「可愛いリディア、ほら、乗っておいで」 「……乗る?」 座っている彼の上にどうやら乗れと言われているようだった。 「こちら向きに座りなさい」 「ん……あ、はい」 裸の胸を隠しながら、リディアはキースと向き合う形で彼の上に跨った。 「朝は少し眠れたのかな?」 キースの質問に彼女は頷く。 「すみません、お見送りもしないで」 「いや、いいよ。起きられなくしたのは私なのだから」 くくっと彼は楽しげに笑った。 キースの様子に、昨夜の痴態を思い出させられて頬を赤らめる。 快楽の虜になる。 昨晩はそんな経験をさせられた。 「キース様は意地悪です」 「そうかもしれないね」 彼は微笑みながらそう言うと、愛おしげにリディアを見つめた。 胸がときめくような情熱的な視線を受けて、彼女は思わず目をそらしてしまう。 「リディア、顔を見せて」 「恥ずかしいです」 「どうして?」 「……何故、キース様がそんなふうに私を見つめてくるのかが判らないからです」 「それは私がおまえを愛しているからだけど、それでどうして恥ずかしいと思うのか理解に苦しむね」 「だ、だって」 美しい容貌の彼の視線にさらされて、堂々と出来るほどの度胸も器量もなかった。 そして愛していると彼が言えば言うほどに、戸惑いは大きくなっていく。 「おまえは私を少しでも好きだと思ってくれている?」 「はい、とても尊敬しています」 「尊敬? そんなことは聞いていないよ」 「あ、あの……」 「私を、愛してくれるか」 彼の乞うような声に小さな衝撃が走る。 そしてキースが握ってきている左腕が重く感じた。それはキースが腕を掴んでいるからなのか、鎖が戒めの為に重さを教えてきたのかが判らない。 (戒めって……何?) ふいに心に浮かんだ言葉。 左手の鎖は何の為にあるものなのか、リディアは怖くなる。 「わ、私は……あの」 「……疎んじているのか? 伯爵という地位をかさにしておまえを無理に花嫁にしたから」 「そんなことはありません」 「では、嘘でもいいから、愛していると、その言葉を私に与えて」 「あ、あの」 「リディア……言って」 無理強いされている。だけど、強い調子ではなくどこか悲しげな声色にリディアの心が揺らされた。 「…………愛して……ます」 「ありがとう」 キースの腕が彼女を強く抱きしめる。 重なる皮膚の感触にリディアの胸が高まるが、重くなる錆びた鎖に震えるような感情も芽生えた。 (愛しては……駄目なの?) キースの腕の中は居心地がよいと思えるのに、反面そうでない部分もあるように思えた。 理由が判らないから心が揺れ動き、怖くなる。 彼女が彼を抱きしめると、ふっとキースは笑った。 「そうそう……途中だったね」 「……え?」 「嫌だったら、嫌だと言いなさい」 キースの手がリディアの臀部を撫でる。 ただ撫でられただけなのに、全身が快楽にざわめく。 小さく口付けてくる彼に応じようとしても、身体が震えてしまい上手く出来ない。 「怖いのか?」 彼の問いに首を振る。 「……身体がざわざわしてしまって」 「それは嫌悪って意味なのかな」 「違います……」 「では、触れてもいい?」 リディアが頷くと、キースは彼女の胸に触れた。 初めは彼女の胸の膨らみをまるで確認するかのように指で撫でて、そのあとは柔らかさを確かめるようにしてゆっくりと揉み始める。 そうしているあいだも、彼がリディアの反応をうかがうようにして見つめていて、そのことにも彼女は身体を熱くさせられた。