■■あなたの居る場所 11■■



私達は買い物の後、ランチを摂ってそれから透也のマンションに居た。

ふたりでミネラルウォーターを飲んでいると、彼が小さく息をつく。
「疲れたの?」
私が訊くと、透也は私を見た。
「いや、どうして?」
「…うん…溜息をついたから」
「僕が?」
「うん、今」
「そう?ごめん、無意識だ」
無意識で溜息をつくって事は退屈をしているっていう事?
私はちょっと困ってしまってもじもじする。
「何?トイレ?」
「ち、違うよ」
何か話題を、と思うのだけど私はあまり話術に長けていない。
それに透也が押し黙るので余計に声が掛けにくくなった。

もしかして、何か怒ってる?

私が透也からの好意を、私にそのつもりがなくても無下に扱ってしまった事を
彼は怒っているのだろうか?
それとも、私がピンキーリングを彼から貰ったのに、未だ左手の薬指の指輪を
外さない事を快く思っていないのか
そもそも景ちゃんと付き合い続けている事を怒っているのか、心当たりが有り
すぎて透也にどう言って良いのか判らなかった。

「……」
ミネラルウォーターのペットボトルのキャップを締めて透也が立ち上がる。
思わずびくっとしてしまう。
「…みのり、ちょっと来て」
「う、うん」
透也がすたすたと部屋の中を歩くので私も慌てて彼を追った。
な、なんだろう…
心がすくむ思いがした。

キングサイズのベッドが置いてある所まで歩いて透也は振り返り私を抱きしめ
る。
「とう…や?」
「…抱きたい、いいか?」
率直に彼はそう言ってくる。
「え?あ…う、うん」
透也の綺麗な顔が近付いてきて、私は目を閉じ彼を抱きしめ返す。
身体を密着させると透也のそこがもう熱くなっているのが判った。
「…透也…」
短くキスをして彼が唇を離す。
「帰ってきてすぐに求めるのもどうかと考えたのだけど…気持ちが収まり付か
なくなった」
「黙っているから…何か怒っているのかって思った」
「ああ…ごめん」
透也の唇が私の唇に戻ってくる。
今度は長いキス。
透也が甘い息を吐きながら舌を差し入れて来たので、私はそれに応える。
絡め合わせて舌先で透也を感じた。
胸に彼の大きな手のひらの感触。
すくい上げるようにして柔らかく揉んでくる。
透也の力加減は絶妙ですぐに気持ち良くなっていく。
「ん…んふ…」
服越しに先端部を探り当てられてそこを弾かれると身体がぴくりと反応する。
「みのり…可愛いよ…今すぐ君の中に僕を沈めてしまいたくなる…」
「と…や…」
「好きだよ…」
耳元で彼が囁いて、かりっと耳を噛んでくる。
「ん…」
「君と朝逢った時から君を抱く事ばかり考えていた…車の中で、すぐに…犯し
てしまおうかと考えていた」
「そ…んな…」
「買い物なんて止めて…君を…」
透也が私のカーディガンを脱がせ、ブラウスのボタンを外していく。
露わになっていく肌に次々とキスをしてきた。
透也の舌が肌を這う。
「ぅ…ふ…」
「…っ…く」
ベッドに身体が押し倒される。
私の身体の上に透也の重みを感じる。
服が脱がされて私の肩に彼が口付けて来て、それからつつっっと鎖骨に舌を這
わせた。
「ん…っ」
下着の上から胸の先端部を摘まれて擦り上げられる。
甘い感触がじわじわっとそこから広がっていく。
早く直に触って欲しくて私が背中を浮かせると、透也の手が滑り込んできてブ
ラジャーのホックが外される。
役割を果たさなくなったそれは身体から抜き取られ、露わになった先端の赤い
実を透也が口に含んで転がした。
「あっ…ん…あっ…」
ちゅっちゅっとそこを吸い上げられ、それから先端の周りをぐるっと舐められ
る。
温かくて柔らかな透也の舌先は気持ちが良い。
肌に透也の吐息を感じると、それだけでも鳥肌が立ちそうだった。
スカートが捲り上げられて太股を撫でられる。
すぐにソコに触れてこないのは焦らされているのだろうか?
透也の手が触れそうで私に触れない。透也の手で触れて欲しいのに。
「とう…やぁ…」
「触って欲しいの?」
「うん…」
「どんな、風に?」
「どんなって…」
繁みに隠されている私の蕾を透也の指先で触れて欲しい。
優しく触れて、時には私を翻弄する様に擦って欲しい。
「今、頭で考えた事を口に出して言って欲しいんだけどね」
ふっと透也が笑った。
「淫らな言葉を君から聞きたい」
「…や…」
焦らされるのはもう嫌
私は透也の手を取って彼の指を自分に押し当てる。
裂け目にクンッと彼の指が入り込む。
「ん…はっ…」
つま先がぴくっと跳ねて天井を向く。知らず足が大きく開かれる。
「君の方が、せっかちかも知れないね」
太股の内側にちゅっとキスされる。
柔らかな彼の唇の感触に身体が震えた。
「ん…ん…」
ショーツの上から裂け目を擦られる。
透也の指が何度も往復した。
「…染みてきている…君の、ぬるぬるしたものが」
笑いを含んだ声で彼がその事を私に告げる。
「とう…や…」
「…」
彼はベッドの傍に置いてある引き出しから小箱を取り出し中からコンドームを
ひとつ取りだして自分の身に着けた。
「透也?」
透也は私のショーツを少しだけずらして侵入口を作るとそこから自分の熱を押
し込んできた。
「や…やんっ…」
「はっ…みのり…」
「や…脱が…して…」
「君を…犯しているみたいだ…」
「え…」
そう言えば透也は着衣のままだ。
ズボンの前だけはだけさせて…
「透也…あんっ…」
「…見た目っ…も、色も、無垢そうなのに…君のココは僕を銜え込んだ途端に
変化…する…」
ズズッと奧まで差し込まれる。
「ああんっ…あっ…奧っ…」
「僕に絡みついて…」
「あっ…あっ…あっ…んっ」
「ふっ…僕を美味しそうに…食べているよ…」
「やぁん…や…透也ぁ…」
私の目尻に浮かんだ涙の雫を透也がそっと拭う。
「泣くの?…もっともっと泣かせたいと思ってしまうよ?」
「と…や…透也っ…んっんっ…」
「あぁ…みのり…」
透也が目を細めて私を見下ろしてくる。
それは恍惚とした彼の表情か…
「もっと、欲しい?僕が…」
「ん…ふっ…あっ…ほし…」
「…もっと感じて…」
「とう…や…あっ…気持ち…い…」
「気持ち良い?」
「…いい…よぉ…透也のっ…おっきくて…硬くて…あた…るのぉ…」
「ふふ…やらしい事言って…イイよ…君のその表情…そそられる」
「あっあっ…あっ、ふっ…ぅん」
「……」
私が快感の海を漂っている中、透也は何かを考える様な表情をした。
「…ねぇ、あの男にもそんな事を言って悦ばせているの?」
「ふっ…ん…え?」
「けーちゃん気持ち良い、もっとしてとか言っているの?」
「い…いわな…」
「そうやって僕を誘うようにあの男の事も誘っているの?」
「…透也?」
「好きとか…愛してるとか…言いながら…抱き合っているのか?」
優しい口調はそこにはなく、語尾に強い感情が見えた。
「と…や…」
私は震えながら彼を見上げる。
熱のこもった瞳で透也は私を見下ろしていた。
「言うのか?僕には言わないのに…あの男には与えて…くそっ…」
透也が乱暴に私の中を出し入れさせる。
「言えよ…僕にも言え、愛していると…僕無しでは生きられないと言って見ろ
よ!みのり…みのりっ!」
「ひゃ…ん…と…や…」
「…っ…はっ…」
ぐんっと透也が深く腰を落としてきた。
「僕は…愛している…君しか見えない…盲目的に…」
「……」
「僕を愛してくれないのなら…どうして僕の前に現れた…僕を狂わせて…」
「…透也…」
「僕は愚かだ…性欲と物欲を満たす方法しか、…そんな手段しか取れずに…」
透也はぎゅっと私を抱きしめる。
強く抱きしめられているので彼の表情が窺い知れない。
「君はきっと…あの男からなら…100円のおもちゃの指輪でも、至極喜んで
…愛らしい顔で受け取るのだろうね…そんな姿が目に浮かぶ」
「透也?」
「……何故それが、僕では無いんだろう」
彼の言葉が、今日の私の態度の事を指しているのはすぐに判った。
違う。
透也は誤解している。
「あの…ね?透也、私…物を貰えないって言ったのは、品物が高価過ぎて…だ
から…別に貴方からは貰えないって言う意味で言ったんじゃないよ?」
「……」
「透也からだって100円のおもちゃの指輪でもそれに気持ちがこもっている
のなら、嬉しいよ」
「…」
「とう…や…」
この人がどれほどの思いを込めて私に様々なものを買い与えてくれたのかと考
えたら涙が出た。
本当に、不器用に、ただそうする事しか出来なくて…
「ごめん…ごめんね、透也…私、嬉しいよ…」
「僕は君に喜んで欲しかった」
「ごめんね…」
私は泣きながら透也を抱きしめた。
「僕が…全てを与え、そして君から…与えられたいのに」
静かな彼の声が鼓膜に響いた。
それがとても切なくて。
「透也…私も貴方を愛しているよ」
感情が、溢れるように零れた。
抱きしめて抱きしめて、手の中に貴方を…
「愛してる」

私、どれだけ貴方を苦しめているの?
私は何も判らずに、知らずに貴方を傷つけているの?

「みのりだけを、愛している…」

この人だけを選べたのなら、どんなにいいだろう―――――。

私達は強く抱きしめ合った。
そうやって抱き合う事しか知らない迷い子の様に。

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