TOP BACK

恋にならない ACT.15


 彼女の瞳から落ちていく涙を、絢樹は指でそっと掬った。
  
「あなたから見れば、いい加減な男に見えても仕方がありません、でもみなみ
さんに対していい加減な気持ちで接したことは一度もないんですよ。それは最
初からそうです」
「いい加減だと、思ったことはないよ」
 求められているのが身体だけであっても、ペットと主人という関係でも、絢
樹がみなみを裏切るような行為はなかったように思えたから、彼女はそのよう
に返事をした。
「……あなたを、失いたくないんです」
「う、ん」
 彼の言葉に心が甘く痛んだ。
  切なさで身体が震える。
  内部にある絢樹の塊が、余計に強く感じて思わず甘い声が漏れた。
「あなたが好きです、好きで好きで堪らなくて……」
「んっ……ぁ」
 絢樹は彼女を抱きしめ、律動を再開する。
「セックス……するのも、もう……あなたが相手でなければ、嫌です。どれだ
け自分が欲に溺れても、止められないと感じても、それがあなたでないと嫌だ」
「う、うん……絢樹……ン」
 最奥の疼きが強くなる。
  彼の熱にみなみは溺れた。
  溢れる快楽も欲に満ちた感情も、与えられるのが彼でなければ嫌だと思う気
持ちは彼女もまた同じだった。
「絢樹、私……」
「好きって言って……俺を好きだと、言って下さい」
「絢樹、好きだよ……ずっと、好きだった」
「……っ、ん……みなみさん……」
 彼の身体を強く抱きしめ、貪るように絢樹を欲した。
  そして絢樹もそれに応えるように彼女に与えた。
  
  ずっと手の中にあった体温が、自分のものになったような気がして深い快楽
を知った後も、みなみは彼を抱きしめ続けた。


「……乱暴にして、すみませんでした」
「うん、大丈夫」
 みなみが小さく微笑むと、絢樹も同じように微笑んだ。
「……みなみさん」
 絢樹が彼女を抱く腕の力を強めた。
「正直言って怖いです」
「何が?」
「ただ一人の人を、望むというこの感情が」
「……裏切られるかもしれないから? それとも、捨てられると……思うから?」
「両方です」
「大丈夫だよ、私は……あなただけだから」
 彼の背中をみなみがそっと撫でると、絢樹は小さく息を吐いた。
「……絢樹が私を好きでいてくれるのなら、私の気持ちは変わらない」
「好きです」
「うん……凄く、嬉しい」
「何が?」
 絢樹が少しだけ身体をひいてみなみを見る。
「あなたが、私を好きだと言ってくれることが、嬉しいの」
 彼女の言葉に、彼は一度不思議そうな表情を浮かべてからその瞳から涙を零
した。
「絢樹?」
「……俺、ずっとあなたを好きで居続けます」
「うん」
「だから俺を、嫌わないで」
「嫌いになれるなら、とっくになってる」
 みなみは笑いながら、涙が落ちる彼の頬を撫でた。
「大好きよ……絢樹。だから、ずっと傍にいて」
「はい」

 みなみは頭を少しだけ動かして耳を澄ませる顔をしてから笑った。
  
「雨音が聞こえる」
「ち、違います、俺は――――」
 慌てたように言う彼が可笑しくて、彼女は笑う。
「これからは、雨の日でなくても、あなたを求めていいんだよね?」
「勿論です、寧ろ毎日だって」
 重なる彼の唇の体温が、愛おしいと思えた。
  来るはずもないと思っていた、彼女が望んだ“いつかの未来”が今、みなみ
の腕の中にあった。


 寂しくどこか物悲しいと思えた雨音が、今日は優しくふたりの耳に届いてい
た。


−FIN−



※絢樹視点はこちらから。
注意:詳細な描写はありませんが、
社R/陵辱・パートナーが変わっての性描写に嫌悪を抱かれるかたは
閲覧されないようにお願いします

 TOP BACK

-・-・-Copyright (c) 2012 yuu sakuradate All rights reserved.-・-・-

>>>>>>cm:



rit.〜りたるだんど〜零司視点の物語

執着する愛のひとつのカタチ

ドSな上司×わんこOL



Designed by TENKIYA