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契約結婚 一年後には捕まえます! Dolphin Riderとの激らぶ婚 2-6

 カフェバーを出ると、彼女は軽い足取りで自動販売機の前に向かった。
「何か買っていくの?」
「はい、お水を」
「それなら家に−−−−」
 あるよと言い終わる前に、由眞はミネラルウォーターのボタンを押していた。
 ――――またしてもスロットの付いた自動販売機だったので、妙な音楽と共に数字が揃った。5が四つだ。
「やったぁ、凄くないですか? 5って言ったら赤坂さんの番号ですよ!」
「僕の番号?」
「五番機、ブルーの機体ですよ」
 トクンと心臓が跳ねた。ばかみたいに、気分が高揚した。
 ただ彼女が自分の機体番号を覚えてくれていたというだけで、泣きたくなるくらい切なくなった。
「……由眞ちゃん、ブラックコーヒーをもらってもいい?」
「どうぞ〜」
 ブラックコーヒーのボタンを押して、取り出し口からふたつ飲み物を取り出した。
「お水は今飲むの?」
「はい」
「じゃあ」
 ペットボトルの蓋を緩めてから、柊吾は由眞に渡した。彼女は嬉しそうに笑っている。
「ありがとうございます、嬉しいな」
 彼女は蓋をとって、水をゴクゴクと飲んだ。由眞の白い喉が動く。
「スロットが揃ったから、嬉しいの?」
「ううん、赤坂さんが私に優しいから!」
 以前プルタブを開けて渡したときは過保護だと、由眞は言った。
(こっちが、本当の彼女なのかな)
「あっかさっかさん」
「ん、何?」
「お手々、繋いで」
 由眞は手を差し出してきた。
 あぁ、これは甘えたいんだな、と彼は思った。
 手を繋ぐと彼女は嬉しそうに笑って、鼻歌を歌っている。
(何の歌だろう?)
 聞き覚えのある、最近の流行りの歌だと思えた。それが何かまでは柊吾にはわからなかったけれども。

 柊吾の家に入っても、由眞は機嫌良さそうに鼻歌を歌っていた。
「ソファに座ってて、んんっと……アイスでも食べる?」
 冷凍庫にはハーゲンダッツのアイスが何個か入っていた。
「アイス? 食べたい」
 とととっと、由眞が冷蔵庫の前に立っている柊吾に近寄ってきて、冷凍庫の中を覗いた。
「わぁ! ハーゲンダッツだぁ」
「好き?」
「うん、大好き」
「どれでも好きなの取っていいよ」
「じゃあ、バニラ」
 彼女はバニラを取ると、大事そうに抱えて、ソファに向かった。
 柊吾はストロベリーのアイスとスプーンを二本持って、由眞のところへ向かう。
「はい、スプーン。蓋は開けられる?」
「大丈夫です」
 スプーンを受け取り、蓋を開け、由眞は美味しそうにアイスを食べた。
(用意しておいて良かったな)
 ここまで喜ぶとは思っていなかったけれど、彼女の幸せそうにアイスを食べる様子は本当に愛らしかった。
「赤坂さんはストロベリーにしたんですね」
「こっちも食べたい?」
「……うん」
「じゃあ、どうぞ」
 柊吾がまるごと渡そうとすると、由眞はふるふると首を振る。
「一口だけ食べたい」
「じゃ、食べる分だけ取っていいよ」
「赤坂さんが食べさせて?」
「え」
「お母さんがね、弘貴にはよくそうしてあげてたの」
 と言って由眞は口を小さく開けた。
 可愛すぎて反則だと、柊吾は思いながらも銀のスプーンでアイスをひとすくいして彼女に食べさせた。
「んんん……美味しい」
 彼女が満足そうに微笑むから、柊吾は結局、自分はアイスを一口も食べないまま、ふたつのアイスを由眞に食べさせた。
 冷たいものばかり食べさせたから、温かいものをと考え、柊吾がキッチンに向かおうとすると、由眞の手が柊吾のシャツの袖を掴んだ。
「どこに行っちゃうの?」
「お茶でも淹れようと思っただけだよ」
「もう何もいらない……傍に居て」
 何故彼女は、柊吾の琴線に触れるような言葉を言うのだろう。
 抱きしめたい、キスをしたいと彼は思った。
「……由眞ちゃん、キスしてもいい?」
「うん」
 返事はあっさり返ってきた。柊吾は再びソファに腰掛け、そっと由眞の頬にキスをして様子を見た。弘貴がお母さんに〜が始まると思ったらやっぱりそうだった。
「お母さん、弘貴にはほっぺにキスしたりするんだよ」
「……そうか」
「ね、もっと、チュッてして欲しい」
 おねだりの仕方も可愛いと柊吾は思う。
「……うん……」
 唇は避けて、額や頬に彼はキスをした。
「…………なんだろ、なんか、そうじゃない……」
 由眞が不意に不満を口にした。
「でも、お母さんは弘貴に口付けはしないだろ?」
「……口付け、あ、うん、でも……しちゃ駄目?」
 彼女の言葉が能動的に聞こえたから、柊吾はいいよ、と言って目を閉じた。
 ふわりと由眞の香りがする。彼女は首筋に腕を回してきて、短い口付けをした。
「……男の人の唇って、柔らかいんですね」
「君もね」
「ぎゅってしてもいいですか」
「いいよ」
 彼女は回してきた腕はそのままに、身体を密着させた。
 そして柊吾の肩に頬を乗せて言う。
「……私……寂しい……ずっとずっと……寂しかった」
「弘貴のせいで?」
「……ううん、愛されないのは私のせいなの、私がいい子じゃないから」
「由眞ちゃんは、いい子だよ」
「ほんと?」
「うん」
「……私のこと、好き?」
「どういう意味で?」
「嫌いじゃない? って意味で」
「嫌いじゃない、好きだよ」
「……よかった」
 彼女の声が涙で滲んだ。
「……寂しい……」
 柔らかな彼女の肢体が直ぐ傍にあっても、柊吾はそれ以上のことはしなかった。その代わりに何度も彼女に「好きだ」と言った。
 きっとひとつも伝わってはいないとは思えたが、何度も何度も、彼女が眠りにつくまで繰り返し言葉にした。
「好きだよ、由眞……」
 手放せないと思うほどに。


 

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