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隷属の寵愛 4

 閉じ込めて――?
 その言葉にわずかな引っかかりを覚えたが、柔らかく微笑んでいるキースを見て他意はないのだろうと考え直した。
「じゃあ、あの……たくさんは食べられませんが」
「ハムサンドでもいい?」
「はい」
 キースはその場から動くことも誰かに何かを告げるわけでもなかったが、天蓋の幕の向こう側では人が動いている気配が感じ取れた。
 今の会話を聞いていたのだろうか、とリディアは考える。
「……リディア」
「は、はい」
 彼の手が伸びてきて、彼女の胸元で緩やかにカールしている金色の髪を一房すくう。
 長い指に髪を絡め、そこに唇を滑らせる様子は彼女をどきりとさせた。
「キスをしてもいいかな」
 どこに、とは聞けなかった。
 無言で頷くと、ベッドに腰を下ろしていた彼がリディアの身体にその逞しい身体を寄せてくる。
 思えば、礼拝堂で受けた誓いの口付けがリディアにとっての初めての口付けだった。
 緊張のあまりそのことを失念していたが、今度は別の緊張が生まれてまざまざと意識させられる。
 キースの唇はやや薄めではあるもののどこか官能的だった。
 彼は王子ではなかったけれど、彼からの口付けで何かが目覚めさせられるような感覚に陥る。これは誰もが皆、唇同士を重ね合わせることで芽生える感覚なのだろうかとリディアは考えていた。
 心の奥で火が灯る。
 温かいキースの唇は心地よく、感触の柔らかさに酔いしれる。
 自分が今、そう感じるように彼も感じてくれているのだろうかとぼんやりと考えれば、感覚の共有に高揚感が生まれた。
「リディア、愛しているよ」
「……どうして?」
 疑問をそのままくちにしたが、途端にキースは困ったような表情をみせる。
 返事が出来ないのは、形ばかりの愛情表現だからなのかと疑ってしまう。
「……一目惚れだよ」
 付け足されたキースの言葉に、リディアは首を傾げる。
 彼のように美しくもなければ、ふたりの姉のように女性としての魅力に満ち溢れているわけでもない自分に一目惚れ?
 そんなことがあるわけがないと、疑わしげなまなざしでキースを見つめていると彼は苦笑いをする。
「私を信じてくれないんだ?」
「伯爵様が一目惚れをしてしまうほどの魅力が私にあるとは思えません」
「何を言う、私はあの日から、おまえの虜だというのに。それから、キースと呼びなさい」
「……でも」
「私はおまえの夫だよ?」
 短い口付けを彼女に与えてから、彼は微笑んだ。
 目の前にいる目映いほどの美しさを持つ男性が夫。
 夢の中の出来事であれば、手放しに喜ぶことも出来るがそうではない。
 現実に起きていることだから、覚めない代わりに、何か大きな落とし穴でもありそうな感じがしてリディアは怯えた。
 いっそ立場が逆で、生活に困窮している伯爵家が、お金持ちの男爵家の娘と結婚する。という筋書きがあるのであれば悲しいけれども納得が出来る。けれども、コルトハード家がお金に困っている事実はない。
 むしろ生活が苦しいのはバンフィールド家のほうだった。
 今回の結婚で、コルトハード伯爵から支度金名目で多額の金銭がバンフィールド男爵に渡されたと、乳母のマリベルが話していた。
 だから『粗相のないように』ときつく言われているのだった。

 

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