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恋にならない 2-4

 ******
  
 専門学校は、カフェで働くようになってから程なくして辞めた。
  もともと何か目的があって入学したわけではなかったから無意味だと思えた
からだ。
  義理のチチオヤも母も辞めることに関して反対しなかった。
  何故反対しないのだろうかとちらりと考えたけれど、答えが見つからなかっ
たから、俺はそれ以上深く考えなかった。


  
  夜だけ入れていたカフェのバイトを昼も入れるようになる。
  
  みなみさんも、夜に入ったり昼に入ったりしている様子だったから、出来れ
ば同じシフトで働きたいと俺は思っていた。
  
 休憩室に貼られている二週間分のシフトの申請表を見て、既に書き込まれて
いるみなみさんの予定に合わせるように俺も表に書き込みをする。


 みなみさんが持つ温かなオーラに俺は心地よさを覚えていた。
  接客業をしているからかもしれなかったが、彼女の笑顔はどこまでも優しい。
  影の部分で生息し続けている俺にとっては眩しい存在でもあった。
  カフェにはもちろん、みなみさん以外の女性も働いていたけれど俺が心を動
かされるのは彼女だけだった。
 その心が揺らされるものの正体が、俺には判らなかったけれども。
  
  
  
  
  雨が降ると、女性からメールが来る。
  この人と関係を持った時に、雨の日だけにして欲しいと言ってあったからそ
れなりに良い関係を保てていた。

 だけど次第に――――。
  
 ホテルで何度抱き合っても、俺は満たされなくなっていた。
  出すものは出していたから性的欲求は満たされていたが、足りないと心の奥
底で何かが燻り、その何かを探ろうと女性を抱いてみても、抱けば抱くほど喉
の渇きが強くなっていくような錯覚に陥った。



 ――――ある日。
  ホテルに入ってキスをするものの女性はそれ以上の行為をしないまま俺の腕
から離れた。

「……潮時なのかしらね?」
「え?」

 女性はソファに座り煙草に火をつける。

「絢樹が欲しいと思っているのは身体だけのセフレじゃない」
「……」
「だけど、あなたが私を好きではないから私ではあなたが求めているものはあ
げられない」
「どういうことですか?」
「その答えを教えるのは私の役目ではないわ」
 女性は難しいことを言って灰皿に煙草の火を押しつけて揉み消した。
「もうメールも電話もしない。終わりにしましょう」
「……はい」

 関係を断ち切られた筈なのに、俺は何故か安堵していた。
  
  だけど、胸の中で燻っている感情の正体が判らずに安堵の思いと同時に焦燥
感に心が揺らされもした。

 雨の中、俺は傘を差さずにホテルから歩いた。
  強い欲求が満たされないまま、身体に残る。
  
  本当に俺が欲しいと渇望しているのは“その部分”だけではないと自分でも
薄々は感じていたから、抱かせてくれと頭を下げることも縋ることも彼女には
しなかった。

 どうしよう。
  どうすればいい?
  
  女の人を探すことは簡単だったけれど、心の中に変化が生じた以上、今まで
通りのことは出来ない。


 執着の二文字が心の中で揺れていた――――。








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rit.〜りたるだんど〜零司視点の物語

執着する愛のひとつのカタチ

ドSな上司×わんこOL



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