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秘め恋 〜その手が奪うもの〜   42

 

「ああ……出てる……出したよ? 君の中に」
「ん……は、い」
 甘い息を吐きながら、桃花は穏やかな笑みを浮かべた。
「わ、たし……考えたことがあるんです」
「え? 何」
 繋がりを解かず、射精後のけだるさを感じながら宮間が彼女を見つめると、桃花は恥ずかしそうな表情をした。
「その……名前なんですけど」
「うん?」
「……色がつく名前がいいなぁって」
「え?」
「す、すみません……気が早いですよね」
「何、なんの話?」
 彼女の言った言葉の意味が判らずに宮間は首を傾げた。
「……あ、あの……」
 ゆであがった何かのように顔を真っ赤にしている桃花を見て、手を繋いで言葉の意味を探るべきなのか、口で言わせるべきなのか彼は少しだけ悩み結論を出した。
「言ってよ、桃花」
 宮間が極上ともいえる笑みを浮かべると、そろりと上目遣いで彼を見てから彼女は小さく言った。
「…………赤ちゃんの、名前、です」
「あぁ、本当に気が早いよね」
「う……」
 赤く染まった耳たぶに唇を滑らせながら宮間は笑った。
「どうして、色の名前?」
「蒼さんが青で、私がピンクだからです」
「ピンク? 桃だから? ふぅん……そうか、そうだね、なるほどねぇ」
 感心したような声を彼が上げると、桃花が恥ずかしそうにしている。その様子がまた愛らしく、しばらくはこの身体の繋がりは解けそうにもないと宮間は思った。


 呪われの血だと判っているのに、失わせたくないと思ってしまった。
 直系の血。そして自分の血を。

 これまで生きてきた道を全否定出来ない。
 生まれてくる子に重い荷物を背負わせ続け、最後にその子に謝ることになったとしても。

 ――――ごめんね、蒼。

 祖母の謝罪の意味は、おそらくそういうことだった。
 だけど、もし謝らなければいけないのであればそれは自分も同じだと彼は思った。

 直系の祖母は宮間の感情を全て知っていた筈で。
 辛い、寂しい、哀しい。
 そんな負の感情ばかりで溢れた自分を見ていた筈で……。

 今の自分は幸せだ。
 だから、自分が誕生するまでの道を形成した一部の祖母に対して、幸せだから謝らないでと桃花が自分に言ったように許しの言葉をかけていたのなら、彼女が注いでくれた愛情に報いることも出来たのに、何も返さぬまま旅立たせてしまった。

 ごめん。
 そして、ありがとう。

 戻すことの出来ない時間。
 伝えたい言葉は、灰になり天に召されたあの人にはもう言えないけれど、祖母が作って来た道を絶やさず続けていく宿命を受け入れることが贖罪《しょくざい》になるのではないかとも宮間には思えていた。

「桃花、俺も、凄く幸せだよ」

 彼の言葉に、桃花は嬉しそうに微笑んでいた。
 



 

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