ときめき 8

	
「君は向こうで寝ると良いよ、僕はリビングで寝るから」
「私がリビングで良いよ」
「そうもいかないよ、君はおっさん以外では初めてのお客様なんだ
から」
くすっと彼は笑った。
「…あ、そうなの?」
「そうだよ、誰かを家に呼ぶなんて…今までしてこなかったし」
「そうなんだ、それなのに来ちゃって良かったのかな」
「僕が呼んだんだよ?」
彼はまた笑った。
「どうして誰も呼ばないの?」
「呼びたく無いから」
「…じゃあ…どうして、私は呼んでくれたの」
「うん、どうしてかな。判らない」
池上君は曖昧に笑った。
「寝るとき用のTシャツも出しておいたからね」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、おやすみ」
「う、うん…」
私が彼を見上げると池上君は笑った。
「どうしたの?」
「もう寝るのかなぁって思って」
「僕は寝ないけど、君がそろそろ眠いんじゃないかと思ったんだけ
どね」
時計の針は22時を回っている。
「池上君はまだ寝ないの?」
「あぁ、まだって言うか、今日は寝ないと思う」
「ベッドを私が使うから?」
「いや、寝たら…すぐ朝になってしまうだろ」
彼はさらりとした前髪をかき上げてから微笑んだ。

寝るのが惜しいと思うのは、私も同じ事だった。

長い時間、彼と一緒に過ごせば過ごすほど別れるのは辛い。
今が幸せ過ぎるから。

「じゃあ、一緒に起きていても良い?」
「君がそうしたいのなら」
彼は笑ってリビングのソファーに腰かけた。
「…みのり、ひとつ訊いても良いかな」
「え?何」
「…うん…」
折り曲げた指を口元に置いてから彼は言う。
「”景ちゃん”とは何者?」
「景ちゃん?幼馴染だよ」
「それだけ?」
「…それだけ、の意味がよく判らないけど」
「泊まりに行ったりもするのだろ?」
「うん、家が近所だし」
「幼馴染以上の感情は無いのか?」
「…え?う、うん、無いよ、多分。考えた事ないけど」
「…そう」
彼は長い脚を持て余すかの様にしながら組み替えた。
「君は、けーちゃんに対しても泣いたり笑ったりするのか?僕にし
ている様に」
「笑ったりはするけど…」

私は彼が何かあるひとつの答えを求めている様な気がした。
少し考えてから口を開く。

「でも、嬉しくて泣いたりはしないよ、あんな風に泣いてしまえる
のは池上君だからだと思うの」
「そう」
「わ、私…ね」
「何?」
茶色に輝く瞳が私を見詰める。
言葉を止めたままにしていると、彼がそっと覗き込む様な姿勢にな
った。
「何を言いかけたの?」
綺麗な瞳がいっそう美しく瞬き、その光は甘い色を放っている様に
見えた。
「私の、過ごす時間の中で池上君を見ていられる時間が…一番好き
なの」
「君が好きなのは”時間”なの?」
「え?」
彼の瞳が、静かにじっと私を見ている。
さらりとした艶のある前髪がその瞳の前で僅かに揺れた。

池上君が欲している答えに気が付いた時、身体が震えた。

「…言って、君の言葉で、その声で言ってよ」
俯いてから彼を見ると、少しだけその瞳を細めた。

引き寄せられている様な感じがした。
強い何かで、心が彼の元に引き寄せられている。

差し出された手を私はぎゅっと握り締めた。

「好き…なの」
「…うん」
「池上君が、好き」

私が握る手を解き、指を絡ませ繋ぎ直した手を彼は強く握る。

「だから、傍に居たい。私の心を池上君の傍に置かせて」
「心だけか?」

握っていない方の彼の手が私の背中に回り引き寄せられる。
抱き締められて戸惑うように彷徨う私の腕を彼が掴んで自身の身体
に回させた。

「僕を抱き締めろ」
「…う、ん」
握っていた手を解いて、彼の身体をぎゅっと抱き締めた。
彼の体温と香りに包まれる。

心の中の感情が溢れてくる。

いっぱい、いっぱい、彼が好き。

その想いや、感情が溢れる。
彼の熱や温度を知って一層心が震えた。

「みのり」

唇に体温が落ちてくる。
柔らかな温度。

何度も擦って触れ合わせる。

程よい弾力と熱に浮かされる。

その唇が、彼の物だと思うと余計に気持ちが高揚した。

少しだけ唇を離して彼が言った。

「抱くよ」

短い言葉の意味を理解する前に身体が浮き、ベッドの置いてある部
屋まで抱えられて移動させられた。
ちら、と彼を見上げると池上君は微笑んでから私をベッドに沈めた。

「イヤだと言っても良いけど、云う事を聞くつもりは微塵もないか
ら」
ふたり分の体重に、ベッドのスプリングが軋んだ。

彼の唇が頬に触れ、首筋を辿っていく。
柔らかい感触が肌を滑る感覚はどうとも形容し難いものがあった。
Tシャツの中には彼の手が入ってくる。
下着越しでも素肌に近い場所に触れられて身体が震えた。

「ん…見た目よりも、触り甲斐のある胸だね」

身体に触れられて”抱く”の意味をより強く感じた。
”抱く”って…”そういう”事、なの?
池上君と私が、するの?
私で良いの??

私の身体の上に乗っている彼を見上げた。

「…もっと見て、みのり、君は僕だけ見てて」
「池上君…」
「透也、だ」
「とう…や」
彼を名前で呼んだら涙が溢れてきた。
「わ、私が…そう、呼んでも良いの?それは許される事なの?」
「何故?僕が呼べと言った」
「だ…って、嬉しい」
「君はよく泣くんだな」
彼はそう言って私の涙を唇で掬った。


知ってる。
彼とよく歩いている女の子が、彼を透也と呼んでいる事を。

ずっと私もあなたを名前で呼びたかった。
でもそんなの許される事ではないって思ってた。

―――――私なんかが。


「透也…透也」
「ん…君に呼ばれると…なんだか異常に興奮するね」
彼はそう言いながら私の身体を愛撫する。
透也の指が私に触れている。
唇が、舌が。

彼が触れている下腹部が、ぬるりとしているのが判った。
長くて綺麗な指先が私の体液に塗(まみ)れている。

敏感な場所を執拗に弄ってくるから、ますます身体から液体が溢れ
た。

あんな場所を、自分でも触れた事がない場所なのにそれを彼が弄っ
ているのかと思ったら堪らない気持ちにさせられた。
「あんまり、ソコ…弄ったら、いや」
「痛かった?」
「痛いとかじゃなくて…あ、と、透也、ダメ」
何を思ったのか彼は身体を下げて、大きく開かされた私の脚の間に
顔をつけた。
「と、透也、やだ…っあ…ぁ」
彼は私の場所に唇を這わせたり舌を使ったりしてくる。
敏感になっている場所を舐められると否応なく身体が跳ねた。
「ぃ、や…ぁ、あぁ」
「ん…やっと、良い声出したね」
「ソコは、やだ」
「でも、気持ち良いんだろ?」
私は首を振る。
「気持ち良いとか、判んないよ」
「そう?じゃあ、判るまでやってやるよ」
ちゅっ。
小さく音を立てて、彼は私の最も敏感な場所をついばむ。
唇は柔らかく動き、舌先で刺激された。
「や、やぁ…ぁ、あぁ」
「凄い、濡れてきたね…」
舌の愛撫の最中に彼がそんな事を呟く。
「体液とか、舐めたらいやだ」
「この状態じゃ無理な相談だな」
ぴちゃっと水音が響く。
ソコはそんな構造だった?と思うぐらいの場所にまで透也は舌を這
わせてきた。
「お、ねがい、透也、もう…」
「…”もう”何?」
「やめて、あなたが、汚れるから」
「体液で汚れるって言いたいのか?みのりのモノだったら嫌悪はな
いよ、むしろ興奮する、舐める場所によって君の声が変わるから」
くすっと彼は笑ってそんな事を言った。
「オンナの体液の味も、悪くないものだな」
「透也…」
「でも」

彼はふっと息をついてから、私の手を取り自身の場所へと引き寄せ
た。
大きくて、硬いソレが私の手の中に…。

「もうこんな風になってる、勃ちすぎて痛いくらいだ」
「わ、私…何をすれば良いの?」
彼を見ると透也は笑った。
「何かしてくれるのか?」
手にあてがわれたソレがひくりと動くから思わず手を離しそうにな
るのを彼は許してくれなかった。
それから笑う。
「でも今日のところは、何もしてくれなくていいかな、僕もそんな
には我慢出来ない」
彼はおもむろに身体を起こし着ていたTシャツを脱ぎ捨て、引き出し
から何かを取り出した。
小さな袋。
初めて見るそれは…。

彼は全裸になり、その袋をやぶって彼自身のそれに装着させた。
「みのり…」
透也の身体の固い部分が私の場所にあてがわれる。
そしてゆっくりと入口から中へと入ってきた。

神経が全部ソコに集中しているみたいに、内部が彼を鋭敏に感じた。

初めての何かとの触れ合いに痛みが生まれる。

ある場所まで彼が進んできて一度止まった。

「君の中って少し硬いな…まるで…」
ぐぐっと身体を押し付けられて引き裂かれる感触が生まれ思わず声
を漏らした。
「みのり…男に抱かれた事はあるの?」
首を振ると透也は笑った。
「だからこの感触…か、何かを突き破るような小さな感覚があった」
「透也、痛い…の」
「うん…少しだけ、我慢して。出来るよね?」
頷くと彼は小さく出し入れを始めた。
「あっ、ぅ」
「硬いって以外にも、君の中って凄く…ン」
透也が甘い声を漏らすと、私の内部がジンと痺れる様な感じがした。
「…っは、不思議な…感じ…」
初め遠慮がちに動いてた身体の動きが段々と変わっていく。
「みのり…ん…」
腰を押さえつけられ、内部全体を透也が探る様な動きをする。
そうでなくても、透也の硬いそれで押し広げられている様な感じが
するのにその動きは私に痛みを与えた。
「悪い…なんか、遠慮とか…出来ない、君の中、凄い…良い」
透也の苦しそうな表情。
声。
見つめてくる視線に益々内部の痺れは強くなり、痛みが麻痺してき
ている様だった。
「あぁ…みのり…凄い良いよ…絡み付いてくる」
透也はぎゅっと私を抱き締め、律動を繰り返す。
「ん…透也…透也…」
「みのり、目を開けて、僕を見て」
「透也…ぁ、あ」
「ねぇ…みのり…僕を好きか?」
「…うん…す、き」
彼の身体の動きが大きくなり、思わず悲鳴みたいな声が漏れた。
「もっと、もっと言え、みのり…っ」
「ぁ、好き…好き、透也が…好き」
「それは、僕だけか?僕だけなのか」
「んっう、とうや…だけ…透也だけだよっ」
「みのりっ」


壊されると思った。

だけど…透也にだったら、どうなっても…。

むしろこの時間が永遠になれば良いとさえ私は思った―――――。





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