****** 「……宮間さん、すみませんでした……」 ブランドの紙袋を手に提げ、頭を下げる彼女を宮間は不思議そうに見つめた。 「なんで謝るの? お礼を言われるなら判らないでもないけど」 「私、社会人になったのに、安物ばかり買って……その、恥ずかしい……ですよね」 「安いから駄目ってのはないんじゃないの? 高かろうが安かろうがどうせ原価なんてたかがしれてるものなんだし」 「でも、宮間さんは高い鞄を持っていたり高い腕時計をしてますよね」 「ああ、俺の持ち物が気になるの?」 「……って、吉永さんが言ってたので」 「誰?」 「……だから、私の同期で営業三課の子です。宮間さん一緒に食事に行ったりしてますよね」 「食事ねぇ?」 彼は少しだけ首を傾けた。 「この前、残業帰りに食事した子のことかなぁ」 「……判らないですけど、残業帰りにって彼女も言ってました」 「ギラギラしたネイルをしてる子?」 「ギラギラっていうか、ジェルネイルはしてます」 「ふーん、で、その子が俺の持ち物の話をしていたわけ? 君に」 「いえ、私は……立ち聞きしちゃったというか……そんな感じで」 「言っておくけど、食べて帰ろうって言われたから駅前の定食屋で喰って帰っただけだからね。断るのもなんかウザかったしー、俺も腹減ってたしぃ」 宮間は、ふっと息を吐いてそう言った。 「あ、そう……なんですか」 「俺が誘ったとでも思った?」 「……考えたくなかったです」 「ふぅん? でもまぁ、結果的に行ったことには間違いないからな」 そう言って宮間は薄く笑い彼女の反応を見ていたが、桃花はじっと俯いてそれ以上の言葉はなかった。 「桃ちゃん?」 彼の鞄を見ても、スーツの裾から少しだけ見えている腕時計も、自分にはどこのブランドのものかさえ判らない。綺麗に磨かれた革靴もやはり高いのか安いのかさえ彼女には判断出来なかった。 「もーもーちゃん」 二度呼ぶ彼の声にはっとして、桃花は顔を上げた。 「は、はい」 「値踏みするように見るのも構わないんだけど、外側だけってのはやめて」 値踏み、と言われて彼女は顔を赤らめた。 「ご、ごめんなさい」 「そりゃあね、俺は営業職だから相手から舐められないように仕立ての良いスーツを着たり外見や持ち物には気を使うけどさ……男と女にそういうのって必要なのかなって思うんだよねぇ。結局最後には裸になっちゃうわけなんだし」 彼は少しだけ首を傾けて笑う。 「俺の中身よりも持ち物が気になるような女はこっちが願い下げですよ?」 暗に吉永には気がないと言っているのだろうかと桃花は思いながらも、俯いた。 「……私も似たようなものです」 宮間の内面は何一つ知らないのに外側の美しさだけで心ときめかせている現状は、持ち物で判断する吉永と大差ないように思えた。 「俺自身のことよりも、鞄のブランドや腕時計の値段が気になるの?」 「そんなのはないですけど……鞄のブランドなんて判らないですし、ましてや腕時計の値段なんて想像もつきません。ただ、いつも、宮間さんは綺麗だなって思ってしまうのは事実で」 「俺が綺麗?」 うっかり言ってしまった言葉を彼に笑われて桃花は顔を赤らめた。 「い、今のは聞かなかったことにして下さい」 「聞いちゃったのでそうもいかない」 宮間は彼女の顔を覗き込む。 「こういう顔が好みなの?」 「…………綺麗だなって、思います」 「興味を持つのは顔だけ?」 距離が近づき、唇が軽く触れ合った。 柔らかなその部位はケーキよりも甘美で意識を蕩けさせる。 「もっと触れたいって思わない? 俺は思っているよ」 その宮間の言葉がこの間の続きだと桃花にも判り、彼女はなけなしの勇気を振り絞って彼に抱きついた。 「……これは、どういう意味だと思えばいいの?」 「一度だけでもいいんです……抱いて、欲しいです」 「…………一度だけ?」 宮間はうっすらと笑った。 「ああ、いいよ」
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