だけど、やはり『何故?』と思う気持ちに拍車がかかる。 「リディア、具合はどう?」 ふいに天蓋の幕の向こう側から声がした。 優しい声の主が誰かはすぐに判り、リディアは身体を起こした。 「だ、大丈夫です」 天蓋の幕がゆらりと揺れて、キースが姿を見せた。 やはり、彼の周りには光が見える。 彼自身の美しさ以外にも、ただの錯覚とは言い難い光に覆われているような感じがした。 「突然、いろんなことを動かしてしまったから疲れてしまったよね。すまないと思っている」 キースの言葉は"結婚"をさしているのだろうか。 「たしかに驚きはしましたが……」 リディアがそう返事をすると、彼はふっと笑う。 「許してはくれないのかな?」 「い、いいえ、そんな」 「急いでしまった自覚はあるから、責めの言葉は聞いてあげる。だけど……」 キースはリディアの手を取り、そっと甲に口付けた。 「逃がしはしない」 明らかに拘束するような言葉に、リディアは思わず身体が震えた。 恐ろしくはない、だけど何故彼がそんなふうに自分に執着するのかが判らない。 「……逃げないです」 結婚した以上、夫のもとから逃げるという選択肢は彼女にはない。簡単に結婚したようにみえても離婚となればそうはいかない。ましてや伯爵家に嫁いだ以上男爵家の娘であるリディアが逃げ出すということは許されない。 それくらい彼女にも判っている。 キースは苦く笑った。 「ごめん、判っていてやっている」 それは、結婚のことだろうか。 プラチナリングがきらりと光を反射させた。 彼のもともとの性格なのかどうか判らなかったが、真実をオブラートでくるんだような物言いに、リディアはどうしていいのか悩んでしまう。 そっと顔を上げてみれば、キースが着ている白い立襟の礼服が目にはいった。 挙式の後の披露宴で、花嫁が早々に中座したことが彼の名誉に傷をつけていないかと今更ながらに気になる。 「……あの、ごめんなさい。ひとりにしてしまって」 彼女の言葉に、キースは驚いたようにヘイゼルグリーンの瞳を瞬かせた。そして、難しい表情をしてリディアを見つめてくる。 「それは、どういう意味なのかな」 「え、あ……披露宴を中座して、その……あなたに恥をかかせてしまったのではないかと思いました」 キースは、ふっと溜息を漏らしてから微笑んだ。 「生涯共に過ごすと誓ったのに、最初から無理をさせるわけにはいかないし、おまえを中座させることを望んだのは私のほうだ。気にすることはない」 「……はい、ありがとうございます」 彼の先ほどの難しい表情の意味は判らなかったが、微笑んで許してくれたことでリディアは安堵した。 「軽く食事でもするか? 何も食べていないだろう」 「はい、でも……」 食欲がないわけではなかったが、わざわざ用意をさせるのもどうかと彼女が考え込んでいると、キースは微笑んだ。 「ここはもうおまえの家なのだから、遠慮をすることはない。閉じ込めておきたいとは考えても、息苦しくさせたいわけではない」
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