隷属の寵愛 16
「キース……様っ」
「ん? 嫌なのか」
リディアは首を振ってから答えた。
「違います……恥ずかしいので、あまり見ないでください……」
彼女のそんな言葉にキースは笑った。
「おまえを見つめる自由くらい、私に与えてくれてもいいと思うのだけれど?」
「だ、だって……」
「嫌がっているのか、それとも感じてくれているのか、反応をみなければ判らないだろう? もっとおまえが判りやすく応じてくれるのなら別だけど」
「判りやすく……ですか?」
「気持ちいいならいいと、喘いでみせてと言っているよ」
きゅっと乳首をやんわりと摘まれて、リディアは声を漏らす。
「あぁ……ん」
「そう、そんな感じだよ」
「……キース様……やっぱり、意地悪です」
「おまえが、可愛いからいけないのだよ」
楽しげに彼は笑うと、リディアの白い首筋に舌を這わせた。
「あ……っ」
わきあがる快楽に身体が震えた。
もっと欲しいと思うものではあるのに、それと同時に逃げ出したいとも考えてしまう。
貪欲に求めてしまいそうになる自分がちらりと見えてしまうから――。
「んふ、ぅ……」
花芯に、屹立した部分があたって甘えた声が出てしまった。
その部分が先ほど握らされた男性器だというふうに、彼女にもすぐに判って余計に身体が熱くなった。
膨れあがった陰茎を、内部に挿れられれば痛いと前もって説明を受けていても、その部分を挿れて欲しいと思い始める。
昨夜は抱いてくれなかったが、いよいよ抱いて貰えるのかという淡い期待もあって神経が鋭敏になっていく。
「キース様……わ、私」
内腿に力を入れて、彼の男性器を挟み込むような格好をするとキースが笑う。
「どうした? リディア」
「今日は、痛くしてくださるんですか?」
「……それは、挿れろという意味にとらえてもよいのかな」
「抱いていただきたいです」
「どうして?」
キースはヘイゼルグリーンの瞳を甘く瞬かせて彼女に訊いた。
そういった瞳で見つめられるだけでも、体内から滲み出る蜜の量が増えてしまう。
「それが妻としてのつとめですとか言い出すのであれば、私はおまえを抱かないよ?」
「え?」
思いも寄らないようなことを彼が言い出し、リディアは驚きのあまり何度も瞬きをした。
結婚して妻となった以上、コルトハード家の跡取りを産むのが自分の役割だと彼女は考えていた。
子供を作るにはしなければいけない作業があり、それが男女の交わりなのだと乳母のマリベルから教わった。
それなのに、それをしないと言い出すキースの思惑がなんであるのかが彼女にはまったく判らなかった。
ちらっと彼のつけているペンダントに視線を落とす。
鈍い色の銀のコイン。
大事な物だとキースは言った。
滅びた国の硬貨であるとか紋章に見覚えがあるどうこう以前に、それはもしかしたら誰かからの贈り物であるから大事なのではないかと思えてくる。
(キース様には、他に思う方がいらっしゃるのかしら……)
その人とは結婚出来ない理由があり、思いを遂げることが出来ないから、自分と結婚をしたのかと思える。
――だとしても、爵位を継承する子供は必要なのではないだろうか。養子でもとるつもりなのだろうか?
「リディア?」
「あ、あの……キース様、私――お腹が空きました」
「え?」
彼女の顔をのぞき込んでいたキースは、不意を突かれたような表情をする。
この流れでお腹が空いたと言い出されては無理もないと思えた。突拍子のないことを言い出した自覚は彼女にもあった。
けれど、キースが自分を形ばかりでも抱きたくないと思っているなら、続けても仕方がないと考える。
「ごめんなさい……」
「いや、私も配慮が足りなかった。すぐに何か用意させよう」
「ありがとうございます」
リディアはにこりと笑った。