「すみません、宮間さんがしたくないと思っていることをさせてしまって」 「何の話?」 「その……手を繋ぐことです」 「ああ、したくないっていうか……俺から誘っているわけなんだし、桃花が気にする必要はないよ」 「でも、私だけが嬉しいみたいで申し訳ないです」 そう言って桃花が笑うと、彼はじっと彼女を見下ろした。 「嬉しい?」 「あ、は、はい」 「君が嬉しいって言葉にして言うのは初めてだね」 宮間が、ふっと笑う。 「そうでしたか? 私は宮間さんの傍にいるときはいつでも嬉しいって思ってますよ」 「……そうか、どちらかというと困った顔をさせることが多いから……どうなんだろうとは思っていた」 「え?」 彼の言葉に、自分が思い悩むように宮間もまた悩んだりするのだろうかと桃花は思った。 好きなのに相手の思いが見えず計れず、好きでいていいのかと根本的なことを考えたりするのだろうか? 「嬉しいって思う気持ちが全部じゃなくて、別のことで心が揺れたりする時だってありますけど……私は宮間さんの傍にいられて幸せですよ」 「あー……うん」 桃花を見つめていた宮間の瞳が、眼鏡の奥で輝きを失い無表情になっていく。それを見た彼女は言ってはいけないことだったのかと思わされた。 「ごめんなさい、調子に乗って色々言い過ぎました」 「ん? 言い過ぎってことはないと思うけど?」 「でも」 「桃花がそんなふうに思ってくれるのは嬉しいよ」 嬉しいと言いながらも彼は無表情のままだった。 「……だけど、迷惑なのかなって思ってしまいます」 「どうして迷惑って思うの?」 「宮間さんが、その、興味を無くしたような表情をするから……」 「……俺はそんな顔をしている?」 「あ、はい」 「興味ないなんてことはないよ、桃花に対して」 「だけど、私は宮間さんを振り回したりすることが出来ないから面白くないと思われているんだろうなとも感じてます」 彼女の言葉に彼は笑った。 「振り回してないと思っているの?」 「はい、思っています」 「十分、振り回されているけど」 くくっと宮間は笑った。 「えっ?」 「だから、俺は君のことばかり考えさせられてしまうし……嬉しいとか幸せだとか言われれば余計に」 彼は少しだけ眉根を寄せる。どんな表情をしても宮間は綺麗だったが伏せた瞳が哀しげに揺れていてに胸を突かれるような思いがした。 「ごめんなさい、私、余計なことを言ってますよね」 「余計なことじゃないよ」 「でも、宮間さん今は哀しそうな表情をしてます」 「哀しいわけじゃない」 「だけど……」 宮間は、ふっと息を吐いてから微笑んだ。 「君が向けてくれる温かい感情に、泣いてしまいそうになっているだけだ」 「……宮間さん?」 「大の大人が泣くなんておかしいでしょ。興味を無くしたような顔に見えるのは多分、感情を表に出さないように我慢してるからかな。俺には自分の顔がどうなっているのか見えないんで判らないけど」 じっと彼を見上げている桃花を宮間は見下ろした。 「多分、俺は君が考えているよりも感情の振幅の大きな男だよ?」 「じゃあ……私に興味がないとか、無関心になったり……とかではないんですか?」 「────俺は君の全部をのぞき見したいと思ってしまうほど、興味を抱いているよ? 常にね」 のぞき見という言葉には僅かな違和感を覚えたけれど、彼が見たい、知りたいと思うのであれば何もかもを見られてしまっても構わないというふうに桃花は考えていた。
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