****** 仕掛けたのは俺で、関係を望んだのも俺だった。 雨の日はみなみさんは俺を受け入れ、それが際限ないものでも温かく柔らか な身体で受け止めてくれた。 いつまで続く? いつまで続けてくれる? 女性の“性”の構造は俺には判らなかったから、同じように繰り返されるセ ックスに彼女がいつまで飽きずにいてくれるかは予測も出来なかった。 嫌だと女性が思い始めても、続けようと男が思うから凌辱してしまうことに なるのだろうかと、俺はチチオヤの姿を思い出していた。 部屋の隅に座り身体を丸めた。 みなみさんを傷つけたくない。大事にしたい。でも抱き続けたい。 馬鹿な関係を押しつけても軽蔑することなく優しく抱きしめてくれるあの腕 を失いたくない。 失いたくないと思ってしまうと余計に執着する感情が心を縛り付けがんじが らめになっていっているような気がしていた。 ****** その日、俺は雨が降っていないことを承知の上でみなみさんに声をかけた。 「みなみさん、今日仕事が終わったら、映画見に行きませんか?」 「え?」 彼女は案の定、驚いた表情を見せた。 「見たい映画があるんですよね」 「……」 俺は笑ってみたけれど、みなみさんは戸惑いが隠せないような表情をしてい る。 「今日は用事があったりします?」 「別に、ないけど……」 「じゃあ行きましょうよ、俺、奢りますから」 みなみさんは少し困ったような瞳を俺に向けてきたけれど、それが拒絶でな いと判り、言葉を重ねた。 「ね?」 俺の言葉に彼女は静かに頷いた。 何故、ためらうのだろう。 俺に飽きてきたから? 契約以上のことをしたくないから? そもそも俺と一緒に行動することが彼女にとって恥ずかしい行為だったりす るのだろうか。 出来損ないの人形を連れ歩いて面白い筈がない……。 判っている。 だけど何か少しでも、セックス以外で彼女を楽しませることが出来たのなら と考えたから俺はみなみさんを映画に誘ったのだけれど、上映中、彼女は終始 硬い表情でおおよそ楽しそうには見えなかった。 「あまり面白くなかったですか?」 上映後に、みなみさんに聞くと彼女は首を振った。 「ううん、面白かったわよ」 「そうですか? だったらいいんですけど」 本当は面白くなかったのかもしれない。 だけど彼女はそう言ってくれて、みなみさんの優しさが嬉しかったけれど哀 しくもあった。 出逢った頃のような無邪気な笑顔を最近は見なくなってしまっていた。 強く惹かれたあの柔らかく温かい笑顔を、俺がさせないようにしてしまった ……?。 関係を無理強いし、続けさせていることで彼女に負担をかけていると判って いるのに開放してあげようとは思わない自分のエゴに嫌気がさす。 手に持っていたジュースを飲み干してから俺は彼女に言った。 「帰る前にトイレに行ってもいいですか?」 「あ、じゃあ私も行ってくるわ」 「ロビーで待ってますね」 今日はみなみさんをどうこうしようというつもりはなかった。 いつもとは違う時間を彼女と共有したかった。 だけど共に過ごした時間を虚しく感じてしまうと彼女に触れたいと思う欲求 が強くなる。 (駄目だろ、これじゃあ……本当に、あいつと一緒だ) トイレで顔を洗い、首を振った。 頭を冷やせ。 鏡に映った自分の顔が母親に似ている筈なのにチチオヤそっくりに見えてし まいぞっとした。
>>>>>>cm:
仲の良い同僚だと思っていたのに…… |
執着する愛のひとつのカタチ |
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