隷属の寵愛 21
いっそう強くクマのぬいぐるみを抱きしめたところで、キースが部屋に入ってくる。
「随分、そのクマを気に入ったようだね」
「はい、キース様、ありがとうございました」
「ああ」
彼はヘイゼルグリーンの瞳を煌めかせて微笑んだ。
「あと、本も――」
ソファに腰を下ろすなり、キースはまだ話している最中のリディアの身体を引き寄せ抱きしめる。
「キース様?」
「ぬいぐるみばかり可愛がらずに、私のことも抱きしめて欲しい」
心臓が大きな音を立ててしまう。
どうして彼は、恋しくて堪らない相手に語りかけるようにして自分に話しかけるのだろうか。
手を伸ばし彼の身体に腕を回すと、キースを抱きしめた。
ふわふわとしたクマの身体の感触よりも、やはりキースの身体のほうがよかった。
あたたかい彼の身体、ふわりと香る匂い。
そういったものにリディアは酔わされた。
「好きだよ、リディア」
甘い声音の囁きに眩暈がする。
口付けが欲しくて無意識に顔をあげれば、彼は願いをかなえてくれる。
軽く触れあうだけの口付けであっても、そうしてくれたのがキースだと考えてしまうと心が切なさで痛んだ。
これでは、わざわざクライヴにクマのぬいぐるみや本を買ってきてもらったことが無駄になってしまう。
身体をさげようとしたが、思いも寄らないような強い力で抱きしめられ、彼の腕から逃れることが出来なかった。
「駄目だよ、リディア。逃がさない」
「逃げたりはしません」
「じゃあ、私に口付けて。もっとおまえを感じさせて欲しい」
ああ、また……と彼女は思う。
彼の言葉にいち早く反応するのは心よりも身体だった。
じわりと熱くなり、疼き始める内部。こうなってくると優しくされたいが激しくもされたいと思い始めてしまうから厄介だと感じた。
キースの唇に、そっと自分の唇を触れさせる。
たくさん欲しい。
彼が、欲しい。
何故、そんなふうに思ってしまうのか判らないままに欲求だけが大きく膨らんだ。
「愛しているよ」
唇が離れた瞬間に囁かれる言葉。
手放しに嬉しいとも思えなかったから、複雑な感情がわいてしまう。
リディアの視線がキースの胸元でとまった。
鈍い輝きを放つ銀貨。彼があれをつけている以上、自分はキースの存在を求めてはいけないと感じていた。
「……リディア、私を好きだと言って」
彼女の手の甲に口付け、指先にも口付ける。
キースは何故、そんなにも言わせたがるのだろう。使用人たちの手前、夫婦らしくしなければいけないからなのだろうか?
「好きです……キース様」
たくさんの人が働いているコルトハード家。
その数はバンフィールド家とは比べものにもならない。だからこそ、守らなければならないものもあるのだろう。
けれど、今の自分は守る側でもなければ守られる側でもなく、心の中が不安定にゆらゆらと揺れていた。
色々考えてしまうと食がすすまず、給仕をしていたクライヴが彼女の様子を気にかけていた。