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秘め恋 〜その手が奪うもの〜   41

 

「やばい……気持ち良くて、おかしくなる」
 何もつけずに抱いてしまっているからずっとこのままでいるというわけにもいかないのに、彼は動くことを止められなかった。
「桃花……」
 解いていた左手を、再び握りしめ合うと桃花の声が高くなった。
「あああっ」
 またイメージが広がる。
 青。
 蒼。
 彼女の心の中で呼ばれ続ける自分の名に、気が触れそうになるほど感情が昂ぶった。
「名前……呼びたいんでしょう? 君の声で呼んでよ」
「……そ、う……蒼、さんっ」
 彼女の声が愛しくて堪らなかった。
 繋ぎ合わせ流れてくる桃花の感情が、“我慢する”ということを彼から奪っていく。
「蒼さん……好き……っ」

 行為の先に何があるか判っている。判っているのに止められない。
 射精しない選択も、彼女の体内から抜き出す選択もどちらも選べそうになかった。

 刹那的な悦楽に溺れているのは事実だったがそれだけではないのもまた本当だった。
 途切れないこの先の未来を渇望する。
 断ち切って欲しかったと思った自分が、途切れさせたくないと思う矛盾。
 だけど彼女とならと一縷《いちる》の望みを抱いた最初の夜。避妊具をつけずに抱こうと思ったのも、そうしてしまったのも、桃花が初めてだった。

 ――――そして、ふいに彼女の初めての男が誰であるかも思い出されて燻る征服欲に火がついた。

「あ、あぁ……桃花……愛してる。好きだよ……も、ぁっ」
 あまりの興奮に濡れた声は自分のものではないような気がした。
 振り切れない欲望。吐き気がするほどの激しい感情に眩暈がする。
「出していい? このまま」
 中で出したら嫌だとあの日のように桃花が言えば、射精しないままに抜く理性は僅かだが残っていた。だけど小さく頷いた彼女を見てその理性は泡となって消えそうだった。
「それ、俺と結婚してくれるってことだよね? 俺だけをずっと愛してくれるって意味だよね? 俺みたいな子供も愛してくれるってことだよね?」
 自分よりも遥かに身体の小さな彼女に何を約束させようというのだろう。
 約束を強要し、重い荷物を桃花にも背負わせようとするのか?
 今まで自分が辛い、苦しいと、泣きながら背負ってきたものを、その負担を、彼女も共にと強いるのか?
「……っく、そ……っ」
 それは許されることなのか? と寸前で桃花の中から己を引き出そうとしたとき、抜けかけた陰茎が彼女の手で再び内部に戻された。
「いやです、このまま出して欲しい」
「桃花」
「中に出して下さい」
 そう言って振り返り見上げてくる彼女の表情も声もあどけなくて決してセクシャルなものとは言い難《がた》かったが宮間の興奮を煽った。
 彼女をラグの敷かれた床の上で仰向けにし、体位を正常位に変えて再び身体を揺らした。溶けるように繋がる部分が快感を生ませ桃花が甘い声を上げる。
「んっぅ……あ」
「桃花……一緒に、生きてくれる?」
「は、い」
「ごめんね、桃花」
 謝罪の言葉を述べる宮間に、桃花は不思議そうな表情をした。
「な、んで……謝るんですか? 私は凄く幸せなのに。それを与えてくれたのは蒼さんなのに、そのあなたがどうしてごめんなんて言うんですか? おかしいですよね……」
 彼女が柔らかく微笑む。
 彼の全てを許すように微笑んだ桃花の表情に胸につかえていたものが溶けるようにして無くなっていく。
「……愛してるよ」
「愛してます、だから、蒼さん……全部私の中に注いで下さい」
「…………君の言い方はいちいちやらしいよね……」
「あ、ン!」
 繰り返される抽送。
 溢れる蜜に濡らされ、包まている。
 彼女の声や温度に再度高まる欲望の塊は、溜め込んだものを吐き出したがるように膨らんだ。
「蒼さん、あ、あっ……蒼さん……好きっ」
「ん、桃……好きだよ」
「私、私、もう……ン、ふ」
「うん……俺も、もう……我慢出来ないよ、出したい……」
「出して欲しい……蒼、さ……ぁ、ああっ!」
「んっ……ぅ」
 ひくりと震える彼女の身体と内部に射精感は煽られ、まるで促されるようにして宮間は桃花の体内で熱い飛沫を撒き散らした。
 

 

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