****** 表面的に心が触れ合ったのはつい先日のこと。 彼女がこちら側を見てくれていると知ったのも、ほんの数日前。 確かに俺は彼女を好きだったが、自分がこんなふうに他人に溺れるとは思いもよらなかった。 こんな自分が、他人と心を通わすことができる日がくるだなんて――。 再び桃花の手を握った宮間は小さく息を吐き出した。 「すぐにでも、結婚しよう」 「え? あ、はい」 宮間のプロポーズの言葉に、彼女は微笑む。 「せっかちだなって、考えてるよね?」 「はい。思っていますけど、でも、嬉しいですよ」 ふわりと柔らかな彼女の感情が感覚となり伝わってくるようで、宮間は心地よさを感じた。 「どうあっても、もう、君とは離れられない。桃花が俺を愛してくれなければ、俺はきっと狂ってしまう」 「……大丈夫ですよ、私は決めたことは曲げないタイプの人間なんです」 左手の指を絡み合わせながら、宮間は不思議に思っていた。彼女はごくごく普通の人間で、心の中に入り込んだりできない筈なのに、桃花の言葉ひとつひとつが自分の神経に直接触れてきているように感じてしまう。 彼女の感情が心の糸に触れてきて、悲しくもないのに泣きたくなった。 「蒼さん?」 「俺は、君が考えているような男じゃないし、努力はするけど君が望む宮間蒼にはなりきれないと思う。強くもなければ優しくもない。君に対しては執着し続けて息苦しくもさせると思う――だけど、絶対に離さない」 「私は、蒼さんがどんなふうでも、ずっとあなたを好きでいますよ」 彼女は心を読めないはずなのに、何故、欲しいと渇望している言葉を与えてくるのだろうか。 「桃花。愛してる」 「愛しています」 桃花の指が宮間の頬を撫でる。 そこで初めて、彼は自分の頬を伝う涙に気が付いた。 「……強い男でなくて、ごめん」 「蒼さんは、ありのままのあなたでいてください。それでも私の気持ちは変わりません。だから、私の作った偶像に自分を合わせようとしないで欲しいです」 「偶像?」 「“私が望む宮間蒼”――って、蒼さんが思っているあなたにならなくていいです。確かに勝手に作り上げてしまっているかもしれませんが、私は今の蒼さんが……好きです。すごくすごく、愛おしいです」 宮間の髪をすくように指を動かしながら、桃花は微笑む。 「どんな無理もして欲しくはないです。これからはずっと……一緒にいるんだったら、無理をしたら疲れてしまいます」 「いるんだったら、じゃない。絶対離さない」 「あ、はい……ごめんなさい」 ふふっと彼女は嬉しそうに微笑んで、宮間の頭を撫でた。
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