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恋にならない 2-3


 軟禁状態が数ヶ月続いていたが、ある日突然母が「専門学校に行かないか」
と言い出した。
  家に閉じ込められている生活に発狂しかけていた俺にとって願ってもない提
案だった。

 入学後、出逢った女性にバイトを勧められ、金に困っていたわけではないが
なんとなく始めた。
 引っ越しの手伝いや、荷物の搬入作業など、やたらと身体を動かす仕事ばか
りだったが、セックスをしたときの疲労感とはまた違うそれに少しではあるが
爽快感を覚えていた。
 
「最近笑うようになったね。可愛い」

 仕事をする上で愛想笑いを覚えた俺に女性は言った。

 相変わらず、俺の相手になる女性は淡々と身体だけを求める人物が多かった
けれど、身体に傷をつけたがる人とはもう出逢わなかった。
 だけど、可愛いと言って可愛がるふりはするものの、やはり俺の性欲に音を
上げて切られることも多かった。

 だったら、いつもいつもじゃなくて、雨の日だけと心に決めようと俺は思っ
た。
 実際雨の日が一番性欲が強くなる。
  でもそうやって自分に枷をはめると、一層雨の日は身体に渦巻く情欲が倍増
して首をしめることになってしまった。

 いくつかバイトをし、そろそろ日雇いではなく長期的なバイトにも挑戦して
みようかと思い、面接に行った先で出逢ったのがみなみさんだった。

 小さくて柔らかそうだな。と思ったのが第一印象だった。
  
  
「え? 接客業初めてなの? 全然そんな感じしないね」
 にこりと彼女は笑った。
  笑顔の可愛いみなみさんを見ていると、俺もつられて笑ってしまう。
  彼女の持つ独特の柔らかい雰囲気は居心地の良いものだと思えた。
  そして俺が笑うと彼女も倍の笑顔を返してくれるから、みなみさんの前では
笑っていることが多くなっていった。


「ふーん、藤君っていっこ下だったんだ」
 テーブルを拭きながら彼女が言う。
「年下は駄目ですか?」
「え? あ、だ、だっ駄目ってことないけど、っていうか何言ってるのよ」
 みなみさんは何故か顔を真っ赤にして俯いた。
  白磁のような肌が赤く染まる。
  耳まで真っ赤で、俺はそんな様子を可愛いと思えた。
「藤君って、でも、カノジョいるんでしょ?」
 みなみさんの質問に俺は少しだけ考えた。
  カノジョはいない。
  セックスをするだけの相手ならいる。
  そんなふうに言ってしまったら、みなみさんはもう俺に笑顔を向けてくれな
くなってしまうのかな。
 他人からどんなふうに思われようと、今まで大して気にしたことがなかった
けれど、みなみさんの“目”は気になってしまった。
「……います。カノジョ」
 だけど俺の予想に反して、みなみさんはしばらく無言になってしまう。
「あの、みなみ……さん?」
「そうだよね、藤君みたいな人にカノジョがいないわけないものね」
 “俺みたいな人”が何を指して言っているのかは判らなかったけれど、その
時のみなみさんの表情が哀しそうにも見えて、俺はカノジョがいるなんて嘘を
言わなければ良かったと思った。
 かといってセックスだけの相手がいるとも言えなかったけれども。





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rit.〜りたるだんど〜零司視点の物語

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