■■その愛の名を教えて 15■■


透也が一緒でないと外出するのは基本的に駄目。
透也に直接出掛けてはいけないと言われた事は無かったのだが、暗黙の了解と
なっていた。
でも、マンションから歩いてすぐの場所にあるコンビニぐらいにはふらっと出
掛けたりはする。
透也が大学に行っている暇な時間をコンビニで潰したりしていた。
雑誌コーナーでなんとなく男性用のファッション誌が置いてある方に視線を移
すと、表紙に”今注目のホストクラブ”と書かれている雑誌がある。
それに興味を惹かれ手に取った。
ぱらりと捲ると”不夜城”の暁雪乃さんが一ページ丸々掲載されている。
雪乃さん凄い綺麗に写ってる。
華のある人だ。
…今、どうしているのかな。
ぱらりと次ページを捲り、慌てて雑誌を閉じた。
それからもう一度、同じページを開いて息を呑む。

と、透也だ。

フェイクタウンの紹介ページに透也が掲載されていた。

嘘、雑誌に載るなんて透也は一言も言ってなかった。
教えてくれても良かったのに。

もう一度透也が掲載されているページを見た。
雪乃さんに負けず劣らず綺麗に写ってる。
写真からでも色香が漂ってきそうな感じ。

透也…綺麗。

カメラを見ている彼の視線に、まるで自分が見つめられている様な錯覚を起こ
してドキドキしてしまう。
私は彼の写真を持っていないからその雑誌に載っている彼でさえ愛おしかった。

******

「ただいまー」

扉が開いて、透也が姿を現す。
大学から帰ってきた彼は、眼鏡を掛けていて金色の髪をひとつに束ねている。
「ねぇねぇ、透也!」
「”おかえり”は?」
「あ、おかえりなさい」
「ウン、で、何?」
束ねている髪を解きながら彼は私を見る。
「今日コンビニに行ったら、透也が載ってる雑誌を見つけたよ」
そう私が言うと、透也は頭を傾けた。
「雑誌?」
私が雑誌の名前を言うと、それでもなんだか判らない、といった様な顔をして
いる。
私はテーブルに置いておいた雑誌を手に取り、透也が掲載されているページを
開いて彼に見せた。
それを見た彼は顎に手を置いて「ああ、そういえば」と言った。
「忘れていたの?」
私の言葉に、彼はちらりとこちらを見た。
「それの撮影をやった時って、僕が最も不機嫌な時だったから」
「え?」
「仕事も休んでいたっていうのに、社長に無理矢理現場に連れて行かれて最悪
だったのは覚えている」
「透也が仕事を休む事なんてあるの?」
彼の腕が私の腰に回り、引き寄せられた。
「君が僕の前から居なくなった時でも、僕はニコニコ笑って接客を出来ると君
は思っているのか?」
「え…あ…」
「…」
「仕事、休んだの?」
「一ヶ月穴をあけたよ、普通ならクビになってるね」
「…ご、ごめん…なさい」
「ま、辞める気でいたけどね」
「ホストを??」
「…」
透也は私を見下ろしてくる。
「死に時を探っていた…仕事なんて本当にもうどうでも良かった」
「と、透也…」
「死にたい気持ちと君に逢いたい気持ちがせめぎ合っていて逢いたい気持ちが
常に強かったから決断が出来なかったんだけどね」
「…」
「で、何?その雑誌買ったんだ」
何事も無かったかの様に透也はフッと笑う。
「だ…って、透也が載っていたし…私、透也の写真とか、持ってないし」
「写真…ね。撮らないからな」
それから、また笑う。
「最近撮った写真はフェイクに飾られている写真位だな。死んだ時困るか…、
まぁ、葬式なんてしてくれなくていいけど」
「そういう縁起の悪い事言わないでよ」
「僕が死んだら海に散骨してね」
「絶対に自分の方が先に死ぬと思ってるよね」
「思っていると言うか…」
そこで彼は言葉を止める。
なんだか嫌な感じがした。
「そ…れって、この前透也が倒れた事とか薬の事とかと関係あるの?」
「…」
この前からずっと不安に思っていた。
透也が何か悪い病気にかかっていたらどうしよう…って。
「透也が飲んでいるお薬は…なんのお薬なの?」
私の問い掛けに、透也は微笑んで私の頭を撫でた。
「僕が悪い病気を患っていると思ってる?」
「だって、言ってくれない…」
「まぁ、病気に良いも悪いも無いけどね」
「…話して」
透也は黙って私を見下ろしている。
あ、話してくれる気が無いんだと思った。
「どうして話してくれないの?」
彼は小さく息をついた。
「君に打ち明けるにはかなりの勇気を要する。今の僕にはそれが足りない」
「そ、そんなに悪い病気なの?」
「何を称して”悪い”と言うか判らないけれど、直接死に関わる病気ではない
から安心してくれて構わないよ」
「間接的には関わるって言う事?」
私がそう言うと、透也は苦く笑った。
「君は時々恐ろしく鋭い返しをしてくるよね」
「透也が死ぬのは嫌…」
「人は簡単には死ねないよ、どれだけそれを望んでいてもね」
「と、透也」
「ああ、今の僕が死にたいと思っているという意味ではないよ、僕は君と共に
生きていく」
彼はそう言って私の身体を撫でてくる。
小さく息をついた。

もしかしたら、私にとっては些細な事なのかも知れない。
私が彼に話せなかった性癖の様に。
そう思う事で、自分を安心させたかった。

私達に今足りない物は、信頼という深い結びつき。

透也をぎゅっと抱き締めた。

「僕は、君が一緒に居てくれるのなら生きたい」
「…傍に居る」
「うん…」
傍に居る。だから一緒に生きていて。
「…写真、撮ろうか」
彼が私の頭の上でぽつりとそう言った。
「ウン」
「思い出を、残しておくのも悪くない」
「うん、撮ろう」
「カメラを買わないとね」
私が笑うと透也も笑った。
綺麗な笑顔で。
そんな貴方の表情を残しておきたい。
「透也、大好き…」
「僕も好きだよ」
唇に短いキス。

私達は、この世に生まれ出たその日から滅びる未来を背負っている。
その瞬間が少しでも遅ければと願う。
私達を分かつ、その日がずっとずっと遠い先であればいいと思った。

透也の指が、つっ…と私の頬をなぞった。
「僕ばかりが幸せで、君に申し訳ない」
「私だって幸せだよ」
貴方が愛していると言ってくれるから。
彼は静かに瞳を閉じて、小さく微笑んだ。
”穏やかな顔をする様になった”
そんな織原さんの言葉をふと思い出した。
出逢った頃の張り詰めた雰囲気は未だに持ち続けてはいるものの本当に透也は
穏やかに笑う様になった。

前の透也は余裕有りげに笑いながらも、いつも直向(ひたむ)きな想いを私に
向ける事で、精一杯だったと思う。
求め続ける方法しか知らず、時には不器用に心を震わせていた。
想いの受け皿がザル(わたし)であったから、溜まっていかない自分の想いに
焦りや不安を覚えていたと思う。

もし、
私が、
(俺が)
彼であったとしたら
―――――もうとっくに狂っている。

織原さんが言った言葉と私の思いが重なる。

私は、残酷な言葉を彼に吐き続けていた。
私の拒絶がどれだけ彼の孤独を深めるかとも知らずに。
知らない事を免罪符に彼をいたぶり続けた。そうするつもりは無くても。
自分が彼にした仕打ちを考えると心が痛かった。
だけど私はその罪を赦されたいとは思わない。
私が彼と一緒に居続ける事で初めて罪を償えるのだと思いたいから。

私が、
私だけが、
彼を救えるのなら私は喜んでこの身を透也に捧げる。
彼が私に全てを与えると言った様に私も彼に全てを与えたい。
欠けて足りない物が多くても。

透也、私の愛しい人。
彼の胸に頬を寄せて私は温もりと優しい心臓の音を確かめた。
「みのり」
透也の長い指が私の顎に触れ、軽く持ち上げられる。
唇で体温の交換をし合った。

「…そういえば」

唇がまだ離れ切っていない状態で透也が言葉を発する。
「何?」
「君宛に郵便物が届いていたよ」
そう言って透也は封筒を私の目の前にかざした。
「…あ、何を持っているんだろうって思っていたんだけど私宛だったんだ」
手紙を受け取って裏を見るとお母さんの名前が書いてあった。
封を切って中を見ると母が書いたであろう手紙と何かのハガキが同封されてい
た。
お母さんの手紙は元気でやっているか?と私を心配する文面が綴られていて最
後に私宛に手紙が届いていたので送る、と書かれていた。
ハガキを見ると小学校6年生の時のクラスの同窓会のお知らせだった。
その当時担任だった先生が教職を離れられるので、ご苦労様の会も兼ねてと書
かれている。
「ふーん、同窓会かぁ」
「まさか行く気?」
顔を上げると、透也が難しそうな表情をした。
「景ちゃんと会うんじゃないのか」
「5、6年の時は違うクラスだったよ」
「…ああ、そう」
「担任だった先生が辞めちゃうみたいだから行きたいな…駄目?」
透也は迷う様な表情をしてから、小さく息を吐いた。
「いいよ…仕方がない」
決して、心の底から”良し”とは思っていない顔だった。
「…ありがとう」
「その代わり、君はアルコール禁止ね」
「うん、判った」
遠い昔の事を思い出して浮かれた顔をすると、透也が寂しそうな顔をする。
…そういう顔をされると心が痛むんですけど。
「楽しそうだな」
「…う、うん…」
「僕には振り返って楽しい思い出などないから羨ましいよ」
「透也は同窓会とかに出席しないの?」
「…行かない。ウザイだけだ」
「手を出した女の子がいるから?」
ぽろっとそう言うと、透也は右手で顔を押さえた。
「…君、それ嫌味でもなんでもなく素で言ってるだろ?かえって痛いんだけど」
「いや、そうなのかなーって思えるから」
「僕はそこまで手当たり次第じゃないよ」
じゃあこの前の女の人は?
「…目で語らないでくれる?」
透也は溜息をついた。
「この前会ったのは学年は同じだけど、クラスは別だった」
「同じクラスの子と付き合わないのは別れた時に気まずくなっちゃうから?」
「別れるも何も、もともと付き合ってないから」
「寝るのに?」
「…君、ストレートな物言いをする様になったよね…」
「”付き合わない”のにどうやって寝るの?透也は自分から誘った事はないっ
て言ったよね?女の子の方からある日突然寝ようって誘われるの?なんだか未
知の世界なんだけど」
「その質問には答えなければいけないか?」
「今の質問に答えるか、薬は何を飲んでいるのか、どちらかを選んで教えてく
れたらいいよ」
「…そういう切り返し方をする?」
透也は苦く笑った。
「いきなり誘ってきたり、そうでなかったり。パターンはひとつではない」
「いきなり誘われた場合はすぐに応じるの?」
「ストップ、これ以上は答えないよ」
「ズルイ」
「女関係の事はひどいって自覚があるから話せない」
「…ひどいひどいって言われると余計に気になるよ」
「まァ、そうだろうね。君が僕なら気になって夜も眠れない所だ」
「じゃあ、話してよ」
「僕が君なら君は話さないと思うよ?」
「…」
それもそうかも知れないと思ってしまうから、深く追及が出来ないのだ。
気になるけど、聞けば後悔する様な気がする。
「良いじゃない、今は君を愛しているのだから」
「先に何か言い始めたのは透也の方だよ」
「…そうだったね」
透也がふんわりと私を抱き締めてきた。
「君が楽しそうにしているから、面白くない」
「拗ねているの?」
「…そんなに可愛いものかな」
「ふふ、もっとぎゅってして」
私は自ら透也をきゅっと抱き締めた。
その力に応える様に透也も腕に力を込めてきた。
「大好き」
「こんな僕でも?」
「うん」
唇の上に透也の温もりが落ちてくる。
それが、少し激しくて。
「ん…」
セックスを始めようという合図の様な気がして、身体がぼぅっと熱くなった。
「ちょ、ちょっと待って」
「…待たない」
つっと首筋に唇を滑らせながら透也はそう応えた。
「するなら夜にしよ?透也が仕事から帰ってきてから…」
「僕に”お預け”を命じる気?悪いけど僕はそれほど従順ではないよ」
眼鏡のブリッジ部を左手の中指でくいっと上げながら透也が言う。
「お風呂入ってないから嫌だ」
「僕が?」
「私が!」
「僕も入っていないから同条件だね」
「透也は私を舐めてくるでしょ?だから嫌」
「僕は別に構わないよ、風呂に入っていない君を抱くのが初めてでもあるまい
し、何を今更」
「だけどっ…や…ちょっと…」
透也はその大きな手で私の胸をゆったりと揉んでくる。
「君は馬鹿だな、拒めば余計に僕はヤりたくなるっていうのを未だに理解して
いないの?」
「ば、馬鹿って言うけどね、拒まなければそのままされちゃうでしょう?」
「うん、結局の所君に選択権は無いって事だね」
そう言って透也はふわっと私を抱き上げた。
ベッドに強制連行する気だ。
「透也!」
「ま、風呂に入らないで抱かれるのが嫌なら今後は僕の帰宅前に済ませておく
事だね」
「…とう…」
ばふっとベッドに下ろされてそのまま透也がのし掛かってきてキスをしてくる。
キスをしながら彼の手はもう私の服の中で、しかも背中に回っていて、下着の
ホックをぱちんと外される。
キスが終わった、と思った次の瞬間には彼の唇は既に私の胸の上だった。
透也の舌先が私の先端部で踊る。
「や…、は…ん…」
ちゅっと派手なキスの音を立たせてから彼は顔を上げる。
「本当に、この僕に抱かれるのが嫌だとでも言うのか」
透也は薄く笑ってそう言うと、私の脚を大きく開かせてその間に身体を置き、
私の芯に自身を擦りつけてきた。
透也のそれはもう既に大きくなっていて熱を上げていた。
「や、やだ…大…」
言いかけて止めたのに、透也はにやりと笑う。
「そうだよ、もうこんなになっている。このまま熱を持った状態で仕事に行か
せる気?そんな事をしたら僕の欲求を感じ取った客の何人に僕がキスされてし
まうか判らないよ?」
透也の色香にお客が誘われると言う事?
「いじ…わる」
「そうかな?僕は君しか抱く事が出来ないというのに、その君が僕を拒むとい
う事の方が余程意地が悪いと思うけどね」
そう言って透也は身体を揺すった。
二人の身体の触れ合う部分から甘い快感が沸き上がってくる。
「あ…ん…」
「ほら、これでも僕が欲しくないと言うの?どうなの?」
擦られて一層快感が強まる。
透也は自身のそれで、的確に私の蕾の部分を刺激してくる。
その甘い感触に私は声を出さずにはいられない。
「と、透也っ…」
「挿れて欲しいのだろ?僕を深い所で感じたいんだろ?…本当は」
彼の誘導する言葉に、ぞくっとする。
その言葉だけで潤ってしまいそうだった。
「言え、抱いて下さいと懇願してみろ」
「ああ…透也…だ、抱いて…」
「”抱いて下さいだ”間違えるな」
ぴっ、と彼の人差し指が私の頬を弾いた。
痛みなんて無い、だけど、ぞくっと背筋に甘いものが伝っていく。
「ん、んふ…抱いて…下さい…」
「初めからそう言え」
透也は薄く笑って言葉を続ける。
「自分で下着を脱いで、僕の目の前にその身体を曝してみろ」
「い…いや…」
透也は目を細めた。
「今、何か言ったか?」
「…」
そっと手を伸ばしてショーツに手を掛ける。
震える手を堪えてそれを下ろして脚から抜き取った。
透也は片手で自身の身体を支え、もう片方の手は腰に置いて私を見下ろしてい
る。
「脚を開け」
内股気味に脚を開く私の行動を良しとしない彼は私の脚を掴んで大きく開かせ
た。
「そのままにしておけよ」
透也はそう言うと頭を下げて、私の女性器に口を付けた。
最もして欲しくないと思っていた事をされる。
「ああ…いや…」
「凄い香る、可愛い顔をして君のココは派手に女の匂いをさせているな」
そう言って、透也は舌先で蕾を嬲る。
「そんな風に言ったら嫌…」
「もっと溢れさせてみな、僕が掬い取ってあげるから…口でね」
「あ…は…ぅ…ン」
「気持ちいいのだろ?」
「…」
「答えろ」
「…ん…気持ち…い、い」
ちゅるちゅるとわざと音を立たせて、彼は私のそこを舐めた。
「ああ…っ」
柔らかな唇と舌で私の女の部分を刺激してくる。
甘くてなんとも言い難い快感が湧いては消えていく。
深海で人知れず消えていく泡の様に私の体内でそれは起こる。
私が知らせなければ誰にも気付かれない体内の変化を彼は知ろうとした。
透也の唇は堪らなく気持ちが良い。
閉じられた唇が開いてしまう程に。
自身の口で愛撫をしながら透也は身に纏う物を脱いでいく。
露出されていく逞しい肉体を見つめ、私は待った。
透也のそれが露わにされる瞬間を。
脱ぎ捨てられる互いの衣服。
最後の最後の瞬間に透也は自身のそれを私の目の前に露呈させた。
身体を起こし、待ちかねていたかの様に彼のものを口に銜える。
透也は一瞬腰を引きかけたが、私の頭に手を置いて奧まで差し込んできた。
私は口腔内で彼の逞しさを堪能する。
甘く息をついて透也が言う。
「凄くイイ…一層上手くなったね」
私の口の中で彼が膨らむ。
私が彼を感じ、彼が私を感じる。
互いが感じる事が出来るのは互いの存在だけだと思うと感情が一気に燃え上が
る。
「…そんなに、吸い付かないで…」
甘く浮いた声で言う彼にゾクッとした。
どんな声も、表情も、短くつく息でさえも、見る事も聞く事も出来るのは私だ
けなのだ。
花開き、すぐに散りゆく桜の如き儚いまでの美しさを誇る人を、私は…。
身を屈め、透也のそれを胸の谷間に置く。
ゆっくりとそれを包み込むように挟んで胸を上下させた。
透也が短く息をつく。
私のどんな部分でも、彼を気持ち良く出来るなら使いたい。
「滑りが悪いから、僕のナニを君の唾液で濡らせて」
「…あ、う、うん」
透也の先端部に口を付けて口腔内で唾液を集めては、そこにそっと垂らした。
「もっとべちゃべちゃになる位濡らしちゃってよ」
「で、でも…」
「僕がそうしろと言っているんだよ?」
「…」
なるべく多くの液体を口の中で溜め込んで、彼の先端部からとろりと流した。
透也のソレが私の唾液で濡れる。
私はもう一度彼のソレを胸で挟んで上下に動かした。
唾液が潤滑油の代わりをしてくれて、先程よりスムーズに身体が動く。
「…ああ…イイよ」
透也も軽く身体を揺する。
「どんな気分?僕のナニが胸の間から見え隠れする様子を見て」
「…興奮、する…胸で感じる透也の硬さに、ドキドキしちゃう」
胸から時折顔を出す彼のソレを舌で愛撫した。
彼も興奮している様で、先端部からはとろりと透明の液体が溢れてきている。
その液体をちゅるちゅると舌先で拭ったり口で吸い上げたりした。
「僕だって、お風呂入っていないんだよ?」
透也は小さく笑いながらそう言う。
「そんなの…構わない…」
透也に対して汚いという思いは湧かなかった。
「ん…凄く…硬い…」
透也を胸に抱きながらぶるっと震えた。
「やらしい顔しちゃって」
私の胸の先端部をきゅっと透也が摘んだ。
じわりと甘い快感が沸き立つ。
「ああ…あふ…」
「…銜えろ」
透也が私の頭を押さえて彼のそれに顔を近付けさせる。
「…ん…」
透也の大きなそれを口に含んだ。
透也は私の頭に手を置いたまま、腰を揺らした。
口の中を彼のあれが出入りする。
「どう?美味しいか」
「ン…ふ…ん…」
腰を揺らす透也、私は口腔内を犯されている様な気分になって身体が熱くなっ
ていく。
「んー…と…や」
口の中に透也のとろとろの液体が溜まっていく。
ちゅるんっと彼が私の口を解放したとき、彼のものと私の口は透明の糸で繋ぎ
合っていた。
「ふ…あ…」
「寝て」
「…」
彼が言う通りに枕に頭を乗せて寝転んだ。
「脚を大きく開いて、そして僕が入りやすい様に入り口を指で広げて見せろ」
「…」
そっと脚を広げて、私は自分の秘部に手を伸ばし、閉じられているその柔らか
な肉をふたつに割る様に指で押し広げた。透也から見れば私の内部までが丸見
えになっているのだと思えて顔が熱くなった。
「ピンクの内部が良く見える」
透也はそう言ってふっと笑った。
「イイ眺め」
「と…透也、早く…お願い」
透也が私の顔の横に両手をついて、ぴたり、と私の身体への入り口に自分のそ
れを当てた。
透也がそっと腰を落とすと、つぷっと私の中に彼が入ってくる。
先端が入っただけでも私の身体はぶるぶるっと震えた。
心拍数が一気に上がって胸が苦しくなる。
透也はゆっくりと私の中に入って来ていた。
擦れ合う感触をはっきりと判らせる為だろうか?
快楽の始まりの感覚はとても強くて容易に私を呑み込もうとする。
中程まで腰を進めて、退いていく。
中途半端な位置で透也は出し入れを繰り返した。
「も、もっと…」
「もっと、何?」
「奧…まで、欲し…」
透也は、ふっと笑う。
「どうしようかな…君は、初めに僕を拒んだからな」
彼のその言葉で、あ、焦らされているのだ、と気が付いた。
透也が嫌で拒んだのではない事位、彼には判っている筈なのに。
「僕は、この位置までの挿入でもイク事は可能だ。今日は僕だけ達してしまお
うか」
「そ、そんな…」
「仕事から帰ってきたらちゃんと抱いてやるよ」
「そんなの嫌」
「初めに君がそう言ったのだろ?そうやって僕を我慢させようとした罰だ」
そう言って透也は身体を揺すった。
中途半端な位置までの抽送を繰り返す。
彼に身体を押しつけようとすると、透也に腰を掴まれてそれを阻まれる。
「君はそうやってすぐ僕に身体を押しつけようとする」
ふふっと彼は笑った。
「駄目だよ」
透也はそう言うと腰を激しく揺すった。
本当に彼は自分だけ達してしまうのではないかと思えて懇願した。
「ごめんなさい、ごめんなさい、許して…」
「君を満足させる事が出来るのは誰だ?」
斜めに私を見ながら透也が言う。
「透也だけ…」
「だったら、僕を拒むんじゃない」
「ごめんなさい」
ぐぐっと透也が自分を私の奧まで差し込んできた。
「ああっ!ひぁん!」
最奧に求める硬さが当たって、ぶるるっと震えた。
小さな快感がぱちんっと弾けた。
軽くイッてしまった私を透也は見下ろす。
「僕に断りも無しに達しちゃったわけ?」
「ご、ごめんなさい…」
「なんて堪え性がないんだろうね?」
透也は小さく溜息をついてみせた。
「僕が達する事は良しとしないくせに」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「そんなに気持ちが良かったのか」
「気持ち…良かった…でも、もっとして欲しい」
「欲張りだな」
彼の腕が私の身体を抱き締める。
「もっともっと欲しい、透也が欲しい」
手を伸ばし、彼の逞しい身体を抱き締めた。
ふっ、と彼が笑う。
「愛しているか?」
透也の問いに私は頷く。
「愛してる。誰よりも」
眼鏡のレンズ越しに、透也の薄茶の瞳が甘く滲んだ。
彼の指先が私の頬を撫でていく。
「愛しているよ」
透也が言う、たった一言が私の心を満たしていく。
抱き締めた腕を一層彼に絡みつかせた。
深く、浅く、彼が私の中を出し入れさせる。
波立つ快感に私は身体を反らせた。
「ああっ」
透也の硬い一部が私の柔らかな内壁を擦り上げる。
彼が動く度に私の体内が悦びの悲鳴を上げ、与えられる快感に従順に反応した。
「んんっ…あっ…あぁ…はぁっ…」
揺れる透也の身体の動きに合わせて私も動く。
「もっと…もっとだ」
透也の声に私は更に腰を揺らした。
硬い物が出入りしてる。
私の内部の全てを擦り上げている。
互いが擦れ合って生まれる快感に私は声を上げた。
「…ああ…イイ」
甘く息をつきながら透也が言う。
金色の彼の髪が艶やかに揺れていた。
「ん…んんぅっ」
私の身体を横向きにさせて、彼が挿入の角度を変えてくる。
強く擦られる場所が移動して、その新たな快感に私は悲鳴を上げた。
「ココ、気持ち良いか?」
笑う彼には私がどう感じているのかなんて全てお見通しだ。
身体の深い部分で湧いては消えていく快感に、私は震えた。
「透也…透也、気持ち良い…」
言葉にする事で一層感覚が強くなり、身体の芯が熱くなる。
「可愛い声だ…もっと、啼け。僕に聞かせろ」
「あああっ、透也ぁっ」
貫かれる。
私の身体が、大好きな人に。
繋がり合っている場所を、透也が私に触れさせる。
「ほら…僕が出入りしてる…判る?」
手で感じなくても、私は己の身をもって知っている。
透也の大きさや硬さを。
だけど指先で感じる事によって一層快感が強くなるのは何故なのだろう?
「ああっ…ああっ…透也…」
私の…
言いかけてその声が喘ぎ声に変わる。
「何?最後…聞こえなかった。もう一度言え」
命令される自分自身に私は快感で身体を震わせる。
「私の…私の、透也…」
「…そうだ、僕はおまえの物だ。その事だけは未来永劫変わらない」
「んはぅっ…と…や…好き、好きっ…ああんっあああっ」
シーツに埋めかけた顔を起こされる。
「イクのか?イクなら僕に顔を見せろ、隠すな」
「透也、イク…イク…イッちゃうっ」
「いいよ…ほら…僕にイイ顔見せてよ」
「ああっ…あああっ」
最奧の私のイイ場所に透也が触れてくる。
気持ち良すぎて気が遠くなりそうだ。
「はぁ…好きだと、言えよ」
乱れた息の下で透也が私に命じる。
快感も頂点に来ていた。
「ああっ、ああ…好き、好き…愛してる…ああああっ!」
「はぁっ…はぁっ…僕も、好きだぜ…愛してる」
「ああっ透也っ…んっ…んぅっ…はぁ…ああっ」
透也と触れ合っている場所から頭の先に何かが突き抜けていくような感覚が私
を襲い、堪えきれない快感に身体を弾けさせた。
「あああああっ」
快感の全部を知ろうと、私は透也にきつく身体を押しつけた。
彼も私の腰を抱いて自分を私の奥まで差し入れてきた。
最奧が、燃えるように熱い。
「んっ…んっ…」
「…可愛い…」
震える私に向かってそう言い、ふふっと透也が笑った。
「気持ち良かった?」
こつんと額を私の額に当てて来ながら彼が言う。
荒い息の下で私が頷くと、透也は満足そうに笑う。
「んー…透也ぁ…」
甘える様に私が彼の身体に腕を回すと、小さくキスをしてくれた。
「愛してる」
「…うん、うん…凄く、好き」
瞼に滲んだ涙を、透也がそっと拭ってくれる。
まだ体内にある彼の存在に私の身体が震えた。
「はっ…あ、んっ」
「まだ、早いかな?…でも…僕が辛い」
そう言いながら透也が抽送を再開させた。
「あああんっ」
びくびくと震える私の身体を慈しむ様に透也が包んでくれる。
優しい腕と裏腹に、私の内部にある彼は凶暴に私の肉壁を刺激してきた。
「ああっ…透也…そんなに、したら…あああんっ」
「辛い?でも…ちょっとだけ我慢して…」
”辛い”と思う感覚はすぐに快感へと変化する。
透也の硬いそれは大きさを増し、私を翻弄させ、また次への快楽に登り詰めさ
せようとした。
「あああっ」
びくびくと身体が跳ねる。
大きすぎる快感をどう受け止めればいいのか判らずに、私は透也に縋り付く。
「あっ…ああっ、はぁっ…あっ」
「…ああ…みのり…」
唇から漏れ出る彼の艶っぽい声にゾクリとして快感が増す。
「透也…透也…」
「もっと呼んで、僕を呼んで」
「透也、ああっ透也…また…」
「良いよ…僕も、もう…ああっ」
「…あああっ、あぅん…はぁっ…来て、来て…透也、私の中に出してっ…」
「んっ…あっ…みのり…ああ…」
透也の腰の動きが早くなる。
そして小刻みに揺らされて…
「はぁっ…ああああっ、ああっ、いっ…」
「ああっ…ああ…気持ち良い…みのりっ…出すよ…ああっ出るっ」
触れ合う摩擦に想いが焼き付きそうで気が狂いそうになる快楽に私は自分を投
げ出した。
透也もまたそうであるかの様に深く私の身体に身を沈めた。
「っク…」
「ああんっ!」
彼の腕の中で、私は震えた。

汗の滲んだ身体を触れ合わせて、流れる時間を静かに感じた。

「…そろそろ、シャワーを浴びて…仕事に行く準備をしないと駄目なんじゃな
い?」
「…そうだね」
私の頭を撫でてから、透也は横たえていた身体を起こした。
「雑誌に掲載されたから…また、お客さん増えちゃうね」
「…男性向けの雑誌だからね、どうかな…あれは客寄せというよりは、ホスト
募集の意味があるんだけどね」
「え?そうなんだ」
「結構入れ替わりが激しい職だからね。僕と同じぐらいに入店したヤツはもう
みんな辞めていないし」
「ふぅん……そうだね、きつそうな仕事だもんね…」
透也は学生でもあるから、他の人の倍大変だろうなと思った。
それに透也は…病気も抱えてる。
「身体、大丈夫?」
私がそうやって聞くと、透也は微笑んだ。
「君が居てくれれば大丈夫さ」
「そういう問題じゃ…」
「そういう問題なの」
にっこりと透也は笑顔を私に向けた。
「君が居てくれれば、長年抱えてきたこの病気も治るだろうね」
「…その勢いで言っちゃわない?どんな病気なのか」
「嫌だ」
笑顔で彼はそう答える。
「…薬を飲んでいる所でさえも私に見せないよね」
「だって、薬のパッケージの裏側には薬品名が書いてあるじゃない。そんなの
検索されちゃったら僕の病気がなんだか判っちゃうだろ?」
透也はそう言いながら部屋にあるパソコンを指さして言った。
「そんなに私に知られたくないの?」
「知られたくないね。一生隠すつもりだったし」
「隠し通せる自信があったの?」
「五分五分かな…」
息をついた。
「どうしてそんなに言いたくないの?織原さんは知っているんでしょう?」
「…あの人はね、特種な人だから」
透也も息をついて、それから私を見た。
「僕の病気を君が知れば、君の僕を見る目が変わると思うから言えない」
「そんな事ないよ」
「信じない」
少し低いトーンで彼が即座に応えた。
「ごめんね、君だけを信じないという意味ではないんだ。僕には人を信じると
いう感情が欠落している」
「…」
「僕は、何に対しても信じるという事は出来ないんだよ」

そう言う透也の瞳が、ビスクドールに埋め込まれているフェイクの瞳の様に無
表情に鈍く輝いていた。

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