****** 翌朝。 ふたりは出勤前にカフェで朝食をとっていた。 桃花がカフェオレを飲んでいると、宮間が口を開く。 「今週の土曜日は何か予定が入っているの?」 「土曜日は何も予定はないです」 「ん、じゃあ、デートしようか」 「はい」 桃花が顔を綻ばせると宮間は小さく笑ってから言葉を続けた。 「……先に言っておくけど、日曜日は都合が悪いんだ」 「あ、私も日曜日は予定があります」 そう彼女が言うと、宮間は瞳を光らせた。 「え、何? どんな予定?」 「あの、大学時代の友人と逢うんです」 「友人って、男? 女?」 「女の子です、えっと……ライブに誘われてて……」 「ライブ?」 「友人の友人が出演するライブを見に行くんです」 桃花の言葉に、宮間が僅かに眉を吊り上げる。 「友人の友人って男?」 「あ、はい。バンドのボーカルをやっているそうで」 宮間は腕を組み、僅かに首を傾けた。 「ライブは何時に終わるの?」 「九時ぐらいだと思います……けど」 「九時……ね」 彼は少しだけ考えるような様子を見せてから再び口を開く。 「ライブハウスまで迎えに行くから、後で場所を教えて」 「え? で、でも、宮間さんも日曜日は用事があるんですよね?」 「毎週日曜日は、親戚が経営してる店の手伝いをしているんだけど九時ぐらいだったらなんとかする」 「宮間さんって日曜日も働いているんですか?」 「ライブハウスの場所を教えてねって言ってるの」 「あ、はい。後で連絡……」 そう言いかけて、桃花は彼の連絡先を知らないことに気がつく。 「うん、番号とメアド教えておくよ」 スマートフォンを取り出してお互いの番号を交換し合った後、宮間は桃花を見て微笑む。 「ライブ後の打ち上げに参加するとかいう話は出ているの?」 「打ち上げ? いいえ、そんな話は聞いてないです」 「そういう話が出てきても、断ってね」 「あ、はい」 「うん」 彼はにこりと笑い、コーヒーを飲んだ。 「…………で、あの……」 「ん?」 「話を戻してすみません、宮間さんは日曜日も働いているんですか?」 「ああ、ごめん、その話は途中だったね。うん、そう、働いているっていうかちょっと手伝ってるだけ」 「なんか、大変なんですね……平日は会社で働いて日曜日も……って」 「いや、別に。小さなライブカフェでピアノ弾いてるだけだから」 「宮間さんってピアノが弾けるんですか?」 「うん」 「うわー、凄いんですね」 「凄いと言われるほどは弾けないけど」 「宮間さんのピアノ、聴いてみたいです」 「ああ、そう? 家にピアノあるから、また来たときにでも弾いてあげるよ」 「はい、是非」 桃花が微笑むと、彼もにっこりと微笑んだ。 また。と宮間が言った。 彼の家に行く次の機会もあるのかと思われて、桃花は嬉しかった。 「どういう、にこにこ顔?」 宮間はひとしきり桃花の様子を眺めてから声をかけてくる。 「あ、あの……また、家に呼んでもらえるのかなって……思えたので」 「ああ、そんなことが嬉しいの? だったらあそこに住めば?」 「う……えぇ??」 「あの家が気に入ったんでしょう? 何、変な声出して」 くくっと彼は笑った。 「家が気に入ったから嬉しいんじゃないですよっ、宮間さん」 「じゃあ何で?」 眼鏡の奥の瞳が、煌めく。 判っていて聞いてくるのか、そうでないのかが判断出来ないような彼の表情だった。 「……宮間さんが普段生活している空間に、またお邪魔出来るのが嬉しいというか……ええっとそんな感じなのですよ」 「ふーん?」 つい先ほどまでにこやかに微笑んでいたのに、宮間は途端に興味が失せたような表情をしてコーヒーに口をつけていた。 (……迷惑、だった?) 自分の感情は彼にとって迷惑だったのだろうかと感じてしまう。 それとも、彼が期待する受け答えが出来ず失望させたのだろうかとも考えてしまった。 身体を繋げている間は払拭されていた不安がまた浮き彫りになってくる。 好きだと思う感情に対してためらう気持ちも浮かんでくる。自分が彼を好きでいてもいいのかどうかと悩む気持ち。それは宮間に許されたものであっても許されたのは昨日の話であって今日ではない。人の感情がどんなふうに移ろうものなのかが判らないから不安になった。 身体ほど心は明確にひとつにならないから掴みどころがなくて、桃花の感情がいつまでも揺らされていた。
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