「オムライス美味しいですね」 にこりと微笑んで桃花が言うと宮間は笑った。 「そう? 気に入ってくれたなら嬉しいよ」 「宮間さんは料理も上手なんですね」 「たいしたことはないよ」 「親戚の方のお店では厨房のお手伝いもされていたりするんですか?」 深い意味はなく聞いたつもりだったが宮間の表情が曇る。 「……いや、店ではピアノを弾いているだけ」 「あ、あ……そう、なんですね……」 彼の表情の変化をどう捉えればよいのだろうか。踏み込まれたくない領域で聞かれたくないのだろうか? だとしたら、その内容は店の話なのか、それとも親戚の話なのだろうか? どちらとも判断がつかず桃花は黙ってしまう。 「桃花」 ふっと顔を上げると、正面に座っている宮間が左手を差し出してくる。彼女にはそれが握れという合図だとすぐに判り同じように左手を差し出すと彼の手をきゅっと握った。 瞬間。 心の中がふわりと撫でられたような感覚に陥り身体が熱くなった。 糖度の高い甘い感覚は快感と似ていて、セックスのときに挿入された直後の感触と今の感覚は近いものがあると桃花は考えてからはっとする。頬がみるみる赤くなり宮間のほうをそろりと見ると彼は微笑んでいた。 「君は見かけによらず、えっちだよね」 「だ、だって……そう感じてしまうんです。えっちって言いますけどそういうのを私に教えたのは宮間さんですよ?」 「その言い方、そそられるね。俺を興奮させてどうするつもり? コンドームもないのに」 直接的な彼の言い回しに彼女の身体に変化が現れた。朝方あれほど宮間と繋がり合ったのに心も身体も再び彼と繋がり合いたがっていた。 「――――抱かれたいの。君は俺を獣にしたいのか?」 ふっと彼に笑われて益々彼女は頬を赤く染めた。 「でも、桃花が望まなくてもそうなってしまうかもね。俺は君が好きで好きでたまらないからどれだけ抱いてもすぐに君が欲しくなる」 宮間の流れる感情の受け皿になっている桃花が“嬉しい”と感じたことを彼女が口にする前に彼には伝わる。がたっと椅子の音が響き立ち上がって身を乗り出した宮間は桃花の唇にキスをする。 短くキスをして唇を離すと彼は言う。 「君の感情は、温かくて気持ちがいいから俺は為す術《すべ》もなく溺れてしまうね。でも、うん……今はそんなことじゃなくて、ごめんね、踏み込まれたくないというわけじゃないんだ」 彼のその言葉に、宮間の表情に変化があったように、それを見ていた自分にも変化があったから彼は手を出してきたのだと桃花にも判った。 「どう説明をすればいいんだろ……店のことも親戚のことも君に隠したいとは思ってないんだけど、条件反射だな、顔色が変わってしまうのは」 「条件反射ですか?」 「うん、田舎で暮らしていた記憶と直結してしまうからだろうね」 「それはやっぱり、辛かったからですか?」 桃花の問いに、彼は苦笑いをした。 「……俺のピアノの演奏はそんなに寂しそうに聞こえたんだ?」 「あ、す、すみません」 扉の外で立ち聞きしていた宮間のピアノの音が痛いと泣くように聞こえてしまったことを本人に知られ、居たたまれない気持ちにさせられた。 「謝らないで。そう思わせてしまう俺がいけないんだから」 彼は微笑んでから繋いでいた手を解くと椅子に腰掛けた。 「ピアノは嫌いじゃないけど、そろそろ限界なのかな……店で弾くのは」 宮間は自分の腕をさすりながらそう言った。
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