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隷属の寵愛 20



 昨夜の疲れから、リディアはぐっすりと眠ってしまい、次に目が覚めたときは外がすっかり暗くなってしまっていた。
「お目覚めですか? 奥様」
 天蓋の向こう側からクライヴの声がして、幕を捲った。
「ごめんなさい、私、眠りすぎたわね」
「いいえ。何か飲まれますか?」
「あ、はい。じゃあ、お水が欲しいです」
「かしこまりました」
 ベッドからおりると、メイドが近寄ってきて彼女にガウンを羽織らせた。
「クライヴ、キース様は?」
「はい、部屋でお休みになっています」
「そう、良かった」
「必要であれば、お呼びいたしますが」
 彼の言葉に、リディアは慌てて首を振る。
「いいえ、いらないわ」
 グラスが置かれているテーブルまで移動し、ソファに腰掛けた。
「奥様が希望された本は、あちらの棚にいれてあります。足りない物は後日入手いたします」
「ありがとう」
「あと、クマのぬいぐるみも購入して参りました」
 メイドが大きなぬいぐるみを抱えてやってくる。それを見たリディアは口もとを綻ばせた。
「わぁ、可愛いわ」
「お気に召していただけたでしょうか」
「うん、ありがとう、クライヴ」
「いいえ、私はお申し付けの通りにしたまでで、僭越ながらそのお言葉は旦那様にしていただければと思います」
「ええ、勿論キース様にも言うわ」
「失礼いたしました」
 手渡された大きなぬいぐるみをリディアはぎゅっと抱きしめた。
 ふわふわと柔らかく触り心地がよいぬいぐるみに何度も頬ずりをする。そんな彼女の様子を見ながら、クライヴは目を細めていた。
「奥様、夕食はいかがいたしましょう?」
「……う、ん」
「あまりきちんと食事をされていないので、食べられるようでしたら食べていただきたいです」
 夕食を給仕させる手間を考えていたが、クライヴのその言葉に、彼女は頷いた。
「食べようかな……」
「かしこまりました。用意させます」
「キース様は、食事はされたの?」
「旦那様も、夕方に戻られてからすぐにお休みになっているので、夕食は召し上がっていません。お呼びしますか?」
「……でも」
 わざわざ起こすのもどうかと考え悩んでいると、クライヴが提案してくる。
「起きているご様子でしたら、声をかけるというのではいかがですか」
「うん、それじゃあ、お願いしてもいい?」
「かしこまりました」



 彼女は大きなクマのぬいぐるみを再び抱きしめる。
 キースと距離をとりたいとは思うものの、姿が見えないと少しだけ寂しいと思ってしまうのも真実で……。
 揺れる自分の心をどうしたものかと悩んでいた。
 ちらっと本棚に視線を送る。
 彼女が望んだ数冊の本が並んでいて、その中にセブラン王国の書物はなかった。
 内緒だとリディアが言ったのだから、目につきやすい場所に置いたりしないだろう。だとすれば、今日はみつからなかったということになる。
 セブラン王国の知識を増やしたところで、彼との距離が近くなるわけでもないのに、本がないことをほんの少し残念に感じた。

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