セックスをした直後なのだから、何を恥ずかしがる必要があるのだと言われそうではあったが、全裸にさせられてボディソープで彼に身体を洗われている現状を桃花は恥ずかしいと感じていた。 「桃花の身体って、本当に綺麗だよね」 などと宮間が言うものだから余計だった。 「……綺麗なのは、宮間さんのほうだと思います」 「ああ、顔が好きだって言っていたね」 「……顔というか……それだけではなくて……」 「え? 何?」 彼は面白いものを見るようにして彼女を見ている。 桃花はちらりと宮間を見上げて眼鏡をかけていない状態のその美貌を前に小さく息を吐いた。吉永が何のためらいもなしに彼をイケメンだと称したように、誰が見ても宮間の整った顔立ちは美しく、自分がわざわざ言うまでもなく言われ慣れていることであると思えるのに彼は言わせたがっているように見える。 そのうえ、美しいのは顔だけではなくその体付きも美しいもののように思えた。くっきりとしたラインを見せている鎖骨や、痩身でありながら筋肉がついて盛り上がっている胸部。僅かに割れた腹筋や引き締まった腰、長身であるからということだけが理由にならないぐらいの長い足。 服を脱がなくても美しいと思えたのに、彼の裸体の美しさは激しく感情を揺さぶるぐらいのそれだった。 揺さぶられる感情。 美しい花に引き寄せられる昆虫は、こんな気分なのだろうか。本能のままに引き寄せられて。 だけど、自分には視覚があるから彼を見たくなる。 嗅覚があるから彼の肌から香り立つ匂いを嗅ぎたくなる。 味覚があるからその肌を舐めて舌で味を知りたくなる。 触覚があるから手を伸ばして柔らかな皮膚に触れたくなり、聴覚があるから彼が漏らす甘い声を聞きたいと思ってしまう。 「桃って俺のことを舐めるようにして見るよね」 笑い声がバスルームに響き彼女は、はっとして顔を上げた。 「あ、ごめんなさい」 「いいんだけどね。悪い気はしないから」 赤くなって俯くと、彼は桃花の手を引き寄せて自分の身体に触れさせた。 「好きなだけ触っていいよ、そうしたいんだろう?」 「でも……我慢、出来なくなります」 「何を?」 見つめてくる彼の瞳の鋭さに、下腹部がきゅっと締まるような感じがした。 何故こんなにも欲しいと思ってしまうのだろうか。誰もがこんなふうに溺れていくのだろうか? だけどセックスだけがしたいわけではない。快楽だけが欲しいわけではなく彼の身体が自分の中に欲しかった。 宮間が薄く笑った。 「好きなことしていいよ」 彼は容易に引き金をひく。 止められなくなることが判っていて、そう言っているのは明確だった。 「宮間さ……ん」 「……俺の準備は、もう出来てるから」 桃花の手を取り己の屹立した欲望の象徴に触れさせる。彼と繋がることが出来る部分だと意識すると彼女の身体が切なさでいっぱいになった。 「桃花は?」 宮間の指が彼女の秘裂に触れ、ぬるりと滑らせた。 「ふ……何もしてないのに、もう、こんなふうになってるんだ?」 「……だって、欲し……い」 「男が?」 彼の言葉に桃花は首を振った。 「……宮間さんが」 「ん、可愛いね。欲しいなら、あげるよ」 彼が言っていることはこの一瞬の行為に及ぶ為の一部分をさしているに過ぎないのに、あげると言われたその言葉に彼女の心が過剰に反応した。全てが自分のものになるわけでも、その時間が永遠になるわけでもないのに涙が溢れて止まらなくなった。 「宮間、さん……」 「……乗っておいで」 「は、はい……すみません、さっきしたばかりなのに」 「何で謝罪? 俺は何度だって君としたいよ」 感情が振り切れそうになる。 求められたいと思う気持ちが満たされそうになると、激しく乱れていく心。宮間に求められたい。だけど今はそれ以上に自分が彼を求めていて、誘われるがままに宮間の身体に跨って身体を繋げた。 欲しい感覚が身体の中に戻ってきて、桃花は身体を震わせる。 「う……ぅ、宮間さん……」 「……温かいね」 彼の指が桃花の濡れた頬を滑る。 甘く輝く黒曜石のような瞳が彼女をじっと見つめていた。 「桃花、好きだよ」 「…………す、きです」 彼の言葉に心が濡れる。 満たされ、潤うように濡れていく。 嬉しいと思うのに同時に切なさで痛みも感じ、その痛みで身体が悲鳴をあげているようだった。 震える彼女の身体を宮間が抱き締める。 「君は可愛いね」 「……」 「誰にも、君を渡さないから」 耳元でぽつりと囁かれた宮間の言葉を桃花は黙って聞いた。 例えば、宮間にもういらないと言われたら自分は彼を諦められるのだろうかと逆にそんなことを考えていた。 この時間はいつまで続くものなのだろうかと考えてしまいずっとこんなふうに抱き合っていられればいいのにと願わずにはいられなかった。
>>>>>>cm:
ドSな彼とツンデレ彼女の恋物語 |
rit.〜りたるだんど2〜零司視点の物語 |
ドSな上司×わんこOL |