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恋にならない ACT.14



「……最後だと、決めてきたならどうして抱いたりするのよ」
 みなみの言葉に、絢樹は静かに笑った。
「何を言ってるんですか」
「私が飼い主に相応しくないと思ったから、ペットを辞めると言い出したんで
しょ?」
「違いますよ」
「……私が、今までの人より、劣っているから……」
「違います。みなみさん、人の話を聞いていますか? 俺は最後にしたいなん
て言ってないでしょう」
「だって、そういうことでしょ?」
 濡れた瞳を絢樹に向けると、彼は笑う。
「あなたは、俺を好きですか?」
「……」
 彼の言葉に、今度は目を逸らした。
「……ずっとペットとして可愛がりたいと思っていますか? それも思ってい
ないですよね」
 絢樹の律動に身体が軋む。
  背筋に痺れるような甘い感覚を感じて息を飲む。
  心の痛みとリンクするように身体も痛むけれど、繋がっている一点だけは熱
く、蜜が溢れてきていた。
 抱きしめられている腕が、愛おしいとみなみは思ってしまう。
  最初にそうされたときから変わらない感情。
  仮初めのものであっても、ひとときでも彼を自分の手元に置きたいと願った
気持ちは今も変わってはいなかった。
 絢樹の感情がどんなふうに変わっていても。
「……離したくない、離れたくないの」
 うわごとのように言う彼女の言葉をすくい取るように絢樹はみなみに唇を寄
せた。
「俺、離れるとは言ってないですよね」
「絢樹……」
「ん……っ、みなみ、さん」
 最奥まで入り込ませ、その場所で絢樹は一度止まった。
「俺、みなみさんが、好きです」
「……ペットを辞めるのに、命令はきき続けるの?」
 みなみがそっと彼を見上げると、絢樹は小さく笑った。
「命令をきいているわけではないです。俺の感情を言っているんですよ」
「嘘よ」
「なんで嘘にしようとするの? スーツの男はよくて、俺は駄目なの? 自分
の意思をあなたに伝えることすら許してもらえないの?」
 絢樹は笑った。
「みなみさん、あなた……」
 彼はみなみの手をぎゅっと握りしめた。
「俺のこと、好きなんでしょう?」
 答えない彼女を絢樹は覗き込む。
「違うの? 好きじゃないの?」
 ゆるゆると身体をひいていく彼に、みなみは思わず絢樹を見上げる。
「抜かれたくないの?」
「……」
 見下ろされている視線から逃れるようにみなみが顔を背けると、絢樹は小さ
く笑って最奥まで突き上げた。
 くすぶっている部分への刺激に彼女は思わず声を漏らす。
「好きなんですか? 嫌いなんですか? はっきり言って下さいよ」
 身体を揺らされ、湧き上がる甘い快感に震えた。
「嫌い……じゃない」
「じゃあ、好きなの? ねぇ……ちゃんと言ってよ……好きだって、俺が好き
だとあなたが言ってよ」
 小さく揺らされていた身体が更に大きく揺らされる。
  絢樹の男性器が何度も何度もみなみの体内を出入りして、まるで蜜を掻き出
すような動きで彼女を翻弄した。
 快感の波から逃れることが出来ず、溺れていく。
  
  欲しい快感はいつでも与えられていたけれど、その快楽だけでは足りないと
思うようになってしまったのはいつから?  
 何度満たされても、足りないと叫ぶ心の声を聞くようになったのは。
  
  身体だけではなく、心も満たされたいと望み、かなわない想いに苦しくなっ
ていったのはいつから? みなみは絢樹の身体を強く抱きしめた。  
  
「私は……あなたと、恋がしたかった」
「……みなみさん?」
「望めないと、判っていても」
「……すみません」
「だから、今は、もう……苦しいだけで、でも、それでも」
 彼女が腕の力を強めると、絢樹も同じように抱きしめてきた。
「すみません、俺が変な提案をしてしまったから苦しめてしまったんですよね」 
 絢樹は彼女の頭を撫でてから、耳元で囁いた。
「みなみさん、俺の恋人になって下さい」
「え?」
 みなみが涙で濡れた瞳を彼に向けると絢樹は苦く笑った。
「あなたとなら、恋を始められると思うんです。俺は出来損ないの人間ですけ
ど、あなたに対しては人間らしい人間でいたい」
「……絢樹」
「到底あなたとは対等なレベルにはなれない人間です。それでも俺はあなたか
ら離れたくないですし離せないんですよ」
  苦く笑う絢樹の頬を、みなみはそっと撫でた。
「みなみさん、もうどんな我が儘も言わないです、だからあなたが俺に恋を教
えて」

 俯くみなみの額にキスをして、それから額を彼女の額へ押しつけた。  

「あなたじゃないと、嫌だ」

 恋い焦がれた男の言葉に、みなみは落ちていく涙を止めることが出来なかっ
た。




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