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隷属の寵愛 35

「寧ろ、疑いたいのは私のほうなんだけどね……おまえ、何か隠し事をしていないか?」
 隠し事と言われ、即座にセブラン王国の本を思い浮かべたリディアが「クライヴがキース様に話したの?」と訊くと、キースは眉根を寄せた。
「クライヴ。彼は確かによくできた執事だ、おまえが心を許すのも判らなくもない」
 心を許すも何も一日の大半を共に過ごしているのが彼であるというだけの話だった。
「だって……話が出来るのがクライヴだけだから……」
「クライヴだけ? そんなことはない。おまえは夫が傍にいても話をしようとしてくれないうえに、逆に遠ざけておきながら、クライヴしかって言うのはどうなんだろうね」
 ゆっくりとキースに腰を動かされれば、忘れかけていた愉悦が再びわきあがる。 
「あ……っ、ん……」
「クライヴに何か入れ知恵でもされたか、そろそろ旦那様のベッドに行ってくださいとでも言われたか? ふたりの関係がばれたら困るからって」
 突然何を言うのかと驚いて彼を見上げると、キースが苦々しく笑う。
「おまえたちは随分仲がいいみたいだからね」
「そんなことはありません」
「ふたりで庭を歩いて、楽しそうだったじゃないか」
「見ていたんですか? でも……付き添うのは、執事としての役割ですよね?」
 激しい抜き差しはないものの、内部をかき混ぜるような動きにリディアは身体を震わせた。
「っあ、そ、れに、今日、私がここに来たのも……ン、自分の、意思です」
「ふぅん、そうなのか」
 キースは彼女の脚を肩に担ぎ上げると、深い場所をこじ開けるようにして奥まで入り込んでくる。
「……っ、あああっ」
 一度達している内部は、最奥に刺激を与えられることに弱くなっていて、今まで以上に強く感じる快感に悲鳴のような声が出てしまう。
「や、ぁ……そんなに……突いたら、壊れちゃ……」
 身体が、というよりは快楽によって精神が崩壊してしまうのではないかと思えた。
「じゃあ、隠し事って何?」
「や……聞かない、で」
「いいや、私には知る権利がある。クライヴが関係しているのなら、彼を吊し上げて聞き出しても構わないと思っているよ。どうする? リディア」
 突き上げる動作はやめない彼だったから、甘い感覚が下腹部に溜まっていき溢れそうになっていく。
「あ……あぁ、あ……キース様っ」
「ほら……早く言いなさい。それともおまえは無理強いさせられるほうが好きなのかな」
「そ……んなの、好きじゃ……ない」
 潤んだ瞳で、キースの胸にさげられている銀貨を見た。
「ん? これがどうかしたか」
 視線に気が付いた彼は、銀貨を指で摘んでリディアによく見えるよう掲げた。
 彼のことをもっと知りたかったから、セブラン王国の本をクライヴにプレゼントして貰ったと、口にするのは恥ずかしかった。けれども、このまま黙っていてもキースの気が済むとは到底思えず、リディアはゆっくりと重い口を開いた。
「その銀貨は、セブラン王国のものだとクライヴから聞きました……っ、う」
 ぐぐっとリディアの最奥まで男性器を入り込ませて、キースは身体の動きを止めた。奥深い場所で混じり合っている感覚の甘さに意識が朦朧としてしまう。
「だ……だから、私は……セブラン王国のことを知りたいと思い……セブラン王国に関わる本をクライヴにお願いを……しました」
「……報告を受けてないね」
「言わないで、と、私がクライヴにお願いしました」
「どうして?」
 おそるおそる顔を上げてキースを見ると、彼は怒ってはいない様子だった。そのことに安堵し、隠していた内容を話した。
「あなたのことを調べている事実を、知られたくなかったんです……だから、クライヴは結婚のお祝いにと、セブラン王国の本をプレゼントしてくれました」
「そんなふうにしなくても、おまえが気になるのならモデリア島の本なんて山ほどあったのに」
「でも、知られたくなかったんです」
「隠し事はよくないな、リディア」
「ごめんなさい……」
「まぁ、いいよ。だったら、おまえが外して」
「え?」
 彼は頭を下げる格好をとり、リディアにペンダントを取れと命じていた。
「だ、だって、大事な物なんですよね?」
「大事だと言ったから、おまえは曲解したんじゃないのかな」
 笑いながらも、彼は頭を下げたままだった。
「この銀貨がレプリカだという話は聞いているか?」
「はい、それも……聞いています。土産の品で、キース様ご自身が買われたものだとも」
「だから、外しても構わない」
 リディアは息をのんでから、彼の首に手を回しペンダントの留め具を外した。
 しゃらりと細い鎖が音を立て、銀貨が揺れる。
「本当に外してもよかったんですか?」
「所詮レプリカだから、本物にはかなわない」
 そう言ってキースはペンダントを受け取ると、女王の肖像が刻印されている面を彼女に向けた。
「本物の銀貨が手に入ったという意味ですか?」
 彼の手からすり抜けるようにしてペンダントが落ち、銀貨は床に転がっていった。


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