「リディア?」 俯いてしまった彼女をキースはのぞき込む。 優しい色のヘイゼルグリーンの瞳と視線が絡めば、鼓動が早まる。 「……キース様、その……ありがとうございます」 「何が?」 「私を、花嫁にしてくださって……」 金銭をバンフィールド家に渡してくれた礼を言いたかったが、さすがにそのことをそのまま言うのはどうかと思えた。 「本当に嬉しいと思っている?」 心の中を透かし見るような瞳でキースに見つめられて、リディアは居心地の悪さを覚えた。 「ありがたいと思っています」 「私は嬉しいのかどうかと聞いているよ? リディア」 「……嬉しいです」 「本当に?」 「本当です」 「ふぅん?」 一瞬、彼の瞳が意地悪く輝いたように見えた。 そんなヘイゼルグリーンの瞳にぞくりとさせられ、結婚の目的はいったいなんだろうかと身構える気持ちが生まれた。 「旦那様、準備が出来ました」 天蓋の幕の向こう側から執事の声がした。 「ああ、判った」 キースは返事をすると、リディアにガウンを羽織らせると何の前置きもなく抱きかかえた。 「や、キース……さまっ」 驚いたリディアが彼の首にしがみつくようにして腕を回すと、キースは彼女の耳元でそっと囁いた。 「愛しているよ、リディア」 ――彼が自分を愛していないと判っていても、心奪われるくらいに美しい容姿を持つキースに愛の言葉を囁かれてしまうと、白磁のような肌が耳まで赤らんでしまう。 もしも、彼が愛してくれるのなら、自分は嬉しいと思ってしまうのかもしれない。 おとぎ話に出てくる王子様のように美しいキース。 彼の頭に王冠は乗っていなかったが、白く輝く光が見えていて、その光はリディアを抱き上げた瞬間、更に輝きを増したように思えた。 (気のせい?) リディアを金糸の豪奢な刺繍が刺されているソファに座らせると、輝きがややダウンする。目の錯覚なのだろうかと考えてみても答えは出ない。 「ちゃんと食べるんだよ」 キースはそう言ってどこかへ行こうとした。 「どこに行くの?」 思わず縋るような声で言ってしまうと、彼はにこりと笑った。 「バスルーム。汗を流したいんだよ……そんな顔をしなくても、すぐに戻ってくるから待っていなさい」 小さな子供に言うように告げられ、赤らんでいた顔が余計に赤く染まった。 そうでなくても年の差があるのに、子供っぽいことを言うと呆れられただろうか。リディアの心配をよそに、キースは気にする様子を見せずにバスルームがある奥の部屋へと消えていった。 軽食とはいえ、コルトハード家のそれは豪華だった。 一人分とは思えないくらい様々な料理が並べられている。 サンドイッチの他にスコーンや、生クリームたっぷりのケーキやタルトレット。飾り物かと思うほどのフルーツがたくさん乗った大皿や、薄く切り分けられたローストビーフや様々な種類のハムを見ると『ちゃんと食べるように』とは言われたものの、どこからどう手をつけて良いのか判らなくなってしまい、とりあえず一番近い場所にあるスープに視線を落とすと、給仕をした黒髪の執事が「アボカドの冷製ポタージュになります」と説明をする。 説明を受けた以上は手をつけないわけにもいかないと思い、リディアは綺麗に磨かれた銀のスプーンを手に取り、ポタージュに口をつけた。 バンフィールド家では食べたことのないものだったが、とても美味しかった。 口許を白いナプキンで拭い、一口大に切り分けられているサンドイッチに視線を移すと、執事は小皿に数個取り分けて彼女の前に置いた。 執事は終始そんな様子で、リディアが視線を動かすたびに料理を取り分け、彼女の前に置いた。
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