感情が溢れる。 彼への想いや懺悔の気持ちが、心から溢れてだしているのが自分でも判るくらいだったから、手を握っている宮間には全て見えてしまっているのだろうと桃花は思った。 「すみません。蒼さん」 「泣かせたのは俺だよ」 「でも、使わせたくなかったんです」 こんなふうに、彼の能力を――。 桃花の滲んでしまった視界の向こうで、宮間は柔らかく微笑む。 「そんなことは気にしなくていいよ。俺は確かに普通でありたいと願う気持ちがあるけど、君がこの能力を気持ち悪いと思っていないなら、積極的に使いたいと思っているし」 「え? そうだったんですか」 宮間は長い睫毛の先を彼女に向けて微笑んだ。 彼の妖艶な笑みに、思わずどきりとさせられる。 「君のナカはいつまでも見ていたいと思うくらいに心地がいい」 リンクしている部分は左手だけなのに、全てが繋がっているような錯覚に陥る。その感覚は強烈であるのに優しいと思えた。 彼と同化している。 ひとつになっているという感覚が生まれ、もっと深い場所に入り込んで欲しいと思ってしまう。 「……いいよ。どこを見て欲しいの?」 ワントーン低くなった彼の声は、甘さを体内に滲ませた。 「私が蒼さんを好きだと思う気持ちの全てを、見て欲しいです」 「桃花、君は本当に」 彼女の耳元で宮間はぽつりと囁いた。「どこまで俺を夢中にさせるつもり?」と……。 一生分の恋をしている。 彼の存在全てを乞うことで、ずっと傍にいられるのなら、跪いて乞い続ける。 欲しいのは彼だけだ。 「……桃花」 「さっきの言葉は嘘です。蒼さんが私をいらないって言っても、私は離れたくない。傍にいたい」 「いらないなんて言わない」 「蒼さんには――ずっと私だけの蒼さんでいて欲しい」 「あぁ」 宮間は空いているほうの腕で桃花を引き寄せ抱きしめた。 泣いても泣いても涙が止まらず、頬が濡らされていく。好きだと思えば思うほど、余計に涙が溢れた。 彼に想われている実感はあるのに、胸が痛い。 そして空に浮かぶ雲のように、掴めないものを無理に掴もうとするから焦燥感にかられた。 自分の傍に彼の感情を引き寄せて掴みたい。 形のないものを抱きしめて、もっと実感したかった。 「君のソレ、すごく気持ちいいね。もっと俺に執着してよ。桃花の感情に抱きしめられているみたいで、たまらない気持ちにさせられる」 「蒼さんが、好きなの」 「俺は、君だけを愛してる。それはこの先ずっとだよ」 「ずっと傍にいてください」 「――ねぇ、桃花。跪いて乞うのは、俺のほうなんだよ?」 「……っ」 身体が浮いたと思った次の瞬間には、体内に彼の感覚が入り込んできた。 心の中で感じる彼の感覚と、体内で感じる彼の感覚に意識がふっと遠のきそうになる。 「駄目だよ、意識を保って。俺を遠ざけないで」 「だって……ン」 「ほら、桃花……もっと見せて。俺も、君を愛しているから」 「や……あ」 繋がっているだけで彼は身体を動かしていないのに、深い部分が熱したように熱くなってくる。 「気持ちいいんだ? ただ繋がっているだけでも」 彼の言葉に下腹部がきゅっと締まった。 強く意識をさせられた内部が感覚を知りたがるように蠢く。 「桃……」 こんなふうに彼の感覚を知るのは、たとえ昔がどうであってもこれから先の未来は自分だけでなければ我慢出来そうにない。 嫉妬なんて生やさしい感情ではなく、もっと陰湿で強烈な感情が自分を支配するだろう。今までそういった感情を抱いたことがなかったからそれがどういうものなのか想像出来ないが、それこそ彼が逃げ出すぐらいの“黒い”感情なのではないかと思えた。 「黒い桃花を見てみたい気もするけどね」 「いや」 大きく左右に首を振る桃花を見て、彼は笑った。 「大丈夫、信じて。君だけいれば、俺は他には何も欲しくないよ」 「だけど」 縋るような目で宮間を見つめた。 自分はもうとっくに黒くなっているんじゃないだろうかと桃花には思えてならなかった。
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