■■蒼の扉 2■■


途中、ドラッグストアに寄り避妊具を購入して、それから高崎さくらを僕の家
に連れ帰った。

彼女は、ちょこんと床に座っている。
その表情は哀しそうではなかったが、嬉しそうでもなかった。
―――――嬉しそう、か。
そんな風に彼女が感じる筈がないだろう、相沢でもあるまいし。

「どうして俺を止めた?」
僕が言葉を発すると、高崎がその瞳をこちらに向けてきた。
そしてまた俯く。
「その質問には答えたくない」
「…じゃあ、なんでおまえは矢島の行動をいちいちチェックしてるんだ?この
前もそうだったよな」
「…」
「それも答えたくない?」
「…」
「矢島を”やっくん”って呼んだよな?」
「…」
高崎は貝の様に口を閉ざしている。
僕は息をついた。
「クラスの…ある女子にホテルに誘われたよ」
そう言う僕に、彼女はびくりと身体を震わせて僕を見上げた。
その先を僕が黙っていると高崎の方から訊いてくる。
「…それで…どう…したの?」
「したと言ったら?」
冷淡な物言いを僕はする。
高崎は僕を見、それから俯いた。
「男の子ってどうしてセックスする事しか頭にないの」
小さな声で彼女が言った。
どうして?
そんなものは本能なのだから仕方がないだろう。
恨む対象は繁殖目的以外に快楽を我々に与えた者だ。
「女だってそうだろ」
「…セックスなんて大嫌い。いつも、私を絶望させる」
「…」
「男の子は、気持ちが無くっても平気でセックスをする。塩瀬君も矢島君も、
みんなそうだ」
小声でそう言って高崎は涙を零した。
「自分は違うとでも言いたいのか?」
「塩瀬君も矢島君も大嫌い!」
彼女はそう言うと鞄を持って立ち上がる。
扉の傍に立っていた僕は、出入り口を身体で塞ぐ。
「まだ用事は済んでいない」
「私は貴方とは寝ない。どうしてもしたければ陵辱すればいい、だけど私の何
一つ貴方には渡さない」
高崎はそう言うと初めて強い意志を僕に向けてきた。
僕は息をつく。
「寝たなんて嘘だ。誘われたのは…事実だけどな」
「…」
「おまえが何も答えないから意地悪をしたくなっただけだ」
高崎は俯いたまま口を開いた。
「矢島君とは一年の時に付き合ってた」
「…え?」
僕は驚いた。
矢島と高崎では随分とかけ離れている様な気がしたからだ。
「一年の時は、矢島君…あんなんじゃなかったよ」
僕は、ポケットに手を入れてハンカチを取り出すと、濡れた彼女の頬にそれを
当てた。
彼女の涙が布に吸い込まれていく。
「手を繋いで一緒に帰って話をして笑い合って何でもない事が楽しくて幸せだ
った。彼が私を抱きたいと言うまでは」
「…拒んだのか、何故?」
「だって怖かった。その時まで私は自分が女で彼が男だという事を意識した事
なんてなかったから」

そして一度掛け違えたボタンは二度と元に戻る事は無かった。
そんな風に彼女は言った。

「それなのにどうして俺とは寝た?」
「…答えたくない」
「…今も俺とはもう寝ないつもりでいるか」
僕の言葉に高崎は顔を上げて、大きな瞳で僕を見た。
「”遊び友達”でも構わない…、それが私だけだと言うんだったら、私塩瀬君
の為なら何でもするよ」
僕は彼女に手を伸ばす。
耳の上で結った髪に指を梳かし入れると、その髪はさらさらと僕の指から零れ
ていった。
「おまえを自由にして良いと言う事か?」
「…ウン」
「矢島とはしなかったのに?」
高崎はちょっと笑った。
「だって、塩瀬君ってセックスする時も普段とあんまり変わらないんだもん」
なんだそれは。
「…そんな筈はない」
「そうだよ、変な事を私にさせても全然普通の顔してた」
「普通ではなかったよ」
「…慣れてそうだったし」
「それも違う」
「…」
「俺はあれが初めてだった」
「嘘」
「嘘を言っても仕方がない」
「…」
「だから…君にはつまらない思いをさせたと思う。自分の事だけで手一杯だっ
た」
僕がそう告白すると高崎は笑った。
「本当、塩瀬君って淡々としているよね」
「そうでもない」
「そうだよ」
「いや、おまえにはひどく興奮させられる」
「…」
高崎は頬を朱に染め、僕から視線を外した。
「…私だって、その…おもしろくはさせられない…努力は…する、つもりだけ
ど」
「おもしろくない事は無い、高崎は可愛い声を上げるし、濡れる窪みも俺を受
け入れる内部も堪らなく良い」
そう言う僕に高崎は口元を手で覆った。
「…言い過ぎたか?不愉快にさせてしまったのなら、すまない」
「し、塩瀬君って、えっちな事もさらっと言うよね」
「そうか?」
「…だよ」
僕は寄りかかっていた扉から身体を起こした。
それと同時に彼女が僕に身体を寄せてきたので、僕はその身を抱き締めた。
「他の女の子は抱かないで…」
「…抱かない」
僕がそう言うと高崎は持っていた鞄を床に落とし、僕を抱き返してきた。
「何でもする…私、何でもするから…」
触れる体温と、鼓膜を震わす声に僕の身体が熱くなっていく。
「…ん…ぁ…」
押し当てられる僕の身体の変化に気が付いたのか、彼女は赤くなって震える。
「高崎を欲しがってる、判る?」
「わ…判る、よ」
「こうなると自分でもどうにもならなくなる」
「うん……いいよ」
僕は僕の胸に顔を押しつけている高崎を見下ろした。
彼女は本当に小さい。
僕が男子の中でも背が高い部類に入るから、余計にそう感じるのかも知れなか
ったが。
細い肩をぎゅっと抱いた。
丸みのある柔らかな身体の感触を手のひらに感じる。
抱きたかった身体が、今、僕の腕の中にある。
熱くなる身体と裏腹に心はひどく穏やかで、静かだった。
狂いたくなる程の情欲を制する事が出来ていた。
抱けないと思っていた時は、のたうち回りたい位に苦しかったのに。
僕は高崎の艶やかな髪に触れて己の指に絡める。
彼女のどの部位も、触れる感触は心地が良い。
まるで僕が”良い”と感じるパーツを寄せて集めたかの様に。
「…俺が、高崎を抱くのにはそれ相応の代価を要すると思うのだが」
「ん?え?」
不思議そうな表情をして高崎が僕を見上げる。
「勿論、代価と言っても金でどうこうしようと思っているわけじゃない」
「…ごめん、塩瀬君の言っている意味が判らない」
「…俺が高崎を抱く事で満たされるものがある様に、おまえが必要とするもの
を与えたい…と、言っている」
僕がそう言うと、彼女は大きな瞳を益々大きくさせた。
「何もしないって言いながら何かしてきた人の台詞だとは思えない」
「アレは…仕方がない、触れずにはいられなかった」
「意外に義理堅いんだね、塩瀬君って」
「意外にと言われると不本意なんだが」
「…だからね…あの、他の女の子を抱かないでいてくれればいいから」
「それは交換条件にはならない。おまえを抱きながら別の女を抱くと言うこと
は俺のポリシーに反する。言われなくてもそういう事はしない、だから違う何
かを要求して欲しい」
「なんだか凄く身持ちが堅いんだね、ぽんと私を抱いた人だとは思えない」
「その事に関しては返す言葉がない、俺の欲求を高崎に押しつけた事は申し訳
ないと思っている」
「申し訳ないなんて言われると私のほうが申し訳ない気分になってくるんだけ
ど…」
「何か求めてくれないか、俺の出来る範囲内で」
高崎は頭を傾けて、小動物の様な瞳で僕を見つめる。
「あの…あのね、正直言って、私が私以外の女の子を抱かないでって塩瀬君に
要求する事自体が出過ぎた事だと思っているの」
「…」
「なのに、塩瀬君はそれを了承してくれた。だからそれだけで私は満足なんだ」
「それでは俺の気が済まない。別の人間としないなんていう事は必要最低限の
礼儀だろう?そうでないと言うのなら高崎は俺と寝ながら別の男からの誘いが
あれば受けると解釈すればいいのか?だとすれば逆に俺はそういう人間とは寝
たくないのだけど?」
「いや…勿論、私だって塩瀬君以外の人とはしないよ」
「本当にか?俺は他人と共有する事を認められるほど広い心を持ち合わせては
いないよ」
「あ…はい、それでいいです」
僕は視線を一度彼女から外して再び高崎を見る。
「聞かれたくない事だとは思うが、答えてくれないか」
「うん…何?」
「例えば今、矢島に誘われたら高崎はどうする?」
「塩瀬君以外の人とはしない…そう言ったよね」
「そうだな」
「…」
「…これでは、俺ばかりが要求している…」
「え?あー…」
「そもそもなんの権限があって俺はおまえを拘束しようとしているんだ?」
「あの…ね、構わないから、そうしてくれて」
「何故?」
「…あは、なんでだろうねー」
そう言って高崎は笑う。
「そんなあやふやな事では納得がいかない」
「塩瀬君って理数系の人だねぇ…」
「高崎は気持ちが悪くないのか?」
「だって、私の中では答えが出てるから」
「どんな?」
「言いたくない」
「何だって?」
「だから、言いたくない」
「どうして?」
「私の答えを言っても、それが塩瀬君の答えになるとは思えないもの」
爽やかな顔をして彼女が言い放った。
「数学なんかとは違って、解き方が違えば答えは変わっちゃうもん」
目の覚めるような事を高崎が言う。
よもや彼女からそんな風に言われるとは思っていなかった。
「おまえは存外に賢い事を言うな。見直した」
「一見誉めてる様で凄くバカにしてるよね…」
「あぁ…そうだな、すまない」
彼女は少しだけ何かを考える様な表情をする。
「…それじゃあね、ひとつだけ…お願いして良い?」
「なんだ?」
「えっちする時は名前で呼んで欲しいな」
「さくらと呼べばいいのか?それだけ?」
僕が名を呼ぶと、彼女は驚いた様に僕を見上げた。
「うん…ウン、それでいい」
至極嬉しそうな表情をして高崎は微笑んだ。
見ていてこちらまでもが温かくなる様な笑顔だった。
「何がそんなに嬉しい?」
「だって、塩瀬君が私の名前を知っているとは思わなかったから」
「それは…おまえが印象的な自己紹介の仕方をしていたからで…」
「うん、判ってる、過剰に期待はしていないから大丈夫」
彼女の言葉に、僕は胸を突かれる様な思いがした。
「おまえの誘いを…受けなかった事を怒っているのか?」
「ううん、塩瀬君が誘いに乗ってくるとは思っていなかったから、怒ってなん
かいないよ」
「乗ってこないと判っていてどうして誘った?」
「駄目だと判っていても、言うのは自由だと思ったから」
「―――――どうして、俺を誘った?」
「その質問には答えたくない」
「答えたくない理由は?」
「…判っていて、言わせようとしているなら止めて、いくら塩瀬君でも私を傷
つけて良いわけない」
「違う、そうではない」
「そうじゃないなら尚更言いたくない」
彼女はそう言うと口を閉ざした。
気まずい空気が流れる。
「…俺は、苦手…なんだ、他人と馴れ合う事が」
僕がそう言うと、高崎が視線を上げる。
「人と時間を共有する事が、凄く負担に感じるんだ、だから”おまえだから”
誘いを断ったというわけではない。それが誰でも…」
「…今も、苦しい?」
「…いや…」
視線がぶつかり合って、少しだけ見つめ合ってから、それから互いの唇を触れ
合わせた。
彼女は大人しくそれに応じる。

他人の存在は重く、息苦しい。
だから僕はある一定の距離を置く必要があった。
そんな僕なのに、矛盾する様に他人と触れ合うという事を知りたがった。
人が持つ本能と僕が持つ性格が、矛盾していて。
触れたい、だけど触れたくない。
そんな矛盾。

「…さくら…」

僕が彼女に固執するのは、初めて触れた他人だからか?

柔らかなさくらの胸に触れる。
僕が持っていないもの。
温かな膨らみ。
彼女のリボンを外し、ブラウスのボタンを外していく。
前を開くと白いレースの下着に包まれた肌が露出する。
隠されている淡い色をした胸の頂を想像して僕は興奮を覚えた。
その胸の頂を舐めたいと、馬鹿みたいに真剣に思った。
僕は彼女の背中に手を回し下着のホックを外す。
ひとつひとつのプロセスを思い出す様に、或いは本能のままに彼女の肌に唇を
寄せ、舌を這わせた。
柔らかな感触が僕を煽る。
そして彼女の秘部の温もりは尚一層僕を高めた。
溶けそうに濡れて熱い。
溢れる液体で僕を招き入れ苦しい位の感覚を僕に与えて。
小さく膨らんだ花の芽を撫でるとさくらが甘い声で僕を誘った。
「…ココ、気持ち良いんだよね?」
ふるっと彼女が震える。
「あ、あんまり…触っちゃ…やだ…」
「もっと触れての間違いではなくて?」
裂け目を撫で、濡らされた指で芽を撫でる。
ただ柔らかいだけではなく僅かな硬さも指に感じた。
その芯が、彼女に快楽を与えているのだと僕は理解する。
「あ…あぁ…」
「どう?良い?」
「ン…ぅ…」
薄い繁みに隠されている芽や濡れた身体の裂け目に僕は目を落とす。
写真や画像で見るのとでは、やはり少し違う。
実際のものはもっともっと艶めかしい。
美しいとはお世辞でも形容し難かったが、牡を誘う構造をしていると思えた。
花の芽が、排泄する場所だと理解していても舐めたいと思ってしまうのは何故
なのだろうか。
僕の口で弄って舐めて…
「い、やぁんっ」
彼女が高い声を上げて身体を反らした。
「ソコ嫌…、いやぁっ」
「さくら…さくら…どう?」
「いやいやっ…ああっ…」
「感じて…るの?良い?」
「塩瀬君の口で、そんな事をしたら駄目っ」
「俺の口でなかったら、一体誰に舐めさせる気なの…」
「あん…あぁん…やぁっ」
舌先で何度も何度も芽を撫でる。
花の香りが一層強くなる。
頭がクラリとする様な淫靡な匂いに誘われて僕は犬の様にソコを舐めた。
「いやだぁっ」
「意外と美味しいよ」
「変な事言っちゃやだっ」
手で顔を覆い隠しながら彼女が言う。
視界を遮っているのを幸いに、僕は鞄から購入したコンドームの箱を取り出し
包みを破った。
手っ取り早いのは矢島から貰ったゴムの方だったが、それを使える程の逞しい
神経を僕は持ち合わせてはいなかった。
コンドームを僕自身に被せて息をつく。
セカンドスキンの感覚は、少しだけ圧迫感があって決して愉快なものでは無か
ったが…。
「…さくら…良い?」
僕が声を掛けると、彼女は頷いた。
さくらの顔の横に手をつくと、キシ…とベッドが軋んだ音を立てた。
「…さくら」
僕は彼女の頭を撫でる。
彼女が僕を見るまでそれを続けた。
「しお…せ、君」
僕は瞳を閉じて、さくらの額に僕の額を押しつけた。
彼女の手を静かに握る。
「ご免な」
「…どうして謝るの?」
「これからおまえに苦痛を強いる事をするから」
僕がそう言うとさくらは少し笑った。
「塩瀬君は優しいね」
「俺みたいな人間を優しいと形容するのは間違えている」
「私は、そうは思わないよ」
「優しい人間は無理強いなどしない」
「無理強いされたとは思ってない」
「…」
「塩瀬君は…止めてと言えば止めてくれそうな雰囲気だったから、だから私…
自分が我慢出来ない限界まで我慢しようと思った」
「甘いな、口でどう言っていても…俺は、止める気なんてなかったよ」
「ウン…そうかもしれないけど」
さくらは目を閉じて息をついた。
「塩瀬君の為だったら、痛い事も辛い事も我慢できそーって思えた」
「俺の…為?」
「…」
それきりさくらは黙ってしまう。
僕は、そっと彼女の頬を撫でた。
「…さくら…」
彼女の名を呼びながら、僕は自分の熱をさくらの身体への入り口に差し込む。
内部が僕を圧してくる。
途端に僕のそこから快感が沸き上がってきた。
それは苦しくて苦しくて狂ってしまいたくなる程に耐え難く、自分を見失って
しまいそうになる位に甘美なものだった。
―――――許せないのは、そうと感じているのが僕だけだという事。
触れる毎に僕が甘く酔うのに対し、さくらには苦痛を与える。
不意に彼女が強く僕の手を握った。
「だいじょうぶ、大丈夫だから…塩瀬君は我慢しなくて良いよ」
「さくら…」
「塩瀬君が思っている程、辛いと感じてないから」
そう言って彼女は、にこっと笑った。
「ごめんね、面倒だよね…私の身体」
僕は首を振った。
「そんな風には感じていない」
ゆっくりと、僕は動いた。
ズズ…っと奧まで身体を進める。
「ん…は…っ…」
堪えきれないのか、さくらが声を上げる。
「痛いか」
「平気、この前程は痛くないよ」
「…女の、身体は大変なんだな…出血するし…」
「それは毎月の事だから慣れっこなんだけど…驚かせちゃった?」
「いや…正直…少し、安堵した。俺の不手際を嘲られる事が無いと思えたから」
「そんなに初めてって恥ずかしい事?」
「俺は、ひどく自尊心を傷つけられる事を嫌う種別の人間なんだと思う、だか
ら他人と触れ合う事で起こる摩擦を負担に感じるんだと…考えられる」
「…」
「痛みには耐えられない弱い人間なんだ、俺は」
「そう」
「失望したか」
「ううん、そこまで話してくれる事が嬉しい」
「嬉しい?」
「うん、嬉しい」
「…何故?」
「少しだけ、塩瀬君に近付けた様な気がするから」
…少し、だけ。
身体はこんなに近くにあるのに。

僕はさくらと寝る事で、知らない事がひとつ無くなったけれども、知らなくて
はならない事は増えた様な気がした。

知らなくてはならない事、知りたいと僕が思う事。
教えたいと思う心。

僕が感じる事を知って欲しいと思う気持ち。
触れ合う事で感じる感覚を、同じ様に知って欲しいと、僕は―――――。

浅く、深く、僕はさくらと交わり合う。
僕が己を解き放つ刹那、受け止めてくれる小さな身体を強く抱き締めた。

「…あのね」
彼女が小さく僕の耳元で囁いた。
「塩瀬君が我慢出来ない事は、他人に傷つけられる事じゃなくって、他人を傷
つけてしまうかもしれない自分になの」
そう言ってさくらは僕をぎゅうっと抱き締める。
「だって、塩瀬君は優しいから、傷つく誰かを見たくないんだと…私はそんな
風に思うよ」
そう言った彼女を僕は強く深く己の身体に抱き込んだ。
「優しいのはおまえの方だ…」

茜色に染まる部屋の中で、僕達はいつまでも抱き締め合った。
飽きるという言葉を忘れてしまったかの様に。

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