはげかけていたので、新しく塗り直した。
 ネイルサロンに行って、きらきらネイルとかしてみたいんだけど美容院も苦
手だったりするので、ネイルサロンはもっと無理だなと思えた。




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rit.〜りたるだんど〜零司視点の物語

執着する愛のひとつのカタチ

ドSな上司×わんこOL



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