「奥様、くちに合いませんでしたか?」 「ううん、美味しいです……けど、もういいわ。ごめんねクライヴ」 「いいえ」 クライヴがキースに視線をおくると、キースは頷いた。 「いいよ、もう下げなさい」 「かしこまりました」 テーブルにのせられていた料理はメイドたちが手際よく下げていく。 「ごめんなさい、キース様……起こしてしまったのに、あまり食べられなくて」 「いや、起きていたから気にすることはない。それより、おまえの体調はどうなんだ?」 「少し食欲がないだけで、体調が悪いわけではないです」 「そう、それならいいのだけれど、おまえは度々胸を押さえる仕種をするから痛みでもあるのかと心配はしているよ」 「胸?」 そう度々押さえている自覚がなかったが、そうだったのだろうかと思った。だから、少し胸を押さえただけでメイドや執事のクライヴが気にかけたのだろうか。 「すみません、大丈夫です。そういった持病もありませんが、キース様が心配されるのであれば、お医者様にみていただこうかとは思います」 「心配はしているよ、けれどおまえが考えているようなものとはニュアンスが違う」 「どういうことでしょうか?」 彼女の問いかけにキースは微笑んだ。 「おまえは何故私が心配していると思っている?」 「伯爵家の妻が病気を抱えているとなると、いろいろ不都合があるからだと」 「全く違うよ」 彼は椅子から立ち上がり、リディアの傍に歩み寄ると彼女を抱き上げた。 「横になろうね。リディア」 違うと言ったのに正解を与えてくれない彼は、少し機嫌が悪いようにもみえて、リディアは困ってしまう。 ベッドの上で横になっても、彼は答えをくれなかった。 「あ、あの……キース様、私は何か間違えたのでしょうか」 「間違えではない。貴族の娘であるならそういった考えをもってもおかしくはないけれど、ただ寂しいだけだ」 「寂しい?」 何故彼が寂しく感じてしまうのか理解出来ずにいると、キースが口付けてきた。 「私はおまえを愛しているから、心配するんだよ」 「……嘘です」 思わず言ってしまった言葉に、キースは苦笑いをする。 「おまえが私を愛していないからといって、それが私も同じであると思わないで欲しいな」 「じゃあ、どうして抱いてくれないのですか?」 リディアの言葉に、彼は首を傾げた。 「抱かないから、愛していないと思うの?」 「そういうことではないのですか? 私がキース様の子を産むのに相応しくないと思っていらっしゃるから挿れてくれないのですよね」 「今の言葉に、色々言いたいことがあるんだけど……おまえは私の子を産みたいと思っているの」 「もちろんです」 「それは、どうして?」 「……それが伯爵夫人として……というより女性の役割だからです」 「では、私は男性であるから、おまえを抱くのもまた役割だという理屈になってくるけれど、だとすれば矛盾してはいないか?」 「何がでしょうか?」 「私がおまえを愛していないから抱かないという話だよ」 どういうことなのだろうかとリディアが彼を見上げる。 いったい何が矛盾していると言っているのか。 キースは長い睫に縁取られたヘイゼルグリーンの瞳を細め、彼女を見つめ返した。