自分が縛り付けられるという感覚は不思議と起きなかったものの、永遠という言葉を彼に言ってはいけないのではないかと思わされる。 彼の胸元で鈍い光を放つ小さなコインに目がいった。 先ほどは感じなかったのに、何故か今はその小さなコインが重たそうに見えてしまった。 「これが気になるのか?」 細い鎖を指で引っかけ、彼女にそのコインがよく見えるようにしながらキースが言う。 「……重くないのかなって、思いました」 「重くはないよ」 「いつも、身につけているんですか?」 「ああ。とても大事な物だからね」 「そうですか。それはどこかの国の硬貨なんですか?」 「今はもう滅びてしまって、ない国の硬貨だよ」 それがどうして大事なのだろうかとリディアは思え、そしてそこに描かれている紋章に見覚えがあると感じてしまうのは何故なのだろう。 「コルトハード伯爵家に何か縁のある国だったんでしょうか……」 「いいや、まったく」 では、キース個人と縁のある国だったのだろうかと思ったが、突然喉が詰まったようになってそのことは聞けなかった。 聞けばキースは答えてくれるだろう。 ――だけど。 「お腹はいっぱいになったのかな?」 「は、い」 「そうか」 リディアは息を吐く。 何故、どうして? 大事な物って、どんなふうに大事な物? 彼に対しての疑問が心の中で次々とわき上がる。けれど、それをいちいち聞いてしまうのも子供じみているような感じがして聞けない。 彼からすれば自分は子供ではあるけれど、だからこそ余計に子供っぽいまねは出来ないと、リディアは考えていた。 ****** 食事が済み、リディアは再びベッドの上に戻された。 『一緒に眠って欲しいか?』 などと子供扱いするような口調で言われ、思わず『一人で寝られます』と返事をしてしまい、今、彼女は大きなベッドで一人きりだった。 ――結婚が決まってから、乳母のマリベルから様々なことを詰め込まれた。 とくに、男女のこと。どうすれば子供が出来るのかといった内容の話を重点的に学ぶことになった。 『初夜では、どんなにおつらくても耐えてくださいませ』とマリベルは言ったが、今日がその初夜ではないのかと彼女は思う。 リディアは寝返りをうち、溜息を漏らした。 もしかしたら、『一緒に眠って欲しい』と、答えなければいけなかったのだろうか。それともキースは自分に触れたくないのだろうか。何か怒っているのだろうか。と考えて不安になる。 到底眠れそうにはなく、ベッドから起き上がった。 落ち着かないうえに、何か急かされているような感じもして焦燥感にかられる。 落ち着かない気持ちは判るが、いったい何に急かされているのだろう? ちらっと、おろされている天蓋の幕を見る。バンフィールド家のベッドにも天蓋はあったが幕がおろされることはなく、そして布自体もこんなに厚手ではなく透けるほど薄い布だった。 キースは自分を隠したいのだろうか。いや、それとも見たくないから厚手の布で覆っているのだろうかと、良くない方向へ思考回路が動いてしまう。 「リディア。起きているのか」 幕の向こう側から、キースの涼しい声が聞こえると急激に急かされる感情が強まり、そして何故だか『もう時間がない』という気持ちにさせられる。 「キース、さま」 彼がいるのはたかが布一枚で仕切られた向こう側だったが、何故かとてつもなく距離を遠く感じて息苦しさを覚えた。
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