「……君のその表情は、早速聞きたいことがあるって感じだね?」 お茶を飲み、彼は言う。桃花が言い出しやすいように話を振ってくれたのだと彼女は理解したが、口にすることは何故かためらわれた。 「どうしたの?」 宮間は眼鏡の奥にある瞳を細めた。 もしかしたら聞いてはいけないことなのかもしれないという予感めいたものが心の中で渦を巻く。そんな彼女の様子を見た宮間は、ふっと笑った。 「安藤が何か余計なことを君に吹き込んだのかな」 「……不思議なことは、言われました」 「不思議って?」 彼は表情を変えることなく、桃花をじっと見つめている。 「そ、その……手を握られては駄目だって」 「失礼だな」 くくっと宮間は笑った。 「それで? なんで握られては駄目だと彼は言ったの?」 「何故かという明確な理由は聞けなかったですけど、隠し事があるなら握られては駄目だって言っていました」 「ふぅん」 「左手が駄目だとも言ってました。それが私の左手という意味なのか、宮間さんの左手という意味なのかは安藤君ははっきりと言わなかったのですが」 「なるほどねぇ」 「……この話は“本当”ですか?」 「そうだね」 宮間は短い答えだけを返してくる。 「宮間さんが左手に触られたくないという話と何か関係しているんですか?」 「うん、関係はしている」 彼の答え方に桃花は困惑していた。 確かに聞いた内容に関しての答えは返してくるが、聞いたこと以上の返事を宮間はせず、情報を渡したがっていないような印象を受けた。 つまりは、この話はしたくないというのが宮間の本音ではないだろうかと彼女は考えた。 「……あと、ひとつだけ聞いてもいいですか」 「うん」 「私は……宮間さんを好きでいてもいいんですか?」 桃花の質問に彼は目を細める。 「何度も、同じことを聞いてと思われるかもしれません……でも、不安に……なるんです」 「安藤が君に余計なことを言うから?」 「それだけじゃないですが……」 宮間は、ふっと笑った。 「君は……俺を好きでいて。ずっとずっと好きでいてよ。何があっても、どんなことがあっても俺が好きだって、君だけは言い続けていて」 「……宮間……さん」 「って、俺は思っているよ」 そう言って彼は笑う。 だけど、その笑顔はどこか寂しげで桃花は胸を突かれるような思いがした。 「俺はずっと君を好きでいると思う。でも君が俺を好きでなくなる可能性のほうが高い」 「そんなことは……」 「俺に対して畏怖の念を抱くことになるだろうからね」 「どうしてそう思うんですか?」 明確な理由がありそうだったのに、彼は曖昧に微笑んだ。 「……うん、なんとなく」 ずっと好きでいる。そんなふうに宮間に誓いたかった。 だけど、彼女が彼を好きでいてもいいのかと何度も何度も思ってしまうように、彼もまた桃花が離れていくと思っているのなら、どんな言葉で気持ちを表せば宮間に伝わるのだろうか。 どんなふうに言えば自分の思いや感情を心にあるまま正しく相手に伝えることが出来るのだろう。 何も言えなくなってしまった今のこの現状を桃花は歯がゆく感じていた。
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