■■あなたの居る場所 8■■



私は振り返ってそっと彼を見る。
着衣の乱れをすっかり整えた彼は、透き通った光を放つ薄茶色の瞳を私に向け
て来る。目が合うと私は視線を外した。
「おいで」
彼は右手の人差し指をくいっと曲げて私を呼んだ。
「……」
私は彼の命じたようには動かずに、ワインレッドの遮光カーテンの中に身体を
隠した。
「ふっ…なんの真似?」
透也はソファーから身体を起こし、私に近付いてくる。
それは気配で判った。
「…恥ずかしい事を…した」
私は、もごもごとそんな事を言う。
「恥ずかしい事って?僕が吐精した物を飲んだ事を言っているの?」
「それも、そうなんだけど…」
馬鹿みたいに必死になって彼の液体を求めたこと。
浅ましいって思えた。
「ねぇ、君の前でマスターベーションをした僕と、僕が吐き出した物を飲んで
くれた君と、一体どっちが恥ずかしい行為をしたと思ってるの?」
「透也は綺麗だから何をしたって綺麗で…色っぽくて…」
「興奮した?」
「……」
私が押し黙ると、透也がフッと笑った。
「君を興奮させるためにしたんだから興奮してくれてないと困る」
「…」
「…君が答えてくれないのなら、身体に聞くまでだけど…」
そう言って透也はカーテンを捲ると私を壁に押しつけた。
「きゃっ…」
「どうなってる?」
彼はスカートの中に手を忍び込ませ、ショーツの上から私の裂け目をクッと押
した。
「このぬるっとした感触は何?」
「やっ…」
透也が目を細めて私を斜めに見る。
「ねぇ、僕、女の子がオナニーをしているところってビデオ以外では見た事が
ないんだけど」
「え?」
「みのり、やってみせてくれない?」
「む、無理!」
「恥ずかしいから?」
私は一瞬黙ってそれから、もごもごと口を動かした。
「だ、だって…そんなの…したことないもん…」
透也は目を見張って私を見て来た。
「逃げ口上?」
「ちが…ほんとに…」
「冗談だろ?」
「冗談じゃないよ」
「子供の頃から景ちゃんにやってもらってたって事か?」
「しっ…してないよ!」
「君って…初体験いくつの時さ」
「じゅう…はち」
「その歳まで性衝動を感じた事がなかったの?」
「…」
「エロイ雑誌とか、漫画とか見て、そういう気分になった事ないの?」
「私、そういうの見ない…興味無かったっていうか、なんか生々しくてそうい
うのって…苦手だった」
昔は。
「…素で驚く。でもらしいといえばらしい気もするけど」
透也は目を細めた。
「それでよくセックス出来たな」
「…相手が…景ちゃん…だった…から…」
私の言葉に透也がぴくっと反応した。
「ごめ…」
私は言ってしまってから透也の反応が怖くて怯えた。
「全てを安心して捧げられたって事か?」
透也の言葉に、私は肯定も否定もしなかった。出来なかった。
沈黙がややあってから私の身体が宙に浮く。
「きゃっ…」
透也が私を抱え上げた。そしてそのままベッドの置いてある場所へと運ばれる。
ボスンッと身体がベッドに沈んだ。
「僕がオナニーの仕方を教えてあげる」
彼は私を見下ろしながら言う。
「そ…そんなの…」
「嫌とは言わせない」
透也が目を細めた。
「…怒って…るの?」
「……」
彼は私のセーターを私の身体から抜き取り、スカートも脱がせてきた。
下着姿にさせられて私は身を縮める。
「とう…や…」
「何を怯えているの?自分の身体の事だ。知っておいても悪くないんじゃない
?」
透也が私の手を取る。
そしてその手を私の下半身へと…。
クニッ
柔らかな肉の感触。
合わせあっている二つの谷を割るようにして重ね合っている透也の指が私の指
を押した。
自身の芽に触れて私はひくりと身体を震わせた。
「自分の手でゆっくりと動かしてご覧」
戸惑いを見せる私を叱る様にして透也は薄茶の瞳を光らせる。
何が何でもさせる気なんだ…
私は透也から視線を外し、芽の上に指を滑らせた。
きゅっきゅっと擦ってみる。
「……」
他人に触れられた時のような劇的な快感はわき起こらず、私は機械的にその指
を動かした。
「良さそうじゃないね」
「…良く…ないよ…」
「自分でする事に対して嫌悪感でもあるの?」
「だって、透也が見てる」
「…仕方ないな…手伝ってあげるよ」
透也は私の背中に手を入れてきてぱちんっとブラジャーのホックを外した。
そしてそれを私の身体から抜き取り、ショーツも奪い取っていった。
彼は頭を下げて私の胸の突起をちゅっと吸い上げ、或いは周りを舐め回し、快
感を沸き立たせてきた。
「ふっ…あっ…」
「手は下、自分のを弄るんだよ」
「……」
私はもじもじとしながら芽を撫でた。
「左手は入り口に。指、突っ込んで」
透也の言葉に私は息をのんで、恐る恐る自分の体内へと指を埋め込ませていく。
「上部、触ってみな。ざらりとした感触がある筈だから」
前に彼がそんな事を言いながら私に触れた事がある。
私は体内の上の部分を擦ってみた。
本当になんだかざらりとしている。
「イイ部分がもっと奧にあるんだけど、指じゃ届かないだろうね。でも入り口
付近でも結構イイんじゃない?」
胸を舐めながら透也がそう言う。
「判んない…」
「指を僕のモノだと思って、締めたり緩めたりしてご覧よ。出し入れしながら
…ね」
私は言われた通りに指を出し入れしながら締めたり緩めたりをした。
「君は普段そんな風にして僕に快感を与えてきているんだよ。そんな膣内の感
触が堪らなくイイんだ君はね…」
透也がフッと息を吐いた。
「……」
頭の中がぼんやりと霧がかってくる。
体内に入っている指を私は一層締め付けた。
「んー…」
「少しは良くなってきた?」
「……」
「ふっ…色っぽい顔をし始めてる…感じてきてるの?」
「私…透也にされたいよ…」
「してあげるのは構わないけどそれじゃあオナニーにならないだろ?」
「だって…透也の指のほうがいいんだもん…」
「君が自分でやって達する所が見たいんだ」
「透也…」
「その物欲しげな顔堪らないけどね」
彼は薄く微笑んだ。
「ちゃんと出来たらご褒美あげる。君の大好きなモノを入れてあげるから」
ああ…本当にちゃんと出来るまで透也はしてくれないんだ。
身体は高ぶっているのに…
「もっとクリトリスもさわってあげなきゃ快感は強くならないよ」
「…う、うん」
私は自分の芽をきゅっきゅっと擦る。
僅かながらも甘い感覚がわき上がった。
「…ふっ…」
私が身を反らすと、透也はちゅっと胸をついばんでくる。
「あン…」
「指の本数増やしてみて。一本じゃ足りないでしょう?」
私は抜き差ししている自分の指をもう一本増やして中指と薬指で体内をまさぐ
った。まだ全然透也の大きさには足りなかったけれど、体内は熱を持ち始めて
いた。
「はっ…はぁん…」
「良いよ…イイ感じ。上手じゃない」
「と…透也…」
透也はそっと私の耳に唇を寄せる。
「今君は僕に抱かれてる…体内に入っているソレは僕の高ぶりだよ…」
「と…とうや…はぁっ…」
「どう?気持ち良いだろう?」
くちゅくちゅっと水音が響く。
指が私の液体で濡らされていく。
「凄い…濡れてきてる…そんなにイイ?」
私…今…透也に抱かれてる?
激しく出し入れされる彼の逞しい熱
欲しかったもの
芽に与えられる刺激によって内壁がより敏感になり小さな摩擦にも快感を沸き
立たせてくる。
「良いよ…もっとかき乱して…」
「ああっ」
私は出し入れする指の動きを速める。
内壁がきゅきゅっと指を締め付けてきて狭くなった。
「あんっ…きつ…」
「判る?自分の中が変化して狭くなるの」
「とう…とうやっ」
「良いよ…もっと、もっとして…」
透也が私の太股にあそこを押しつけて来た。
凄い硬い感触。
「みのり、凄いえっちな顔してる…堪らない…僕も良い気分になってきたよ」
「あンっ…それ…それ、欲し…」
「終わったらね」
「あっ…ぁはっ…」
じゅぷじゅぷと指を出し入れし、芽を弄る指の動きを速めた。
身体の中で波が満ち引きしているのが判る。
芽の部分に強烈な快感を覚える。
内部でイクのは無理でも、芽の部分ではイケるかもしれない。
私は必死になって芽の部分を擦り上げた。
来そうになっている。
いつも与えられている大きな波が。
「んはっ…はぁんっ…」
「イク?」
「あっ…あっ…あっ…透也…透也!」
「イク?イケそうなの?」
「あぁっ…イクぅっ…ンっ!」
「…」
「あっ、あん!ああああっ…」
芽の部分からじわんっと身体中に快感が広がり、達した感触を覚えたすぐ後、
内壁がきゅうんと私の指を締め付けてひくひくとした。
指を抜くと、とろりと体液が流れる。
「はっ…はぁ…はぁ…」
「…可愛い…良いね、女の子が自分でやってるところって。病みつきになりそ
うだ」
「他の…子の、は…見ちゃやだ…」
「判っているよ…」
透也は私の足を大きく開かせて、間に入り込んできた。
「君だからイイんだ」
とろとろと液体を溢れさせている私の入り口にセカンドスキンを着けた透也が
熱を押しつけてくる。
「と…や…」
透也のそれはズズッと私の内壁と擦れ合いながら奧に入ってくる。
「んーっ…透、也っ」
「もっと淫らな顔をして見せて、あいつには見せない様な卑猥な表情をして見
せてよ」
「ん…んふぅ…熱…」
「みのり」
「透也…透也の…大きいよぉ…」
「気持ち良い?」
「気持ち良いよ…奧…当たって…」
「深い所まで欲しいか」
「う…ン…欲しいよ…」
「おねだり上手だね、可愛い子」
フッと透也は笑うとぐぐっと腰を押しつけてきた。
最深部にある私の気持ちのイイ場所に透也のモノが擦りつけられる。
「はっ…あっ…そこっ…」
一度イッた事によって敏感になっているその場所が電気を流すようにして私に
快感を与えてきた。
「あっ…あはン」
私は身体を下げて、透也との交わりが一層深くなるように腰を押しつける。
「君の中…やっぱり良いよ、最高だ…僕を温かく包んでくれる…だけどそれに
甘んじていると激しく吸い付いてきて僕を引きちぎろうとするかの勢いで僕を
求めてくる。君は油断ならない子だよ」
「はっ…あぁっ」
「抱きたかった…ずっと抱きたかったよ」
「透也ぁ」
私は彼を見上げた。薄茶の瞳が甘く滲んでいる。
そういう彼を私も見たかった。
私も…私も、きっと心の奥底では…
「私も抱かれたかった…」
言葉にしてそれを言うと透也が優しく微笑んでくれる。
「イイ事言ってくれる」
透也がぐちゃぐちゃと私の中をかき混ぜる。
「思う存分、僕を味わって」
「ふはっ…ああん…ああっあっ…」
「一度出しているから、結構もつと思うよ…君の方は…辛い、かな?」
ふふっと彼が笑った。
「はっ…はぁっ…あっ」
透也は少し腰を浮かせて私の上部に擦り付かせるようにして動く。
「ああ…良い…この、感触…堪らない」
恍惚とした表情で私を見下ろしてくる。
「何も知らないような顔をして男を狂わす君は、いけない子だね」
「ん…ぅ…」
胸を揉まれて先端の実をきゅっと摘まれる。
そして透也はそれを指先で転がした。
「君の何もかもが愛しいよ」
「…透也…」
「早く、僕を好きになって」
透也は一瞬切なげな表情をしてふっと笑った。
多分、私はもう透也の事が好きだ。
堪らなく惹かれている。
私が見つめると見つめ返してくる薄茶色の瞳も、パープルの瞳もどちらも好き。
私を見つめるときの甘く輝いた光を放つ彼の瞳が好き。
私を呼ぶ切なそうな声が好き。
彼が一体どんな人物であるかなんて私はなにひとつ知ってはいないのに、惹か
れてしまっている。
彼の美しい肉体に、虜にされている。
美しい皮を被った悪魔かもしれないのに…。
「透也っ…あっ…あんっ…ああっ」
「好きだ…みのり…好きだっ」
「透也…透也ぁっ」
ぱちんっと世界が弾ける。
「ひっ…や…ああああん!」
跳ねる私の身体を抱きしめて彼が、ぐぐっと自分を押しつけてくる。
ひくひくっと私の内部が震えて私に快感を与える。
「ふっ…はっ…あぁ…」
唇にキス。
何度も何度も擦り合わせてくる。
「みのり…瞳を開けて僕を見て…」
私がゆるゆると瞳を開けると、透也は真っ直ぐに私を見つめる。
「愛している」
どんな言い方が効果的かを知り尽くしている様に彼は私の心を射抜いていく。
世間知らずに男に騙されて、と貴方は嗤いますか?
だけど私は…貴方に溺れていく。
馬鹿みたいに、正直に。
「透也…」
「…」
ちゅっと短くキス。
唇に、額に、頬に。
「もう動いて大丈夫か?」
「う…ん…」
彼が少しずつ退いていく。
達した事で敏感になっている内部が、その刺激に震える。
「あっ、ふ…」
「そんなに締めないで」
「あ…ン…だ…って」
「まだ僕を欲している…それは判っているから」
「…」
身体が熱い。
透也ならもう一回イかせてくれる。
それを身体が覚えてしまったかの様に、彼の熱を求めて内壁が彼を押さえつけ
ているのが自分でも判る。
「そういう貪欲な所、凄く良い」
ふっと彼は笑った。
「すぐに僕でなければ駄目な身体になってくれるからね」
そう言った彼の薄茶の瞳が鈍く光った。
「とう…や?」
「戻れなくなる。もう何処にも」
「……」
彼のワントーン落ちた声に私はぶるっと震えた。
「落ちてこい…僕の下(もと)に」
「透也…」
「……」
透也は身体を揺すった。
沈められる
快楽の海に。
「んっ…はっ…」
「僕が何もかもを許せなくなる前に…ね」
繰り返される注挿、従う私の身体。
求めているのは私の服従?

でも、
もう奪われている
私は、この美しい人に。

私は透也を強く強く抱きしめた。


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